銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】マンチェスター・バイ・ザ・シー

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-25
 

うんちく

第89回アカデミー賞主演男優賞脚本賞の2冠に輝き、ゴールデン・グローブ賞ほか世界各国の映画賞を総なめにした人間ドラマ。『ギャング・オブ・ニューヨーク』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたケネス・ロナーガンが監督・脚本を手がけた。ハリウッドを代表する俳優マット・デイモンがプロデューサーを務め、彼の親友ベン・アフレック実弟ケイシー・アフレックが主演を演じ、高く評価された。『ブロークバック・マウンテン』『ブルーバレンタイン』などに続き本作で4度目のアカデミー賞ノミネートを果たしたミシェル・ウィリアムズ、『ギルバート・グレイプ』の原作・脚本を手がけた脚本家・監督のピーター・ヘッジズを父にもつルーカス・ヘッジズらが共演。
 

あらすじ

アメリカ、ボストン郊外。アパートの便利屋として働くリー・チャンドラーのもとに、兄のジョーが倒れたという知らせが入る。車を飛ばして故郷のマンチェスター・バイ・ザ・シーに向かうが、ジョーはすでに息を引き取っていた。その後リーは、弁護士に兄の遺言を聞かされ、16歳になる兄の息子パトリックの後見人に指名されていることを知る。甥の面倒を見るため故郷の町に留まったリーは、誰にも心を開かず孤独に生きるきっかけとなった過去の悲劇と向き合わざるを得なくなるが…。
 

かんそう

当初、マット・デイモンが主演を務める予定だったらしい。マット・デイモンのことは大好きだが、本作の主演に限ってはケイシー・アフレックで本当に良かったと思っている。屈託無く笑いあう無邪気な日々を失い、十字架を背負って孤独に生きていく男の業(ごう)を体現するには、マットでは優等生過ぎるのだ。これは、生ぬるい「再生」の物語ではないし、陳腐な「贖罪」の物語でもない。どこか大人になりきれない雰囲気を持ち合わせているケイシーが、絶望とともに生きる「リー」という男の姿を全身全霊で演じきることで、人生には、どんなに時間をかけても乗り越えられないことや、折り合いをつけられない痛みや苦しみがあるのだと、我々に知らしめるのだ。ルーカス・ヘッジズ、ミシェル・ウィリアムズら、脇を固める俳優も素晴らしく、一切の無駄を廃したような脚本と演出、美しい音楽に彩られた端正な映像から、リーの心の痛みがヒリヒリと伝わってくる。それは静かに、心の奥深い場所で波紋のように拡がって、忘れがたい余韻を残す。今年を代表する傑作となるだろう。