銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-14
『サタデーナイト・チャーチ 夢を歌う場所』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

デイモン・カーダシス監督が、ボランティアをしていた教会で実施していた”サタデーナイト・チャーチ”(LGBTQの人々を支援するプログラム)での実体験をもとに綿密なリサーチをおこない、ニューヨークのLGBTQの実態と社会問題を映し出したミュージカルタッチの人間ドラマ。ブロードウェイの若手俳優ルカ・カインが主演を務め、マーゴット・ビンガム、MJ・ロドリゲスらが共演。監督と主演が無名だったにもかかわらず、各国の映画祭で数々の観客賞や優秀賞を獲得した。
 

あらすじ

ニューヨークのブロンクスに暮らすユリシーズは、父親の死をきっかけに「美しくなりたい」という思いを募らせていた。ある夜、ストリートで出会ったトランスジェンダーのグループに「サタデーナイト・チャーチ」に誘われる。そこは静かで厳格な昼間の教会とは異なり、自由にダンスや音楽を楽しみながら、同じ境遇の仲間と語らう場所となっていた。学校でも家庭でも孤立していたユリシーズは、そにに自分の居場所を見つけて心を解放していく。ところがそんなある日、部屋に隠していたハイヒールが家族に見つかってしまい...
 

かんそう

ユリシーズとは、ギリシャ神話の英雄オデュッセウスラテン語名ウリクセスがルネサンス期にウリッセースとなり、それを英語読みにした名前だ。オデュッセウスといえば「トロイの木馬」が有名な知将だが、10年かかってトロイアを攻め落としたと思ったら、うっかりポセイドンの怒りを買って呪いをかけられ、魔女キルケーに囚われたり、怪物セイレーンに襲われたり、ニンフのカリュプソと愛欲に溺れたり、ナウシカアに求婚されたり、なんやかんやあって、妻ペネロペが待つ故郷に戻るまでに10年かかるような男である。なんでその名前つけたん、お父ちゃん、、、と思うが、それにしても美しい響きである。そのユリシーズを演じたルカ・カインが美人(と呼ぶにふさわしい美貌)だし、脇を固めるキャラクタも魅力的で、物語の設定や作品の雰囲気も良かった。が、惜しいのである。これ、ミュージカルにしなくてもよくない?という身も蓋もないことを思ってしまう。それより、もう少し、ドラマに、奥行きとか、深みとか、いうものが、あったほうがだな・・・。恋のゆくえも、家族の物語も、どこか消化不良。しかし、神々に翻弄されて運命を漂流したオデュッセウスが帰郷を果たすように、ユリシーズもいつか愛に辿り着く。その姿には、思わず涙した。そういう意味では、観る人の心を震わす力があると言えよう。しかしクライマックスで肩透かしをくらい、あいや待たれいミュージカルなら最後に晴れ舞台を拝みたいでござると心の侍がエンドロールに向かって叫んだ夜を忘れない。カタルシスって知ってるか。なあ。そんな私が最後に言いたい事は、1日も早くLGBTQなんていう概念そのものがこの地球上から無くなって、人が人を自由に愛すことができる世界になってほしいということだ。