銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】スキャンダル

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映画日誌’20-12:スキャンダル
 

introduction:

2016年にアメリカのテレビ局で実際に起きたセクハラ事件を描いたドラマ。シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビーら、実力派が顔を揃える。監督は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』のジェイ・ローチ、脚本は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でアカデミー賞を受賞したチャールズ・ランドルフ。『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を日本人として初めて受賞したカズ・ヒロ(辻一弘)が、本作でも第92回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得した。(2019年 アメリカ)
 

story:

2016年、アメリカニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」の局内に激震が走る。元キャスターのグレッチェン・カールソンが、TV界の帝王と崇められるCEOのロジャー・エイルズをセクハラで提訴したのだ。このスキャンダラスなニュースにメディアが騒然とする中、看板番組を背負う売れっ子キャスターのメーガン・ケリーは、自身の成功までの軌跡を振り返り動揺する。一方、メインキャスターの座を虎視眈々と狙っている野心家の若手ケイラに、ロジャーに直談判するチャンスが巡ってくるが...
 

review:

「FOXニュース」というメディアがどのようなものか、ロジャー・エイルズがどのような人物か知っておくと、この作品をより楽しめるだろう。ロジャー・エイルズはニクソン大統領以来30年以上、共和党の大統領選挙においてテレビ戦略を手掛けてきた人物であり、共和党のためだけに作られたこのメディアは(乱暴な言い方をすると)アメリカの政治、大統領を動かしてきた黒幕である。このとてつもない「権力」に屈してきた女性たちが立ち上がり、闘う。この決意はいかほどかと想像を絶するが、何がすごいって、ほんの数年前のこのスキャンダラスな事件を、社名どころか登場人物も実名で映画化しちゃうアメリカ社会である。もちろん一部フィクションはあるが、カズ・ヒロの特殊メイクのおかげで『ガープの世界』でレディを演じてたジョン・リスゴーがジャバ・ザ・ハットにそっくりだよもう。デブなのに自分の容姿に執着してる大食漢が、息をするようにセクハラやパワハラをおこなう様子が映し出されるのだが、女性たちも自分のキャリアのため、ギャラのためにそれを甘んじて受け入れている。なぜなら共和党のためにデマを流すようなFOXニュースに所属していた人間は、もはや他のTV局に採用などされないからだ。ここで生き残るための社内政治も描かれるし、長いものに巻かれる人々の姿も描かれる。シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビーという演技力抜群女優がFOXニュースを象徴するような金髪美女に扮しているが、全員アメリカ人じゃないのが皮肉だ。ちなみにマーゴット・ロビーが演じたケイラは架空の人物である。野心家で、なんとかしてロジャー・エイルズに近付き、チャンスを手に入れようとする。何も知らない彼女は、ロジャーの巧妙なやり口に戸惑いつつ、拒絶という選択肢を失い、ドレスをたくし上げてしまう。セクハラのケースとしてはかなりソフトな描写であるが、しかしこの場面は、実に雄弁にさまざまなことを物語っており秀逸。ちらりとのぞくマーゴット嬢の白いパンティには、監督の意図がある。特別ではないその下着は、そのようなことが起こるとは全く想像していない、無防備な心理状態からの恥辱そのものなのだ。ジェイ・ローチ監督さすがや。『トランボ』面白かったもんな。ただ、何だろう、観終わったあとのこのスッキリしない感じは。これは始まりに過ぎず、根拠のない力にねじ伏せられてきた女性たちの闘いはまだ続く、ということの示唆だろうか。
 

trailer: