銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】シシリアン・ゴースト・ストーリー

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-86
シシリアン・ゴースト・ストーリー』(2017年 イタリア,フランス,スイス)
 

うんちく

1993年にシチリアで起きた誘拐事件をモチーフにしたラブストーリー。突然姿を消した同級生の行方を追う13歳の少女が、事件の真相に切り込んでいく様子を幻想的に描く。2017年カンヌ国際映画祭批評家週間のオープニング作品に選出され、イタリア・アカデミー賞脚色賞をはじめ、イタリアの主要映画賞を多数受賞。監督・脚本は、デビュー作『狼は暗闇の天使』が2013年カンヌ国際映画祭批評家週間でグランプリに輝いたファビオ・グラッサドニアとアントニオ・ピアッツァ。共にこれが映画デビュー作となるガエターノ・フェルナンデスとユリア・イェドリコフスカが主演を務める。
 

あらすじ

美しい自然に囲まれたシチリアの小さな村。同級生の少年ジュゼッペに思いを寄せている少女ルナは、想いを綴った手紙を渡そうと、乗馬の練習のために森へ向かう彼のあとを追う。二人の仲が深まろうとした矢先、ジョゼッペは突然、姿を消してしまう。ルナは謎だらけの失踪を受け入れられず、周囲の大人たちが口をつぐむなか、必死にジョゼッペの行方と事件の真相を追うが...
 

かんそう

イタリアといえばマフィア、『ゴッドファーザー』の国である。イタリア南部のシチリア島を起源とする組織犯罪集団で、いまや政財界と結びついて絶大な権力を持つと言われている。ちなみにバナナ・フィッシュに出てくるゴルツィネはコルシカ島を起源とするコルシカ・ユニオンなので厳密に言うとマフィアではない。さて、本作は1993年にシチリアで実際に起きた「ジュゼッペ事件」を題材にしている。マフィアの頭領ジョヴァンニ・ブルスカは、密告者サンティーノを口を封じるため、12歳になる息子ジョゼッペを誘拐し、25ヶ月間監禁。ジュゼッペは鎖と目隠しをつけられたままシチリア各地の監禁場所を転々とし、1996年1月11日の夜に絞殺され、その亡骸は硫酸に投げ込まれた。ネタバレやん!と思ったかもしれないが、実際のところ、この背景を知らずにこの作品を理解することは難しく、おそらく事件を知っている前提で作られている。シチリア人なら誰でも知っている事件なのだ。シチリア出身の監督二人は、この衝撃的な事件のことを忘れてほしくないという思いでこの作品を撮ったのだそうだ。シチリアには、マフィアに関して見て見ぬふりをする文化があり、誰もが口をつぐんでしまう。そんななか、勇気を振り絞って声を上げるルナの存在はフィクションとのことだが、この冷酷非道な事件に甘酸っぱい初恋の物語を付与することで、凄惨な最期を遂げたジョゼッペの魂を救済せんとする製作者の叫びのようなものが伝わってきて、切ない。ただなー、個人的な好みの問題なので、これからこの作品を観る予定の方はどうか気にしないでいただきたいのだが、やたら低音ボイスのルナがあんまり可愛くなかった。その点、不満である。って、おっさんか。
 

【映画】メアリーの総て

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-85
『メアリーの総て』(2017年 イギリス,ルクセンブルク,アメリカ)
 

うんちく

ゴシック小説の金字塔「フランケンシュタイン」誕生から200年、原作者メアリー・シェリーの波乱に満ちた人生を、エル・ファニング主演で映画化。監督は『少女は自転車にのって』が第86回アカデミー外国語映画賞にノミネートされた、サウジアラビア初の女性映画監督ハイファ・アル=マンスール。『ゴッホ 最期の手紙』などのダグラス・ブース、『パイレーツ・ロック』などのトム・スターリッジ、『マイ・プレシャス・リスト』などのベル・パウリーらが共演している。
 

あらすじ

19世紀、イギリス。無神論者でアナキズムの先駆者である父親の教育、フェミニズムの先駆者である母親の存在から影響を受け、小説家を夢見ているメアリーは、”異端の天才詩人”と噂されるパーシー・シェリーと出会う。二人は互いの才能に強く惹かれ合うが、パーシーには妻子がいた。家族の反対を押し切り、情熱に身を任せて駆け落ちした二人だったが、メアリーは数々の悲劇に見舞われてしまう。失意のなか、夫と義妹とともに滞在していた詩人バイロン卿の別荘で、怪奇談を披露しあうことになり...
 

かんそう

パーシー・シェリー、パッと見は王子キャラなのに、二度見したら青ヒゲ濃い!バイロン卿もめっちゃキャラ濃い!と、そんなことばかりに気を取られがちだったが、ゴシック小説の古典的名作「フランケンシュタイン」が誕生した背景は実に興味深く、反骨心と知性を併せ持ち、数奇な運命に翻弄され続けたメアリー・シェリーを体現したエル・ファニングが見事だった。本作では、1816年夏のレマン湖畔、文学史に残る伝説の一夜「ディオダティ荘の怪奇談義」が再現されている。嵐の夜に暇を持て余して「怪談しようぜ!」っていうのが『フランケンシュタイン』『吸血鬼ドラキュラ』という歴史に残る二大怪物誕生のきっかけとなったのだから、「ディオダティ荘」とはすなわち「トキワ荘」である。ちなみに『吸血鬼ドラキュラ』の著者ジョン・ポリドリ医師を演じたのは、『ボヘミアン・ラプソディ』でロジャー・テイラーを演じたベン・ハーディ。なかなか報われない気の毒な役柄であったが、こっちは「あ、ロジャーじゃん!」って気が気でなくなるしな。って、そんなことはどうでもいい。「フランケンシュタイン」を書き上げたときメアリーが弱冠18歳だったということにも驚かされるが、家庭ではソリの合わない継母に抑圧され、才能はあるけど生活力のない妻子ある詩人と駆け落ちするも、自由恋愛を掲げてヨメの義妹にも手を出すクズ夫に翻弄されつつ借金まみれ、産まれてきたばかりの我が子を失い・・・と、ここまでが18歳なのである。そりゃ悲しみの淵からモンスター生まれるわ。エル・ファニングもまだ20歳であることに気付いて、ぼんやり生きててすみませんという気持ちになっている。
 

【映画】マイ・サンシャイン

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-84
『マイ・サンシャイン』(2017年 フランス,ベルギー)
 

うんちく

デビュー作『裸足の季節』がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督が、1992年のロサンゼルス暴動に巻き込まれていく家族を描いたドラマ。『チョコレート』でオスカーを獲得したハル・ベリーと、『007』シリーズのジェームズ・ボンド役で知られるダニエル・クレイグが共演。アメリカ史に深い傷を残したロサンゼルス暴動を、普通の家族の視点から描く。
 

あらすじ

1992年、ロサンゼルス・サウスセントラル。事情があり家族と暮らせない子供たちを育てるミリーは、貧しいながらも愛情の溢れる幸せな家庭を築いている。隣人オビーは騒々しいミリーたちに文句をつけながらも、実は彼らを優しく見守っていた。そんななか、黒人が犠牲となった事件で不当な評決が下されたことから暴動が勃発。その影響で、ミリーたちの生活にも変化が訪れるが…。
 

かんそう

日本の配給会社はどうしてダメな邦題をつけるのか問題案件である。マイ・サンシャイン・・・どこをどう発想したら、この硬質な社会派ドラマが、こんな爽やかなタイトルに・・・配給会社はギルティ。タイトルが物語を正確に伝えてないので、ほのぼのファミリードラマを期待して観に行った観客からのレビューが散々でも仕方なし。原題の”KINGS”は、1992年のロドニー・キング事件、そしてアフリカ系アメリカ人公民権運動のシンボルであるキング牧師のことも指しているだろう。この作品は、15歳のアフリカ系アメリカ人の少女が食料品店の韓国系女店主によって殺害されたラターシャ・ハーリンズ射殺事件、26歳のアフリカ系アメリカ人青年が、スピード違反でLA市警から追跡された末、警官数人に殴打されたロドニー・キング事件の評決結果を発端として、サウスセントラルから発生したロサンゼルス暴動を舞台にしている。50名を超える死者、4,000人の逮捕者、3,600件の火災が発生、1,100の建物が破壊され、根深い人種問題、陪審制の是非など、暴動の背景にある多くの問題が浮き彫りとなった。この事件を背景に、ある一家が日常を積み重ねていくさま、その崩壊の顛末が描かれる。当時の様相がドキュメンタリーのように差し込まれ、その時代に生きる若い世代の思春期の葛藤とともに、虐げられてきた黒人の怒りと鬱憤が映し出される。その悪夢は今なお続き、キング牧師暗殺から50年、何も変わっていない。やりきれない思いに心が覆われるが、ミリーという女性の存在がほんの少しの救済を与えてくれる。監督がシナリオハンティングで訪れたサウスセントラルで何人もの子供たちをホストマザーとして育てている女性ミリーと出会ったことから、この物語が生まれたのだそうだ。ミリーを演じたハル・ベリーの、今年52歳とは思えない内面から溢れ出す美しさと、べらんめえ口調のダニエル・グレイグが楽しめる。ダニエル・グレイグが好きすぎて『007』を観るようになったクチであるが、ジェームズ・ボンドじゃないダニエル・グレイグにはあんまり興味がないことに気がついたりしたのであった・・・。
 

【映画】マダムのおかしな晩餐会

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-83
『マダムのおかしな晩餐会』(2016年 フランス)
 

うんちく

身分を隠して晩餐会に出席したメイドが、客の紳士に一目ぼれされることから騒動が起こるラブコメディ。『リトル・ミス・サンシャイン』などのオスカー女優トニ・コレット、『レザボア・ドッグス』などの名優ハーベイ・カイテルペドロ・アルモドバル監督作品の常連ロッシ・デ・パルマ、ドラマ『女王ヴィクトリア 愛に生きる』などのトム・ヒューズら、個性的なキャストが顔をそろえる。監督は新鋭アマンダ・ステール。
 

あらすじ

パリに引っ越してきた裕福なアメリカ人夫婦アンとボブは、セレブの友人たちを招いて晩餐会を開こうとするが、急にやってきたボブの息子が加わり、招待客の数が不吉な13人になってしまう。アンは急きょスペイン人メイドのマリアを「ミステリアスなレディ」に仕立て上げ、晩餐会に同席させることに。緊張のあまりワインを飲みすぎたマリアは下品なジョークを連発するが、場違いなはずの彼女がなぜか英国紳士に気に入られてしまい...
 

かんそう

ブルジョワジーが移民を見下しているだけの、なんとも胸糞が悪くなる悪趣味な映画だった。振り返り、観るんじゃなかったと思っている。この作品で誰が喜ぶのか分からないし、日本にこの映画を持ち込んだ配給会社は何を考えているのだろうと怒りにも似た感情が湧いてくるが、ただ、これが現実なのだろう。監督は今そこにある世界のリアルを切り取ったに過ぎないのだ。これが虚飾と欺瞞に満ちたブルジョワジーへの壮大な皮肉だと考えると、なるほどと腹落ちする。これは、格差社会や人種差別の不条理を描いたブラックユーモアなのだ。全体を覆うコミカルな雰囲気とは程遠い、ブルジョワジーによる差別と偏見がこもった台詞の応酬は毒気にあてられてしまうが、そのアンバランスさがかえって彼らの不愉快な人間性を際立たせる。まともな人間は、本当の幸せや豊かさが何かを知っているメイドたちだけだ。おそらくは金目当てで年の離れたセレブと結婚し、パリの社交界で見栄を張りながら生きている物質主義のアメリカ女を嫌味たっぷりに演じきったトニ・コレットは、やっぱり素晴らしい俳優だということだ。だけどな、おいら、ロマンチックコメディという触れ込みを信じて、ひたすら楽しい気持ちになりたくて映画館に行っただよ。こりゃ全然ロマンチックコメディじゃないべ?配給会社はギルティ。あの日の私に謝りなさい。颯爽と歩き出すマリアの未来が、ハッピーエンドだったと信じたい。
 

【映画】マチルダ 禁断の恋

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-82
『マチルダ 禁断の恋』(2017年 ロシア)
 

うんちく

ロシア帝国最後の皇帝ニコライ2世と、マリインスキー・バレエ団の伝説のプリマとして謳われたマチルダ・クシェシンスカヤの禁断の恋を描いたラブストーリー。監督は『爆走機関車 シベリア・デッドヒート』でゴールデン・グローブ賞外国語映画賞にノミネートされたアレクセイ・ウチーチェリ、『ブルーム・オブ・イエスタデイ』『パーソナル・ショッパー』などのラース・アイディンガー、『ゆれる人魚』のミハリナ・オルシャンスカが出演。エカテリーナ宮殿やマリインスキー劇場、ボリジョイ劇場などの実際のローケションでの撮影、世界三大バレエ団であるマリインスキー・バレエ団の壮麗な舞台が再現されている。本国ロシアでは作品をめぐり、皇帝の名誉を傷つけるとして賛否両論が飛び交い、上映館の放火を警告するキリスト教過激派組織も登場、センセーショナルな話題作となった。
 

あらすじ

19世紀後半のロシア・サンクトペテルブルクロシア帝国の次期継承者ニコライ2世は、世界的なバレリーナのマチルダを一目見た瞬間恋に落ち、二人は惹かれ合うようになる。しかし彼にはイギリスのヴィクトリア女王の孫娘でアリックスという婚約者がいた。やがて父皇帝の死による王位継承、政略結婚、外国勢力の隆盛、そして終焉に向かうロシア帝国の暗い影が、二人の恋を引き裂こうとしていた...
 

かんそう

絢爛豪華!皇帝と恋に落ちるバレリーナ!でも皇帝には幼い頃に定められた許嫁が!横恋慕する男たち!めくるめく官能、愛を貫こうとする二人に立ちはだかる身分の壁、渦巻く嫉妬と憎悪!マッドサイエンティストによる呪いの儀式!最後はよく分からんけど1970年代の少女漫画(黄金期)と完全に一致!という映画でした。現場からは以上です。というわけで、実在したマチルダ・クシェシンスカヤについて調べてみたところ、たいしたタマである。ニコライ二世が即位して政略結婚したあとは、二股かけつつ皇族や貴族の人脈で財産を蓄え、ロシア革命が起きるとフランスに亡命して違う貴族と貴賎結婚。身分制社会における貴賎結婚という概念を改めて調べてみると、まず社会的に許されないものであり、身分差が大きい場合には正規の結婚ができず、公式または非公式な側室・愛人・妾にすることが可能だったと。江戸の大奥も似たようなものだが、マチルダさんがニコライさんの妻になるなんて生まれ変わらないと無理。という話だったのだ。一方その頃日本では、倒幕から28年が経ち、日清戰争が終わって下関条約を結んだり、樋口一葉が「たけくらべ」を発表したりしておったのじゃ。ニコライ二世の戴冠式には明治天皇の名代として伏見宮貞愛親王(陸軍少将)、特命全権大使として山縣有朋が出席したそうじゃ・・・。ちなみにニコライ二世はロシアで約300年続いた王朝、ロマノフ朝ラストエンペラー。ロシア国内では「聖人」として神格化されているが、ロシア革命後、レーンンの命により一族もろとも銃殺されている。戴冠式の場面では一族が辿る不吉な運命を予感させるシーンが挿入されている。ニコライ二世は享年50歳。亡命したフランスで99歳まで生きたマチルダさん最強説である。なお、この物語でニコライさんが許嫁に抱いていた感情は史実と異なるようである。何が言いたいかって、少女漫画風味歴史不倫エンターテイメントと捉えると、まこと見応えがあり楽しめる作品であった。
 

【映画】パッドマン 5億人の女性を救った男

 

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-81
『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018年 インド)
 

うんちく

清潔で安価なナプキンを低コストで大量生産できる機械を発明し、かつ女性たち自らがその機械で製造したナプキンを女性たちに届けるシステムを生み出し、多くの女性に働く機会を与えたインド人男性の実話をベースにしたドラマ。モデルとなったアルナーチャラム・ムルガナンダム氏の活動は高く評価され、2014年に米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたほか、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリが授与されている。監督は『マダム・イン・ニューヨーク』の監督ガウリ・シンデーの夫で、同作のプロデューサーも務めたR.バールキ。『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』などのアクシャイ・クマール、『ミルカ』などのソーナム・カプールらが出演。
 

あらすじ

インドの田舎町で小さな工場を共同経営するラクシュミは、新妻ガヤトリが生理の際に不衛生な古布を使っていることを知り、ショックを受ける。市販の生理用ナプキンは高価で買えない妻のため、清潔で安価なナプキンを作ることを思いつき、研究とリサーチに没頭するラクシュミ。男性が“生理”について語るだけでも奇異な目で見られるインド社会において彼の行動は非難され、やがて追われるように村を去り、妻と離れ離れになってしまう。それでも諦めることをしなかったラクシュミは、ある素材に出会い、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。そして彼の熱意に賛同した先進的な女性パリーとの出会いによって、運命が大きく回りだすが...
 

かんそう

そのテクノロジーは誰かを幸せにしているか——起業家が身近に多い環境にあって、時折耳にする言葉だ。イノベーションという言葉が形骸化し、陳腐化しつつある今日この頃だが、それは”イノベーション”そのものを目的にしてしまい、且つ金儲けの手段にしようとする手合いが増えたからだろう。そこにイシューはない。いままさにイノベーションを起こさんとしている人は、おそらく自らがイノベーションを起こそうとしていることを意識していない。彼らの焦点はそこになく、イノベーションは行動による結果でしかないからだ。「妻を幸せにしたい」という一心で、迫害に耐えながら低コストのナプキン製造機を発明。それがインド工科大学で「草の根テクノロジー発明賞」を受賞し評価されるも、自分の利益など顧みず「一人でも多くの女性を幸せにしたい」と簡易ナプキン製造機を作っては女性の自助グループに販売し、起業と意識改革をうながした男。そのテクノロジーが最新でなくてもいい。流暢な英語でスピーチできなくてもいい。「誰のために、何を成し遂げたか」ということが大切なのだ。ラクシュミことムルガナンダム氏こそ、イノベーターと呼ぶにふさわしい。泣いた。男泣きに泣いた。作品そのものは、実にボリウッド映画らしいボリウッド映画である。テンポよく飽きさせないが長尺、ご都合主義でとりあえず歌い踊る。ラクシュミがお花に囲まれてナプキン作りに勤しむ姿は神々しくもある。しかし、ボリウッドを敬遠しがちな方であっても、ラクシュミの生き様に感動させられること受け合い。ぜひ、この”イノベーション”の目撃者になっていただきたい。
 
