銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ベネデッタ

映画日誌’23-12:ベネデッタ
 

introduction:

氷の微笑』『エル ELLE』などの鬼才ポール・バーホーベン監督が「ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア」を原案に、17世紀に実在した修道女ベネデッタ・カルリーニを描くサスペンス。幼くしてカトリック教会の修道女となった女性が、聖痕や奇蹟によって民衆から崇められる一方、同性愛の罪で裁判にかけられる。主演は『エル ELLE』にも出演しているヴィルジニー・エフィラ。『さざなみ』のシャーロット・ランプリング、『マトリックス』シリーズのランベール・ウィルソン、『ファイブ・デビルズ』のダフネ・パタキアらが共演する。2021年・第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。(2021年 フランス/オランダ)
 
story:
17世紀イタリア、ペシアの町。幼い頃から聖母マリアと対話し奇蹟を起こす少女とされていたベネデッタは6歳で修道院に入る。純粋無垢なまま成人した彼女はある日、修道院に逃げ込んできた若い女性バルトロメアを助ける。やがて二人は秘密の関係を深めていくが、同時期に聖痕を受けたベネデッタはイエスに娶られたとみなされ、新たな修道院長に就任。民衆に聖女と崇められ、権力を手にするが...
 

review:

ロボコップ』『トータル・リコール』『氷の微笑』『ショーガール』『スターシップ・トゥルーパーズ』『インビジブル』『エル ELLE』と、過激な暴力描写と性描写、倒錯的で変態的で俗悪で下劣で滑稽で悪趣味な作風で知られるオランダ出身の鬼才ポール・バーホーベン先生、御歳85歳の新作(問題作)が例によってカンヌを騒然とさせたそうな。
 
本作は「メディチ家雑録」に遺された裁判記録をもとに再構成されたベネデッタ・カルリーニの物語「ルネサンス修道女物語 聖と性のミクロストリア(J.C.ブラウン著)」を元に、17世紀に実在した修道女を描いている。彼女は幼い頃からキリストのビジョンを見続け、聖痕や奇蹟を起こし民衆に崇められ権力を手にした一方で、同性愛の罪で裁判にかけられたという。
 
ベネデッタの物語の独特な性質に惹かれたんだ。17世紀初めに修道女の同性愛についての裁判があったこと、裁判の記録や本書のセクシュアリティの描写がとても詳細なことにも感銘を受けた。そして、完全に男が支配するこの時代に、才能、幻視、狂言、嘘、創造性で登り詰め、本物の権力を手にした女性がいたという点だ。私の映画の多くは女性が中心にいる。つまり、ベネデッタは『氷の微笑』『ショーガール』『ブラックブック』『エル ELLE』のヒロインたちの親戚というわけさ。——ポール・バーホーベン
 
清濁合わせ呑む、というのが正しい表現なのか分からないが、まあ奇想天外でエロ、サスペンスそしてファンタジー全部盛りである。欲求不満のベネデッダさんが見る蛇の幻想はどこか馬鹿馬鹿しく、私の嫁になれ〜つってベネデッタさんとランデブーするイエス・キリストもまるで威厳がなく、なにもかも胡散臭い。失笑しつつ、いくらなんでもバチカンに怒られんぞって思ったけど、やっぱり世界中のカトリック信者が怒っているらしい。そらそうだ。しかしこれは神への冒涜などではなく、徹頭徹尾、愚かで滑稽な人間の有り様を描いているだけだ。
 
ベネデッタさん、完全に今で言う演技性パーソナリティ障害ですやん・・・と思いながら観ていたはずなのに、やがて聖女なのか狂女なのか分からなくなり、自作自演の狂言と知りながら彼女が起こした奇蹟はもしかしたら本物だったのかもしれないと一瞬よぎってしまうのがバーホーベン先生の罠。そしてベネデッダが民衆を魅了し、権力を手にしたカリスマ性と狂気なのである。バーホーベンにしか撮れないバーホーベンの真骨頂、しかと見届けた。みんなも観たらいいと思うけど、いいか、真面目に観ちゃだめだ。
 

trailer: