うんちく
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-18
『シェイプ・オブ・ウォーター』(2017年 アメリカ)
『パンズ・ラビリンス』の名匠ギレルモ・デル・トロ監督が、1960年代の冷戦下を舞台に種族を超えた愛を描いたファンタジー。『ブルージャスミン』でアカデミー賞にノミネートされたサリー・ホーキンスが主演を務め、『ヘルプ ~心がつなぐストーリー~』などのオクタヴィア・スペンサー、『扉をたたく人』のリチャード・ジェンキンス、『ドリーム ホーム 99%を操る男たち』などのマイケル・シャノンらが共演。デル・トロ作品常連のダグ・ジョーンズが”不思議な生き物”を演じ、魅力的かつ官能的なキャラクターを生み出した。『グランド・ブダペスト・ホテル』でオスカーを獲得したアレクサンドル・デスプラが音楽を手掛ける。ヴェネチア国際映画祭で金獅子賞、ゴールデン・グローブで監督賞と音楽賞を受賞、第90回アカデミー賞においては作品賞、監督賞、作曲賞、美術賞に輝いた。
1962年、米ソ冷戦下のアメリカ。政府の極秘研究所で清掃員として働くイライザは、同僚のゼルダとともに秘かに運び込まれた不思議な生き物を目撃する。アマゾンの奥地で神のように崇拝されていたという”彼”の、どこか魅力的な姿に心奪われてしまったイライザは、周囲の目を盗んで会いに行くように。子供の頃のトラウマで声が出せないイライザだったが、”彼”とのコミュニケーションに言葉は必要なく、音楽や手話、お互いの眼差しで心を通わせていく。そんな矢先、イライザは“彼”が間もなく国家の威信をかけた実験の犠牲になることを知り...
ギレルモ・デル・トロが好きだ。いまでも『パンズ・ラビリンス』のことを愛しく思い出す。それと同じくらい、この物語のことを好きになった。そして、私がこの作品を観てからこれを書くまでのあいだに、アカデミー賞で作品賞ほか4部門を総なめにしてしまったのである。緻密な計算のもとに構築され、細部にまでデル・トロの美学が貫かれた美しいアナザーワールドで、夢の中を泳いでいるような恍惚感を味わう。いつまでも、この夜の水面でたゆたっていたいと思うほどに。当然、監督賞はデル・トロで文句無しだが、しかし実際のところ作品賞は『スリービルボード』のほうが良かったなぁなどと、複雑な気持ちで作品のことを思い返している。しかし、確かに、この至上の愛の物語は、例えようもなく素晴らしかった。でもやっぱり作品賞は『スリービルボード』だと思う(しつこい)。
さて、いわゆる半魚人と恋に落ちる女性の物語である。種族を超えた愛をデル・トロがどう描くのかとても気になっていたのだが、女性が”彼”をデザインしたとのことで得も言われぬ色気があり、2人が交わす愛も実に官能的で美しい。サリー・ホーキンスは言わずもがな、マイケル・シャノンら脇を固める俳優陣の演技が素晴らしかった。2人をとりまく世界の輪郭で紡がれる、それぞれの人々の物語もまた、愛しい。なお、日本公開版で重要なシーンがカットされているという噂が流れたが、それはデマであるとのこと。
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-17
『The Beguiled/ビガイルド 欲望のめざめ』(2017年 アメリカ)
第70回カンヌ国際映画祭で監督賞を受賞した、ソフィア・コッポラ監督によるスリラー。1971年にもクリント・イーストウッド主演で『白い肌の異常な夜』としてドン・シーゲル監督が映画化したトーマス・カリナンの小説「The Beguiled」をベースに、1人の男にかき乱される女性たちの嫉妬と欲望を赤裸々に描く。ハリウッドを代表するトップ女優ニコール・キッドマン、『マイノリティ・リポート』『ロブスター』のコリン・ファレル、『ヴァージン・スーサイズ』『マリー・アントワネット』のキルスティン・ダンスト、『SOMEWHERE』『パーティで女の子に話しかけるには』のエル・ファニングら、豪華キャストが集結。
1864年、アメリカ南部バージニア州。3年目に突入した南北戦争が暗い影を落とすなか、世間から隔絶された女子寄宿学園に暮らす美しき7人の女性たちがいた。園長のマーサ、教師のエドウィナ、5人の生徒たち。ある日彼女たちは、森の中で負傷した北軍兵士マクバニーを見つけ、手当をし匿うことに。男子禁制の学園に、突如として加わった野性味あふれる男性の存在に戸惑いながらも、ハンサムなマクバニーの紳士的な振るまいに誰もが浮き足立ち、心をときめかせるようになってしまう。彼の虜となった女たちは、次第に嫉妬を露わにして互いを牽制しあうようになり...
マカロン色の『マリー・アントワネット』で知られる、フランシス・フォード・コッポラの娘たん。『ロスト・イン・トランスレーション』ではアカデミー賞も撮ってるぞ。ちなみに女優としては『ゴッドファーザーPART Ⅲ』でラジー賞の最低助演女優賞と最低新人賞に輝き、『スター・ウォーズ エピソード1/ファントム・メナス』では最低助演女優賞にノミネートされる実力の持ち主だ。さて、そんなソフィア嬢の新作は、柔らかな自然光とフリルやレースやリボンを身に纏った淑女たちが、ちょっとワイルドでセクシーな2枚目に惑わされて本能を剥き出しにしちゃうレディコミ風ドラマ。でもその王子役、コリン・ファースじゃなくてもよくない?もっといいのいただろ。1971年にドン・シーゲル監督が撮ったクリント・イーストウッド版『白い肌の異常な夜』に比べると、相当に毒気が抜かれて薄味らしい。確かにこの設定なら、もっとえげつないほどドロドロと生々しい愛憎劇が描けるはずである。つまらないことはないが、どこか物足りない。そう思ったのはコリン・ファレルのせいだけではなさそうだ。あまりにも端正で、表現に奥行きがなく、説得力が足りないのだ。ただ、おそらくソフィア・コッポラはリメイクではなく「ソフィア・コッポラ版"The Beguiled"」を作りたかったのだと思われ、そういう意味ではきっちり目的を完遂している。が、とりあえず近いうちに、より原作に近いと思われる『白い肌の異常な夜』を観てみようと思ったりしたのであった・・・。