銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】夜明けの祈り

f:id:sal0329:20170813235557p:plain

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-43
『夜明けの祈り』(2016年 フランス,ポーランド)
 

うんちく

第二次世界大戦末期、戦場で医療活動に従事したフランス人女性医師マドレーヌ・ポーリアックが遺したメモをもとに、1945年のポーランドで実際に起こった衝撃的な事件を描いたドラマ。『ココ・アヴァン・シャネル』『ボヴァリー夫人とパン屋』などのアンヌ・フォンテーヌが監督を務め、『待つ女たち』などのルー・ドゥ・ラージュ、『レンブラントの夜警』などのアガタ・ブゼク、『女っ気なし』『EDEN/エデン』などのヴァンサン・マケーニュが出演。第42回セザール賞で、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞にノミネートされた。
 

あらすじ

第2次世界大戦の傷痕が残る、1945年12月のポーランド赤十字の医療活動に従事するフランス人医師マチルドは、見知らぬ修道女から助けを求められ、遠く離れた修道院を訪ねる。そこで彼女が目の当たりにしたのは、戦争末期のソ連兵の暴行によって身ごもった7人の修道女たちが、その現実と神への信仰の狭間で苦しみにあえぐ姿であった。かけがえのない命を救おうと決意したマチルドは、激務の合間を縫って修道院に通い、彼女たちの希望の光となっていくが...
 

かんそう

第二次世界大戦末期、ポーランドでは大勢の女性たちがソ連軍兵士から性暴力を受けるという惨劇に遭ったのだそうだ。作品のモデルとなった修道院では、25人の修道女が性暴力を受け、そのうち20人が殺され、5人が妊娠したと言われている。ソ連軍による蛮行の被害者でありながら「貞節」の戒律を守れなかった自らを責め、罪悪感と羞恥心に苛まれて苦悩する修道女たち。多くを語らない彼女たちが味わった恐怖、信仰心と過酷な現実とのはざまで生じる壮絶な葛藤が、フランス人女医マチルドを通して描かれる。撮影監督カロリーヌ・シャンプティエの見事なカメラワークによって産み出される静謐で厳かな空気、美しい讃美歌の響きは、修道女たちの清らかさを際立たせ、その受難がもたらす深い闇とのコントラストを一層強くする。そしてその一方で「信仰」の名の下に行われる蛮行もあるのだと、ふいに突き付けられる。あまりにも残酷で無情だ。ひとつひとつ、心にずしりと重くのしかかるものが複雑に絡み合い、あらゆる問い掛けが頭のなかを駆け巡り、言葉にならない。深い余韻を残す、素晴らしい作品。