銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】パッドマン 5億人の女性を救った男

 

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-81
『パッドマン 5億人の女性を救った男』(2018年 インド)
 

うんちく

清潔で安価なナプキンを低コストで大量生産できる機械を発明し、かつ女性たち自らがその機械で製造したナプキンを女性たちに届けるシステムを生み出し、多くの女性に働く機会を与えたインド人男性の実話をベースにしたドラマ。モデルとなったアルナーチャラム・ムルガナンダム氏の活動は高く評価され、2014年に米タイム誌「世界で最も影響力のある100人」に選ばれたほか、2016年にはインド政府から褒章パドマシュリが授与されている。監督は『マダム・イン・ニューヨーク』の監督ガウリ・シンデーの夫で、同作のプロデューサーも務めたR.バールキ。『チャンドニー・チョーク・トゥ・チャイナ』などのアクシャイ・クマール、『ミルカ』などのソーナム・カプールらが出演。
 

あらすじ

インドの田舎町で小さな工場を共同経営するラクシュミは、新妻ガヤトリが生理の際に不衛生な古布を使っていることを知り、ショックを受ける。市販の生理用ナプキンは高価で買えない妻のため、清潔で安価なナプキンを作ることを思いつき、研究とリサーチに没頭するラクシュミ。男性が“生理”について語るだけでも奇異な目で見られるインド社会において彼の行動は非難され、やがて追われるように村を去り、妻と離れ離れになってしまう。それでも諦めることをしなかったラクシュミは、ある素材に出会い、ついに低コストでナプキンを大量生産できる機械を発明する。そして彼の熱意に賛同した先進的な女性パリーとの出会いによって、運命が大きく回りだすが...
 

かんそう

そのテクノロジーは誰かを幸せにしているか——起業家が身近に多い環境にあって、時折耳にする言葉だ。イノベーションという言葉が形骸化し、陳腐化しつつある今日この頃だが、それは”イノベーション”そのものを目的にしてしまい、且つ金儲けの手段にしようとする手合いが増えたからだろう。そこにイシューはない。いままさにイノベーションを起こさんとしている人は、おそらく自らがイノベーションを起こそうとしていることを意識していない。彼らの焦点はそこになく、イノベーションは行動による結果でしかないからだ。「妻を幸せにしたい」という一心で、迫害に耐えながら低コストのナプキン製造機を発明。それがインド工科大学で「草の根テクノロジー発明賞」を受賞し評価されるも、自分の利益など顧みず「一人でも多くの女性を幸せにしたい」と簡易ナプキン製造機を作っては女性の自助グループに販売し、起業と意識改革をうながした男。そのテクノロジーが最新でなくてもいい。流暢な英語でスピーチできなくてもいい。「誰のために、何を成し遂げたか」ということが大切なのだ。ラクシュミことムルガナンダム氏こそ、イノベーターと呼ぶにふさわしい。泣いた。男泣きに泣いた。作品そのものは、実にボリウッド映画らしいボリウッド映画である。テンポよく飽きさせないが長尺、ご都合主義でとりあえず歌い踊る。ラクシュミがお花に囲まれてナプキン作りに勤しむ姿は神々しくもある。しかし、ボリウッドを敬遠しがちな方であっても、ラクシュミの生き様に感動させられること受け合い。ぜひ、この”イノベーション”の目撃者になっていただきたい。
 
「すべては、妻への思いから始まったんです。妻が苦しんでいるのを目にして、タブーによってそうなっていると思いました。インドにはタブーがたくさんある。それを変えたい。それがそもそもの動機だった」
「神様がつくった地上で一番強い強い存在は、象でも虎でもなく、女性なんだと。だからこそ、僕は女性たちの役に立つために絶対にギブアップしてはいけないと、気持ちを持ち続けることができた」——アルナーチャラム・ムルガナンダム