銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】5月の花嫁学校

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映画日誌’21-22:5月の花嫁学校
 

introduction:

フランスを代表するオスカー女優ジュリエット・ビノシュが、1960年代フランスの小さな村にある花嫁学校の校長を演じたコメディ。『ルージュの手紙』などのマルタン・プロヴォが監督・脚本を務める。『セラフィーヌの庭』などのヨランド・モロー、『カミーユ、恋はふたたび』などのノエミ・ルヴォウスキーらが共演し、本年度セザール賞助演女優賞にそれぞれノミネートされた。(2020年 フランス)
 

story:

1967年。美しい街並みとぶどう畑で有名なフランスのアルザス地方にあるヴァン・デル・ベック家政学校に、18人の少女たちが入学した。校長のポーレットは、迷信を信じる修道女マリー=テレーズ、義理の妹で料理長のジルベルトとともに彼女たちを迎え入れる。ある日、経営者である夫ロベールが莫大な隠れ借金を遺して急死。ポーレットは学校が破産寸前であることを知り、何とか窮地を抜け出そうを奔走する。そんな中、パリで5月革命が起き...。
 

review:

革命の国フランスの「自由、平等、博愛」は男女にかかわらず与えられたものかと思いきや、フランス女性が強くなったのは「Mai 68(1968年の5月革命)」以降だと言う。フランス映画に出てくる恋愛至上主義でエモーショナルで主張がハッキリした強い女性像(これもきっとステレオタイプだが)からは想像もつかないが、それ以前は、封建的な家父長制のもとで子を産み夫を支えるのが美徳とされ、夫の承諾無しでは貯金すら下ろせなかったという。
 
女性が抑圧されていたのは地球規模だったんだなぁ。そんな当たり前のことを目の当たりにさせられる本作は、5月革命前夜、美しい街並みとぶどう畑で有名なアルザス地方の花嫁学校が舞台だ。ピンクのスーツで身を固めたポーレット校長を演じるジュリエット・ビノシュが、前時代的価値観の「女性としての幸せは良妻賢母説」を力説するが、もはや完全にギャグである。
 
そのほか、「迷信を信じる一方で、戦時中はレジスタンスとして戦った熱き修道女」「夢見る少女のまま中年になったギックリ腰気味の料理の先生」という濃いキャラクターが脇を固めており、随所で笑わせてくれる。夫を亡くしたポーレットさん、第2次世界大戦で死に別れたはずの恋人アンドレとの焼け棒杭に火が付き、いい大人が草原を追いかけっこしてるのもギャグだろう・・・。
 
しかし、学校再建のために経営を学ぶうちに、亡き夫がいかに旧弊な価値観で自分や妹を「家」に縛り付けてきたかに気付いたポーレット。女性解放運動の風を感じ始めていた生徒たちの行動に触発され、自分らしい生き方に目覚めていく。ふいに扉が開く。女性が解放されていくメタファーがいい。女たちが自由に生きる権利を全身でのびやかに宣言する、ラストシーンが突拍子もなくていい。
 
5月革命は、人々の装いを変え、フランスを変えた。作品に登場する花嫁学校は数多あったが、1968年5月以降に存続したものが一つもないそうだ。こうして闘ってきた女性たちがいて、今がある。そして本当の多様性が求められている今だからこそ、改めてその歴史に触れ、エンパワーメントされたい。素敵な映画であった。
 

trailer: