銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ブラックバード 家族が家族であるうちに

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映画日誌’21-23:ブラックバード 家族が家族であるうちに
 

introduction:

ビレ・アウグスト監督によるデンマーク映画『サイレント・ハート』の脚本を担当したクリスチャン・トープ自らアメリカを舞台に移して脚色し、『ノッティングヒルの恋人』などのロジャー・ミッシェルが監督を務めた人間ドラマ。安楽死を選択した母と最後の時間を過ごす家族の姿が描かれる。『デッドマン・ウォーキング』のスーザン・サランドン、『愛を読むひと』のケイト・ウィンスレットというオスカー女優同士が共演し、『ジュラシック・パーク』シリーズなどのサム・ニール、『ボヴァリー夫人』などのミア・ワシコウスカらが脇を固める。(2019年 アメリカ,イギリス)
 

story:

ある週末、医師のポールとその妻リリーが暮らす海辺の邸宅に娘たち家族が集まってくる。病が進行し、体の自由が奪われていくリリーは安楽死を選択し、家族と最後の時間を一緒に過ごそうとしていたのだ。長女ジェニファーと夫マイケル、15歳の息子のジョナサン。長らく連絡が取れなかった次女アンナとオンオフと繰り返している恋人のクリス。そしてリリーの一番の親友リズがやってくる。ジェニファーは母の決意を受け入れているが、次女アンナは納得しておらず、一発触発のムードが漂う。平静を装いながら母リリーの願いである最後の晩餐を共にする彼らだったが...
 

review:

名優スーザン・サランドン演じる母の尊厳死と向き合う家族の物語だ。病名は語られないが、おそらくALS(筋萎縮性側索硬化症)なのだろう。じきに自発呼吸が難しくなるという局面で安楽死を望んだ母を看取るため、家族が集まり最後の週末を過ごす。すっかり貫禄がついたケイト・ウィンスレットのお尻に親近感を覚えつつ、ロジャー・ミッシェル監督の濃密な人間ドラマを堪能する。
 
長女ジェニファーは母リリーの選択を受け入れているが、心に闇を抱える次女アンナは母を失う覚悟ができない。母リリーはその週末「よき家族」を演出し、美しい思い出だけで旅立とうとしている。しかし遺される側の家族は、綺麗ごとだけではない現実を抱えて葛藤し、穏やかな死を望む母を目前に鬱憤をぶつけ合う。
 
脚本が秀逸だ。複雑な感情が渦巻く家族の人間模様が、静謐な語り口で描かれる。穏やかなタッチで淡々とした会話劇が続くが、不思議と中弛みせずに観ていられる。明かされていく家族の秘密と少しのユーモアが緩急とドラマをもたらし、思いがけない展開に息を呑んだりもする。こうしたドラマにありがちな説教くさいセリフがないところも良い。美しい海辺の風景に癒され、”Tonight You Belong to Me”のメロディが心に深い余韻を残す。いい映画だった。
 

trailer: