銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】すべてうまくいきますように

映画日誌’23-07:すべてうまくいきますように
 

introduction:

8人の女たち』『グレース・オブ・ゴッド 告発の時』などで知られるフランスの名匠フランソワ・オゾンが、『スイミング・プール』などでタッグを組んだ脚本家エマニュエル・ベルネイムの自伝的小説に基づき、尊厳死を望む父と娘の葛藤を描く人間ドラマ。『ラ・ブーム』のソフィー・マルソーが主演を務め、『恋するシャンソン』などのアンドレ・デュソリエ、『17歳』などのジェラルディーヌ・ペラスの他、『まぼろし』などオゾン監督作品常連のシャーロット・ランプリングらが共演する。第74回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品。(2021年 フランス/ベルギー)
 

story:

小説家のエマニュエルは、85歳の父アンドレが倒れたという知らせを受け病院に駆けつける。脳卒中で身体の自由がきかなくなった父から、人生を終わらせるのを手伝ってほしいと頼まれたエマニュエル。戸惑う彼女は父の考えが変わることを期待しながらも、合法的な安楽死を支援するスイスの協会と連絡を取り合う。一方でリハビリが功を奏し、順調に回復するアンドレは生きる希望を取り戻したかのように見えたが...
 

review:

フランスの名匠フランソワ・オゾンが描く、安楽死をめぐる家族の物語だ。オゾン監督作品『まぼろし』『スイミングプール』などの脚本も手掛けた小説家エマニュエル・ベルンハイムが父親の安楽死の経緯を綴った回想録「TOUT S'EST BIEN PASSE(すべてがうまくいった)」が原作。残念ながらエマニュエルは2017年に他界しており、オゾンが長年の友人に贈った最後のギフトでもある。
 
延命治療を施さずに自然な最期を迎える「尊厳死」と異なり、人為的に死を招く「安楽死」は日本では犯罪となるが、スイスでは70年前に自殺幇助が合法化されており、年間1500人超が死を選択するという。2022年9月、フランス映画界ヌーベルバーグの旗手ジャン=リュック・ゴダールがスイスの自殺幇助団体の助けにより、91歳で自ら人生を終えたニュースも記憶に新しい。
 
芸術や美食を楽しみ、美しい人生を愛した父アンドレ脳卒中により身体の自由を失った彼は「そうではなくなった」自分のまま生き存えることを拒絶する。二人の娘たちは戸惑い葛藤しながら、父の”最期”と向かい合う。そして本作の舞台であるフランスでも安楽死は非合法だ。最期の日を決めた父と娘たちに様々な問題が立ちはだかり、オゾンらしいサスペンスフルな展開も待ち受ける。
 
「死」という重いテーマながら、エスプリとユーモアを織り込んだ脚本と演出で軽やかに描き、圧倒的な映像美と巧みなストーリーテリングで引き込んでいく。物語を展開させながら一人一人の人物像と絡み合う人間関係をゆっくりと浮かび上がらせ、少しずつ人間の不思議を紐解いていくような語り口が見事だった。父娘の旅路に寄り添いながら、人間の尊厳とは何か、自分そして愛する人の最期を受け入れること、家族の愛について考えた。
 
フランソワ・オゾンの恐るべき才能につくづく感服する。実に幅広いジャンルやテーマに取り組み、作品ごとに作風すら変化し毎度驚かされる。それでいていずれの作品も「人間」を生々しく映し出し、オゾンの仕事であることを強烈に印象づけられ、必ず魅了されるのだ。萩尾望都みたいだなぁ。佳き作品と出逢った多幸感で、しばらくその余韻を噛み締めている。んで、ソフィー・マルソーが相変わらず素敵。
 

trailer: