銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】スリービルボード

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-08
『スリービルボード』(2017年 イギリス,アメリカ)
 

うんちく

何者かに娘を殺された主婦が、犯人を逮捕できない警察への抗議のため広告看板を設置したことで予期せぬ事態が起こっていくクライム・サスペンス。監督・脚本は、劇作家としてその才能を知られ、映画界でもアカデミー賞短編賞を獲得しているイギリス出身のマーティン・マクドナー。『ファーゴ』で主演女優賞を獲得したフランシス・マクドーマンドが主演を務め、『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』のウディ・ハレルソン、『コンフェッション』でベルリン国際映画祭男優賞を受賞したサム・ロックウェル、『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジズが脇を固める。ヴェネチア国際映画祭脚本賞トロント国際映画祭観客賞、ゴールデン・グローブでは作品賞ほか4部門に輝き、アカデミー賞でも受賞が期待されている。
 

あらすじ

アメリカ・ミズーリ州の田舎町エビング。さびれた道路に立ち並ぶ3枚の広告看板に、ある日突然、地元警察を批判するメッセージが現れる。広告主は、7カ月前に何者かに娘を殺されたミルドレッド・ヘイズ。一向に進展しない捜査状況に腹を立て、エビング広告社のレッド・ウェルビーと一年間の契約を交わして出した広告だった。町の人々に敬愛されているウィロビー署長を批判したことで、様々な嫌がらせや脅しに曝されるミルドレッドだったが、圧力に屈することなく逆襲に出る。そして事態は思わぬ方向に転がり始め……
 

かんそう

心の整理が追いつかない。あまりにもたくさんの思いが押し寄せてきて、心の奥をぎゅっと掴まれたままだ。「義人なし、一人だになし」という聖句の通り、完璧な善人は一人も出てこない。皆どこかが欠けていて、不完全で粗暴だったりする。誰にも共感しないのに、感情移入するから不思議だ。フランシス・マクドーマンドを筆頭に、その複雑な人間性を演じきった俳優陣が素晴らしい。巧みな構成ながら、無駄に煽ることをしない抑圧気味の演出で淡々と描かれる。脚本が非常によく練られており、シンプルなようで、何本もの糸が緻密に編み込まれた予測不能のストーリーに面食らう。”偶然”が何層にも重なって物語を紡ぎ出し、怒りと憎しみの果て、後悔と絶望を乗り越えた向こうに、救済と愛を見つける。ヒリヒリとした緊張感のなかにシニカルな笑いを織り込み、生きることの悲哀と可笑しみを、同時に映し出す。名匠カーター・バーウェルによるスコアと素晴らしい音楽、どこかやわらかな手触りの映像も美しい。愛おしい。あまりも愛おしい。きっと私は生涯、この映画のことを思い出すだろう。