銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】カード・カウンター

映画日誌’23-30:カード・カウンター
 

introduction:

タクシードライバー』などの脚本を手掛けたポール・シュレイダーが監督・脚本を手掛け、盟友マーティン・スコセッシが製作総指揮を務めたスリラー。『DUNE/デューン 砂の惑星』などのオスカー・アイザックが主演を務め、『レディ・プレイヤー1』のタイ・シェリダン、『幸せは、ここにある』などのティファニー・ハディッシュのほか、ウィレム・デフォーが脇を固める。2021年・第78回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(2022年 アメリカ)
 

story:

特殊作戦参加中にアブグレイブ捕虜収容所で罪を犯し、米国軍刑務所に服役した過去を持つ元上等兵ウィリアム・ティリッチ。独学で「カード・カウンティング」と呼ばれるカードゲームの勝率を上げる裏技を学び、出所後はギャンブラーとして生計を立て人生をやり直そうとしている。彼は過去に犯した罪の意識に心が苛まれ続けていたが、ギャンブル・ブローカーのラ・リンダ、父親の復讐を誓う青年カークとの出会いによって、自らの過去と向きあうことを決意する。
 

review:

ポスターなどのビジュアルからはギャンブルの勝ち負けが描かれるスリリングなサスペンスを想像してしまうが、全くそんな物語ではないしエンタメ要素ゼロのアンチカタルシス。何しろ『タクシードライバー』『魂のゆくえ』のポール・シュレイダー先生である。複雑な過去を持つ孤独なギャンブラー、ウィリアム・テルの復讐と贖罪の物語が、濁った瞳のオスカー・アイザック主演で鬱々と描かれて鬱ー!分かってたけど鬱・・・。
 
2004年、衝撃のニュースが世界中を駆け巡った。イラク戦争サダム・フセインの政権が崩壊した後、拘留施設として米軍が運営していたアブグレイブ刑務所において2003年10月から12月にかけ捕虜に対する著しい虐待がおこなわれていたのだ。本作の主人公ウィリアム・テルは、このアブグレイブ刑務所事件で有罪となり10年間服役。出所後は身につけたカード・カウンティングのスキルでギャンブラーとなるも、自らを罰するかのように禁欲的な生活を送っている。
 
自らが犯した罪の意識に苛まれつつも、拷問を命じた上官は罪に問われることなく、のうのうと暮らしていることへの怒り。『タクシードライバー』でロバート・デ・ニーロが演じた自称「ベトナム戦争帰りの元海兵隊員」トラヴィス、『魂のゆくえ』でイーサン・ホークが演じた息子を戦場で亡くした元従軍牧師トラーと同様、“アメリカの大義なき戦争”が生んだ社会矛盾の中で、心に深く傷を負った男の孤独な魂が描かれる。そう、これはシュレイダーによる痛烈なアメリカ批判だ。
 
おそらくウィリアムは、戦場から持ち帰ってしまった狂気やトラウマを飼い慣らすべく、虚無のなかで黙々と日々のルーチンをこなしている。そして同じくアブグレイブ刑務所での罪を背負い、薬物に溺れて自殺した父をもつ青年カークとの出会いが彼の運命を狂わせていくのであるが、人間の深淵に触れながら贖罪と赦し、救済が淡々とストイックな語り口で描かれる。シュレイダー節が相変わらず重いし鬱。だが、我々に問いを投げかける重要な作品であることは間違いない。
 

trailer: