銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ゴールデン・リバー

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-39
『ゴールデン・リバー』(2018年 フランス,スペイン,ルーマニア,ベルギー,アメリカ)
 

うんちく

ゴールドラッシュに湧く1950年代のオレゴンを舞台に、黄金を見分ける化学式を見つけた化学者を追う、殺し屋兄弟と連絡係の顛末を描いたドラマ。『預言者』『ディーパンの闘い』『君と歩く世界』などで知られるフランスの名匠ジャック・オーディアールが初めてハリウッド俳優を指揮し、ウェスタンという新境地に挑んだ。『シカゴ』でアカデミー賞にノミネートされたジョン・C・ライリー、『ザ・マスター』『her/世界でひとつの彼女』などのホアキン・フェニックス、『ブロークバック・マウンテン』『ナイトクローラー』などのジェイク・ギレンホール、同じく『ナイトクローラー』などのリズ・アーメッドらが出演。ヴェネチア国際映画祭銀獅子賞(監督賞)受賞の快挙を幕開けに、フランスで最も重要な仏アカデミー賞(セザール賞)では9部門にノミネートされ監督賞を含む4部門を制し、リュミエール賞では作品賞を始め3部門を獲得した。
 

あらすじ

時は1851年、オレゴン。「俺たちはシスターズ兄弟だ」──その言葉に誰もが震えあがる、最強の殺し屋兄弟がいた。兄のイーライと弟のチャーリーは、一帯を取り仕切る提督の依頼で、黄金を見分ける化学式を発見した化学者ウォームを始末するべく、仕事仲間の連絡係モリスを追い、サンフランシスコへ南下する。時はゴールド・ラッシュ、金脈を求めて群れをなす採掘者の中に、ウォームの姿もあった。しかし先にウォームと合流したモリスは、彼の人柄と思想に魅せられ、ともに逃亡することを選択する。そこに追いついたシスターズ兄弟も、ウォームからの提案で、黄金を採るため手を組むことに合意する。初めは互いに疑心暗鬼だった2組だが、兄弟もまたモリスと同じようにウォームのカリスマ性に魅せられ、奇妙な友情と絆が生まれていくが...
 

かんそう

スリードを引き起こす邦題と宣伝文句を鵜呑みにすると、予想外の展開に肩透かしをくらうだろう。「一攫千金ウェスタン・サスペンス」て。配給元はギルティ。ゴールドラッシュに湧く無法地帯のアメリカ西部を舞台にしたフレンチノワール風味のヒューマンドラマ、あるいは父親の暴力的支配による呪縛から自らを解放させようとする男たちの無骨なロードムービーである。原作はパトリック・デウィットが2011年に発表し、ブッカー賞の最終候補作に選出された『シスターズ・ブラザーズ』である。原作のタイトル(と原題)の通り、シスター兄弟が辿る魂の物語だ。物語の始まりはゴールドラッシュに沸く1850年代のオレゴン州。それまで辺境の地であった西部は無法地帯でもあり、殺人や暴動、略奪など日常茶飯事であった。そんな時代に暗躍した凄腕の殺し屋シスター兄弟。無敵の強さと純粋さを併せ持つお人好しの兄イーライは、裏稼業から足を洗いたいと考え始めている。そんな兄とは対照的に裏社会で頂点を極めるべく野心を燃やし、少年のような愛らしさを湛えながら凶暴で大酒飲みの弟チャーリーの尻拭いに手を焼いていた。兄イーライを演じたジョン・C・ライリーの好演、弟チャーリーを演じたホアキン・フェニックスの怪演が、この作品の一番の見どころだろう。そして、ユートピアを夢見る理知的な「異邦人」を演じたリズ・アーメット、物語の水先案内人を務めるジェイク・ギレンホール。シスター兄弟を含めた4人の男たちが金塊をめぐって熾烈な騙し合い殺し合いをすると思っていたら大間違いだ。そう思っていた私は睡魔に襲われた(おい)。今回のお目当てだったジェイク・ギレンホールにいたっては出番の少なさに驚かされる。とはいえ、父親から引き継いだ暴力性から解放されること求めていたイーライが最後に辿り着く場所、その静謐なラストシークエンスは、何とも言えない不思議なカタルシスを得る。シスター兄弟の心の旅とも言える道中に散りばめられた数々のドラマ、ジャック・オーディアール監督の仕事が秀逸である。また、35ミリのフィルム撮影にこだわる撮影監督ブノワ・デビエの手による、ぬかるんだ泥道、土埃と馬の糞尿にまみれた町の臭いや、むせ返る男たちの体臭が画面から伝わるような生々しさを湛えた映像が見事だ。そして『グランド・ブダペスト・ホテル』と『シェイプ・オブ・ウォーター』でアカデミー作曲賞を受賞したアレクサンドル・デスプラのスコアが実に素晴らしく、その旋律がこの泥臭い物語を美しいものに昇華させる。総じて見応えある良作であった。