「すべては、妻への思いから始まったんです。妻が苦しんでいるのを目にして、タブーによってそうなっていると思いました。インドにはタブーがたくさんある。それを変えたい。それがそもそもの動機だった」
「神様がつくった地上で一番強い強い存在は、象でも虎でもなく、女性なんだと。だからこそ、僕は女性たちの役に立つために絶対にギブアップしてはいけないと、気持ちを持ち続けることができた」——アルナーチャラム・ムルガナンダム
 

【映画】セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-80
セルジオ&セルゲイ 宇宙からハロー!』(2017年 スペイン,キューバ)
 

うんちく

実在する元宇宙飛行士で“最後のソビエト連邦国民”と呼ばれたセルゲイ・クリカレフをモデルに、国境を越えた友情を描くバディ・コメディ。政変の煽りを食らい地球帰還が何度も延期された宇宙飛行士を救うため、キューバの大学教授が奔走する。アカデミー賞外国語映画賞に選出された『ビヘイビア』などで知られるキューバを代表する監督エルネスト・ダラナス・セラーノがメガホンを取り、キューバ人俳優トマス・カオ、ヘクター・ノアのほか、『ヘルボーイ』シリーズなどのロン・パールマンらが出演。第7回パナマ国際映画祭で観客賞を受賞したほか、正式出品されたトロント国際映画祭などで高い評価を得た。
 

あらすじ

東西冷戦末期の1991年。ベルリンの壁崩壊が引き金となった社会主義陣営崩壊はソビエト連邦を飲み込み、ソ連の友好国であるキューバ共和国はその余波の煽りで深刻な経済危機に苦しんでいた。モスクワの大学でマルクス主義哲学を修め、大学で教鞭を執るエリート共産主義者セルジオも生活苦にあえいでいたが、ある日、宇宙からの無線を受信する。それは、ソ連が誇る国際宇宙ステーション「ミール」に長期滞在中の宇宙飛行士セルゲイからだった。彼らは無線での交信を通じて友情を育むが、ソ連の崩壊によってセルゲイが帰還無期限延長を言い渡されたことを知ったセルジオは...
 

かんそう

2005年の「NO BORDER」というキャッチフレーズが印象的な、日清カップヌードルのCMを覚えているだろうか。国際宇宙ステーションから地球を眺めていた宇宙飛行士が、“最後のソビエト連邦国民”と呼ばれたセルゲイ・クリカレフだ。1991年、ミール宇宙ステーション滞在中にソ連が崩壊し、帰るべき国を失ってしまう。帰還無期限延長を宣告されたセルゲイ・クリカレフは、孤独を紛らわせるように地球に向かって無線交信していた。そのエピソードを元に、キューバのエルネスト・ダラナス・セラーノ監督が、生活苦ながら家族と幸せに過ごした1991年当時の自分をセルジオに投影させながら脚本を書いたのそうだ。キューバと言えば『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』の舞台だが、1991年は冷戦末期、社会主義崩壊の危機が暗い影を落とし、経済危機に瀕していた時代である。しかしそこに暮らす人々の表情に悲愴感はなく、陽気なキューバ音楽、ユーモアと風刺に彩られた実にかわいらしい作品であった。語源が同じセルジオとセルゲイの友情が…微笑ま…し……く……スヤァ……ハッ!!……スヤァ(断末魔)淡々とした日常の描写が続き、物語にドラマが少ないので、その日の午前中大掃除に取り組んだという肉体的ハンデもあり、敢え無く睡魔に襲われ、おそらく一番肝心なシーンを見逃した(てへ)。思うに、全てにおいてイマイチ求心力に欠けるのだろうと思われる。気が付いたらセルゲイがコカ・コーラを片手に微笑んでいた。その姿は笑いを誘うが、彼自身のアイデンティティやその背景を思うと切ない。キューブリックの「2001年宇宙の旅」を思い出させる壮大な「美しく青きドナウ」になんとなく感動してみたりして、1800円分良い映画だったんじゃないかなって思いたい。