銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー

 

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-77
『A GHOST STORY/ア・ゴースト・ストーリー』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

『ムーンライト』『レディ・バード』『アンダー・ザ・シルバーレイク』など、刺激的な作品を打ち出し続ける気鋭の映画製作スタジオ「A24」が放つ幽霊譚。不慮の事故死を遂げ、シーツ姿の幽霊となってもなお、愛する妻への想いを胸に彷徨い続ける男の物語。サンダンス映画祭の観客賞を筆頭に、世界各国の映画祭でノミネート&受賞し、米映画批評サイトRotten Tomatoesでは驚異の91%の大絶賛を受け話題となった。『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でアカデミー賞主演男優賞を受賞したケイシー・アフレック、『キャロル』でカンヌ国際映画祭女優賞を受賞したルーニー・マーラが共演。本作の監督デヴィット・ロウリーの『セインツ -約束の果て-』でも共演した実力派俳優が再び集う。
 

あらすじ

アメリカ・テキサス州郊外の田舎町。ある小さな一軒家に住む若い夫婦のCとMは幸せに暮らしていたが、ある日夫Cが交通事故で突然の死を迎えてしまう。妻Mは病院でCの亡骸を対面し、シーツを被せて病院を去るが、死んだはずのCはシーツは頭からシーツを被ったまま起き上がり、Mと暮らしていた自宅へ戻ってきた。生きている人には話しかけることもできず、MはCの存在に気付かないが、それでも彼は哀しみに暮れる妻を静かに見守り続ける。しかしある時、Mは前に進むため思い出のつまった家を引っ越す決断をするが...
 

かんそう

どこまでも静謐で美しい叙情詩だ。不慮の事故で亡くなった夫が妻を見守る物語といえば、不朽の名作『ゴースト ニューヨークの幻』を思い出すが、本作でゴーストとなった夫「C」は、もっと実態がなく、概念的である。そして、ラブストーリーでもファンタジーでもなければ、ホラーでもない。1.33:1のスタンダードサイズはゴーストの視界のようで、まさに「A GHOST STORY」である。ゆったりとしたカメラワーク、呆れるほどの長回しで、残された妻「M」の遣りきれない怒りと深い哀しみを我々も味わう。シーツを被った「C」の姿には、多くの人がオバQ…!!と心で叫んだに違いないが、見えないはずの表情から感情が伝わってきて切ない。そしてある時を境に、堰を切ったように流れ出す時間は時空を超え、妻が残した記憶の断片を探す旅へと彷徨う。そして気が遠くなるほどの時間の経過とともに、後悔か未練か、あるいは愛への執着か自問なのか、その場所に留まり続ける「C」は何かに固執しているだけの存在になっていく。彼のシーツは薄汚れ、「ずっと待ってるんだけど、いまでは何を待っているのかも忘れてしまった。」と言う。不思議な時間感覚に揺られ、戸惑いつつ思いを巡らせているうちに、ただただ待ち続けた「C」が「いつか戻るかも知れない自分」に宛てた妻の言葉に辿り着き、この壮大な物語は唐突に終わりを迎える。そしてその顛末に呆然とする我々だけが、その場所に置き去りにされてしまう。しばらくのあいだ、深い余韻が心に残って離れなかった。誰にでもお勧めできる作品ではないが、もし、誰かの琴線に触れることがあれば、いつかそのことについて話したいと思う。