銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ヘレディタリー/継承

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-79
『ヘレディタリー/継承』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

祖母の死をきっかけに、さまざまな恐怖に襲われる一家を描いたホラー。本作が長編映画監督デビュー作となるアリ・アスターが監督・脚本を務める。主演は『シックス・センス』『リトル・ミス・サンシャイン』のトニ・コレット。鬼気迫る怪演で来年のオスカー主演女優賞のノミネートが期待されている。ドラマシリーズ「イン・トリートメント」などのガブリエル・バーン、『ライ麦畑で出会ったら』などのアレックス・ウォルフらが共演。『ムーンライト』『レディ・バード』などで次々に話題作を発表している気鋭の映画スタジオA24が製作している。
 

あらすじ

祖母・エレンが亡くなったグラハム家。娘のアニーは、夫のスティーブン、高校生の息子ピーター、娘チャーリーと共に、家族を亡くした喪失感を乗り越えようとしていた。やがてグラハム家に奇妙な出来事が頻発するようになり、祖母に溺愛されていたチャーリーは次第に異常な行動を取り始める。そして最悪な事態に陥った一家は修復不可能なまでに崩壊してしまうが、亡くなったエレンの遺品が収められた箱に「私を憎まないで」と書かれたメモが挟まれていた...
 

かんそう

実に重苦しい、カルト的な不気味を湛えた本作は、ホラーと言うよりオカルトである。オカルトとタイプしたら「おカルト」と変換されたが、オカルトはカルトに「お」をつけて丁寧に言い回したものではない。「オカルト」はラテン語のocculta(隠されたもの)を語源とし、触れたり感じたりできない超自然の現象のことであり、一方、「カルト」は、語源はラテン語のcultus(耕す)から生まれた言葉で、宗教的崇拝のこと、転じて反社会的団体を指して言う。作品に関係のないことを延々と書いていることから察していただきたいが、困ったことに、何を書いてもネタバレになりそうなのである・・・。少々難解ではあるが、張り巡らされた伏線と緻密に計算された完成度の高い脚本は、一筋縄ではいかない新しい恐怖体験をもたらした。悪魔崇拝精神疾患について知識があると、より楽しめると思われる。アリ監督はインタビューで「ホラーの枠を借りて、家族の物語を描きたかった」と語っており、特にロバート・レッドフォード監督の『普通の人々』に影響を受けたそうだ。ホラーでもあり、オカルトでもあり、サイコスリラーのようでもある。恐ろしいのは、たとえオカルト要素を排除しても、心をえぐられるような恐怖を見せつけられる点である。人が忌み嫌うものをひたすらに見せつけられ、ザワザワと心の奥底にある嫌悪感を煽られ、怖くないのに怖かったって、なんなのよ・・・。誰にでもおすすめしないけど、カルト的な世界がお好きな方はぜひ、この不快感を味わっていただきたい。