銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス

映画日誌’23-15:エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス
 

introduction:

『ムーンライト』『ミッドサマー』など刺激的な話題作を生み出し続ける気鋭の映画スタジオA24による、マルチバース×カンフーの異色アクション・エンターテインメント。『スイス・アーミー・マン』などのダニエル・クワンダニエル・シャイナートが脚本と監督を手掛け、“アベンジャーズ・サーガ”で知られるルッソ兄弟が製作に参加。主演は『グリーン・デスティニー』などのミシェル・ヨー、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』『グーニーズ』などのキー・ホイ・クァン、『ハロウィン』シリーズなどのジェイミー・リー・カーティスらが共演する。2022年3月のサウス・バイ・サウスウエスト映画祭でオープニング上映を飾り大絶賛を浴びた本作は、第95回アカデミー賞で10部門11ノミネートを果たし、作品、監督、脚本、主演女優、助演男優、助演女優、編集の7部門を受賞した。(2022年 アメリカ)
 

story:

アメリカの中国系移民エヴリンは、優しいだけで頼りにならない夫ウェイモンド、いつまでも反抗期の娘ジョイ、介護が必要なのに頑固な父と暮らしながら、破産寸前のコインランドリーを経営している。ある日、国税局で役人に絞られていると夫が豹変。”別の宇宙のウェイモンド”から「全宇宙にカオスをもたらす強大な悪を倒せるのは君だけだ」と世界の命運を背負わされる。面食らうエヴリンだったが、悪の手先に襲われてマルチバースにジャンプすると、“別の宇宙のエヴリン”の力を得てカンフーマスターさながらの能力に目覚めてしまう。全宇宙を舞台にした闘いに身を投じていくが、巨悪の正体は自分の娘ジョイだった...!
 

review:

問題作『スイス・アーミー・マン』を観ておらず<ダニエルズ>に免疫がないまま『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』を観た人は、大丈夫だったかな?私はハリー・ポッターの死体で海を渡っていくポール・ダノをスクリーンで観ていたので、心から楽しめたよ!ていうか、こんなにバカバカしい映画がアカデミー賞いくつも獲っていいの!?ねえ、いいの!?せめて監督賞は『イニシェリン島の精霊』のマーティン・マクドナーにあげなよ!と思ったが、みんな、バカバカしさの向こう側に、全人類を照らす光を見たかい・・・?私は見たよ・・・。
 
ダニエルズがインタビューで語ったところによると、本作には初めからエキサイティングなアイデアが3つあったそうだ。
 
1)バカバカしい闘いを繰り広げるSF・アクション映画
2)21世紀の移民の物語を通して家族愛を描く
3)あまりに多くの別宇宙に行きすぎ、哲学的な思想を探求することになるマルチバースムービー

 

うんうん、本当にそのまんま映像にしちゃったねぇ。そもそもダニエルズの頭の中が異次元。二人揃って自制心とか理性とかないのかな。家族の問題に悩み、赤字のコインランドリー経営に頭を抱える普通の中年女性が、マルチバース(並行宇宙)を舞台にカンフーマスターとなり世界を救う。設定だけでもお腹いっぱいだが、ここにダニエルズのおバカとお下劣が本領発揮しているので本当にお腹いっぱい。かと思えば、きっちり人間ドラマ差し込んで大きな問いを投げかけてくるのが彼らの醍醐味だろう。
 
人生は選択の連続だ。あの日あの時、別の選択をしていたら「違う人生」があったかもしれない。でも、今ある幸せが一番尊い。繰り広げられるシュールなおバカに失笑しつつ、マルチバースすら包み込んでしまう大きな母の愛にうっかり感動してしまった。普通の「生活に疲れたおばさん」と「冴えないおじさん」を体現しつつ見事なカンフー・アクションを見せてくれたミシェル・ヨーキー・ホイ・クァンが実に素晴らしい。彼らが「イケてる」の世界線も登場するのがミソ。キー・ホイ・クァンアカデミー賞おめでとう。
 
よくわからなかったと言う人もたまにいるので、観る前にマルチバースの概念くらいは頭に入れておいたほうがいいかもしれない。あと、ダニエルズの映画を真面目に観るなと言ってあげたい。最近ハズレ(個人の感想です)も多いA24作品に疑いの気持ち(個人の感想です)を抱いていたけど、今回は最高のエンターテイメントをありがとう、という気持ちで胸がいっぱいだしお腹もいっぱい。レビューを書いてたらいろんな思いが押し寄せてきてIMAXでおかわりしたくなったけど、尺が長いんだよなぁ。
 

trailer: