銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】The Son/息子

映画日誌’23-18:The Son/息子

introduction:

初監督作『ファーザー』でアカデミー賞脚色賞を受賞した映像作家・劇作家のフロリアン・ゼレールが、同作に続き自身の戯曲を映画化した家族3部作の第2弾。『レ・ミゼラブル』などのヒュー・ジャックマンが主演と製作総指揮を務め、『ファーザー』で2度目のオスカーを受賞したアンソニー・ホプキンス、『マリッジ・ストーリー』などのローラ・ダーン、『私というパズル』などのヴァネッサ・カービーらが共演する。2022年・第79回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(2022年 イギリス/フランス)
 

story:

優秀な弁護士のピーターは、新しいパートナーとの間に息子が生まれ、充実した日々を送っていた。そんなある日、前妻のケイトから、彼女のもとで暮らす17歳の息子ニコラスの様子がおかしいと相談される。心に問題を抱えている息子は、父親ピーターのもとで暮らしたがっていた。息子を受け入れ一緒に暮らし始めたピーターだったが、転校したはずの高校に登校していないことが分かり、父と息子は激しい言い争いになり...
 

review:

アンソニー・ホプキンスとオリビア・コールマンが素晴らしい仕事をした『ファーザー』で新しい映像体験をもたらしてくれたフロリアン・ゼレールの新作、楽しみに待ち侘びて鑑賞した。アカデミー賞を獲った監督にしては扱いが小さいなと思っていたが、たしかにこれは観る人を選ぶ。そして衝撃的ではあるが、前作のような、演出や映像のインパクトは控えめ。
 
ゼレールは今作でも親と子の心の距離を描く。弁護士として社会的成功をおさめ、人並みに野心を持ち合わせている父親ピーターと、繊細で世界との折り合いがつかず不登校気味の息子ニコラス。ピーターは前妻とニコラスを捨て、若い女性と新しい家庭を築いているが、どうやら実の父に捨てられたという思いがニコラスの精神状態に暗い影を落としているらしい。
 
ただでさえ生きづらい時代に自己肯定感を持てず、どこにも居場所がないニコラス。彼に必要なのは傾聴と肯定なんじゃないかと思うのだが、父ピーターが全然人の話を聞いてないのである。息子の話も聞いてないが、前妻ケイトや現妻ベスの話も聞いてない。そしてその上、ありのままの息子を受け入れることができず、こうあってほしいという願望を押し付け、強さと自信を与えたい!とか言っちゃう系の典型的なマッチョ親父なのである。
 
ここでピーターの父ことアンソニー・ホプキンスの登場なんだが、これがまた”男は成功こそすべて”のマッチョ。要するに祖父の代から引き継がれてきた負の遺産、分かり合えない親と子の悲劇であり呪いなのだ。それでいて親である自分が一番に理解しているという傲慢と、無力さが描かれる。つらくて重い、家族の物語をまざまざと見せつけられ、心を引き裂かれるようであった。
 

trailer: