銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】パパは奮闘中!

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-27
『パパは奮闘中!』(2018年 ベルギー,フランス)
 

うんちく

母親が家族のもとを去り、残された父親が仕事と育児に悪戦苦闘しながらも、子供たちと絆を深めていく姿を描いた人間ドラマ。監督は、長編映画初監督作となる『Keeper』が各国の映画祭で称賛されたギヨーム・セネズ。長編2作目となる本作も、第71回カンヌ国際映画祭批評家週間に出品、第36回トリノ国際映画祭で観客賞受賞、第26回ハンブルグ国際映画祭で批評家映画賞受賞、ベルギー版アカデミー賞といわれる2019年ベルギー・マグリット賞で5部門を制するなど、欧州を中心に注目を集めた。『タイピスト!』などのロマン・デュリスが主演を務め、『若い女』などのレティシア・ドッシュ、『女っ気なし』などのロール・カラミーらが共演している。
 

あらすじ

オンライン販売の倉庫で働くオリヴィエは、妻のローラと幼い二人の子供たちの4人で幸せに暮らしていたが、ある日突然、妻が家を出て行ってしまう。それまで妻に任せっきりで慣れない育児と家事に追われながら、職場でも様々な問題やトラブルが山積している状況で、妻を捜すオリヴィエ。しかし彼女の行方も姿を消した理由も一向に分からない。そんな彼のもとにある日、妻の妻の生まれ故郷ヴィッサンから一通のハガキが届き...
 

かんそう

さて、この『パパは奮闘中!』という、頭が痛くなるような邦題を私は許さない・・・。ダサい邦題に物申す委員会の事案である。作品の本質が見えなくなるような、メッセージを歪めてしまうような邦題はギルティ。百歩譲って、突然シングルファザーになってしまったパパが子育てに奮闘するだけの映画なら、そのタイトルでもいいだろう(←えらそう)。Amazonの倉庫みたいなところで働いているお父ちゃん、チームリーダーとして労働組合員として、劣悪な労働環境やリストラからスタッフを守るため闘っている。不器用ながら子どもたちと向き合い、子どもたちも母親がいなくなった喪失感と闘う。人生には様々な闘いがあり、みんな闘っている。原題の通り、”Nos Batailles(私たちの戦い)” なのだ。ドメスティックな人間模様を描くだけの作品ではなく、個人と社会の闘いを描いている。社会派ドラマの側面を持つこの物語は、実にリアリティがあり、生々しいドキュメンタリーを観ているような感覚に陥る。それもそのはず、驚くべきことに、監督が出演者に台本を渡さなかったそうだ。子役も含めて、セリフはすべてアドリブだったとのこと。「あらかじめ決まったセリフが無い状態で演技をするということは、役者が全身全霊をかけて自分を捧げなければいけないし、役柄に飛び込まなければいけなかった」と、オリヴィエ役のロマン・デュリスがインタビューで答えている。好き嫌いはともかく、興味深い作品だった。