銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】マイ・サンシャイン

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-84
『マイ・サンシャイン』(2017年 フランス,ベルギー)
 

うんちく

デビュー作『裸足の季節』がアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされたデニズ・ガムゼ・エルギュヴェン監督が、1992年のロサンゼルス暴動に巻き込まれていく家族を描いたドラマ。『チョコレート』でオスカーを獲得したハル・ベリーと、『007』シリーズのジェームズ・ボンド役で知られるダニエル・クレイグが共演。アメリカ史に深い傷を残したロサンゼルス暴動を、普通の家族の視点から描く。
 

あらすじ

1992年、ロサンゼルス・サウスセントラル。事情があり家族と暮らせない子供たちを育てるミリーは、貧しいながらも愛情の溢れる幸せな家庭を築いている。隣人オビーは騒々しいミリーたちに文句をつけながらも、実は彼らを優しく見守っていた。そんななか、黒人が犠牲となった事件で不当な評決が下されたことから暴動が勃発。その影響で、ミリーたちの生活にも変化が訪れるが…。
 

かんそう

日本の配給会社はどうしてダメな邦題をつけるのか問題案件である。マイ・サンシャイン・・・どこをどう発想したら、この硬質な社会派ドラマが、こんな爽やかなタイトルに・・・配給会社はギルティ。タイトルが物語を正確に伝えてないので、ほのぼのファミリードラマを期待して観に行った観客からのレビューが散々でも仕方なし。原題の”KINGS”は、1992年のロドニー・キング事件、そしてアフリカ系アメリカ人公民権運動のシンボルであるキング牧師のことも指しているだろう。この作品は、15歳のアフリカ系アメリカ人の少女が食料品店の韓国系女店主によって殺害されたラターシャ・ハーリンズ射殺事件、26歳のアフリカ系アメリカ人青年が、スピード違反でLA市警から追跡された末、警官数人に殴打されたロドニー・キング事件の評決結果を発端として、サウスセントラルから発生したロサンゼルス暴動を舞台にしている。50名を超える死者、4,000人の逮捕者、3,600件の火災が発生、1,100の建物が破壊され、根深い人種問題、陪審制の是非など、暴動の背景にある多くの問題が浮き彫りとなった。この事件を背景に、ある一家が日常を積み重ねていくさま、その崩壊の顛末が描かれる。当時の様相がドキュメンタリーのように差し込まれ、その時代に生きる若い世代の思春期の葛藤とともに、虐げられてきた黒人の怒りと鬱憤が映し出される。その悪夢は今なお続き、キング牧師暗殺から50年、何も変わっていない。やりきれない思いに心が覆われるが、ミリーという女性の存在がほんの少しの救済を与えてくれる。監督がシナリオハンティングで訪れたサウスセントラルで何人もの子供たちをホストマザーとして育てている女性ミリーと出会ったことから、この物語が生まれたのだそうだ。ミリーを演じたハル・ベリーの、今年52歳とは思えない内面から溢れ出す美しさと、べらんめえ口調のダニエル・グレイグが楽しめる。ダニエル・グレイグが好きすぎて『007』を観るようになったクチであるが、ジェームズ・ボンドじゃないダニエル・グレイグにはあんまり興味がないことに気がついたりしたのであった・・・。