銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】イット・カムズ・アット・ナイト

 
劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-78
 

うんちく

『イット・フォローズ』の製作陣と、『ムーンライト』『レディ・バード』『アンダー・ザ・シルバーレイク』など、刺激的な話題作を世に放ち続ける気鋭の映画製作スタジオ「A24」が手掛けるサイコスリラー。得体の知れない”それ”に怯えて暮らす2組の家族を描く。監督は、長編デビュー作となった『Krisha』で新人賞を多数受賞した新鋭トレイ・エドワード・シュルツ。『ラビング 愛という名前のふたり』などのジョエル・エドガートンが主演と製作総指揮を務め、『スウィート・ヘル』などのクリストファー・アボット、『ブルーに生まれついて』のカルメン・イジョゴ、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』のライリー・キーオらが脇を固める。
 

あらすじ

森の奥深くにある一軒家。夜襲い来る“それ”の感染から逃れるため、ある一家が外界との接触を断ちひっそりと暮らしていた。家族は父ポールと母サラ、17歳の息子トラヴィスの3人。しかしある日、恐れていた侵入者が現れる。ウィルと名乗るその男は、妻と小さな息子がいること、水を手に入れるために人気のなさそうなポールの家に侵入したと打ち明けながら、自分たちが持っている充分な食糧との交換を持ちかける。ポールはその交渉をのみ、ウィル一家を受け入れることに。交流が増えるにつれ互いに心を開き、上手く回り始めたかに見えた集団生活だったが、ある夜、固く閉ざしているはずの赤いドアが開け放たれていたことをきっかけに、互いの家族に猜疑心が生まれ...
 

かんそう

「A24」の作品、というバイアスを持ってしても、これは余りにも独り善がりで難解すぎる。相当な注意を払い、全神経を尖らせて観れば、「It(それ)」が夜にやってくる意味、それらを暗示するもの、作中に散りばめられた違和感に気付くことができるだろう。見終わったあと狐につままれたような気分で様々な解説を読み、劇場でリピーター割を実施している理由が分かった頃になってやっと、この作品が持つ面白さがじわじわと押し寄せて来て、とんでもない作品であることを理解した。なるほどA24作品なわけであるが、いや、それにしてもである。よほどの達人でなければ無理だ。トラヴィスが見続ける悪夢、それに呼応するように幅を変えるスクリーンの画面比率、厳格な父親に抑圧されたトラヴィスの性に対する執心、不可解な出来事、湧き上がる疑念。それらを繋ぎ合わせ、推測するしかない。情報が削ぎ落とされることによって、不安を掻き立てられ、思考を巡らせる余白を生むが、あまりにも受け手に委ねすぎている感は否めない。しかしこの作品の核心は、「It(それ)」の正体でも勧善懲悪でもなく、異常な極限状態における人間の心理であり、それを描いたサイコスリラーとしては見応えがあった。とはいえ「A24」という印籠抜きでも同じように興味が掻き立てられたかどうかは分からない。自分自身に対しても疑念が湧く作品であった・・・。