銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】君の名前で僕を呼んで

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-30
君の名前で僕を呼んで』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

1980年代のイタリアを舞台に、17歳と24歳の青年の恋を瑞々しく描いたラブストーリー。アンドレ・アシマンの同名小説を原作に『眺めのいい部屋』『日の名残り』の名匠ジェームズ・アイヴォリーが脚本を執筆、『ミラノ、愛に生きる』のルカ・グァダニーノが監督を務めた。アカデミー賞では作品賞、主演男優賞、脚色賞、歌曲賞の4部門にノミネートされ、見事アイヴォリーがが脚色賞を受賞。主演を務めたティモシー・シャラメは弱冠22歳にしてアカデミー賞主演男優賞にノミネートされた。『コードネーム U.N.C.L.E.』『ジャコメッティ 最後の肖像』などのアーミー・ハマーが共演。
 

あらすじ

1983年夏、北イタリアの避暑地で家族と過ごしている17歳のエリオ。そこへ、大学教授である父がアメリカから招いた24歳の大学院生オリヴァーがやってくる。父の助手である彼は、夏の間をエリオたち家族と過ごす。自信と知性に満ちたオリヴァーに反発を覚えながらも、一緒に泳いだり、読書したり音楽を聴いたりして過ごすうちに、エリオはいつしか彼に対して特別な思いを抱くようになっていく。やがてふたりは激しい恋に落ちるが、夏の終わりとともにオリヴァーが避暑地を去る日が近付き...
 

かんそう

ペドロ・アルモドバルとグザヴィエ・ドランが絶賛していた本作の公開を待ち焦がれていた私は、公開されるとともに劇場に駆け込んだ。完全に萩尾望都の世界であった・・・(モー様を知らない人のために言い添えておくと、少女漫画の黄金期に少女漫画の枠を超え漫画史に金字塔を打ち立てたカリスマ)。エリオが「残酷な神が支配する」のジェルミにしか見えないモー様崇拝者の弊害と闘いながら観たが、同性愛を扱ってはいるものの、普遍的な恋の物語である。人と人が出会い、どうしようもなく惹かれ合い、ひたむきに求め合う。ただそれだけが、寡黙に繊細に、エモーショナルに描かれる。機知と教養に富んだ会話、テーブルの食事、庭の果実、プール、自転車、ダンス、夏の夜、初めての恋に揺れ動く心、”あなたに知ってほしくて”という愛の告白。何もかもが見惚れるほど美しく、愛おしい。瑞々しいピアノの旋律に彩られた甘美なる愛と、柔らかな光に溢れた映像が素晴らしい。オリヴァーは、エリオと真摯に向き合い、この上なく大切に扱う。”君の名前で僕を呼んで、僕の名前で君を呼ぶ”——完全にひとつに溶け合った心と体を、切り離す痛みはいかほどだろう。感傷に身を委ねるエリオの表情を捉えた長回しのラストショットが切ない。自分以外の誰かに慈しまれた記憶は、心のなかの柔らかく温かい場所となって、受難のときに人を癒す。かつて、そのように愛してくれた人たちの残像を重ね合わせながら、この眩い初恋の一部始終を見届けた。何一つ忘れられない傑作。