銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】グリーンブック

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-15
『グリーンブック』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ南部を舞台に、黒人ジャズピアニストと彼に雇われたイタリア系白人運転手が育んだ友情を描いた人間ドラマ。実話がベースとなっており、本作の主人公トニー・リップの息子ニック・バレロンガが製作・共同脚本として参加している。監督は『メリーに首ったけ』『愛しのローズマリー』などのコメディ作品で知られるピーター・ファレリー。『はじまりへの旅』などのヴィゴ・モーテンセン、『ムーンライト』などのマハーシャラ・アリが共演。第91回アカデミー賞では全5部門でノミネートされ、作品賞のほか脚本賞助演男優賞を受賞した。
 

あらすじ

1962年、ニューヨーク。高級ナイトクラブ「コパカバーナ」で用心棒を務めるトニー・リップは、粗野で無学だったが、口が達者で腕っぷしが強く、周囲から頼りにされていた。そんなある日、クラブが改装のため閉鎖することに。しばらくのあいだ無職になってしまったトニーは、黒人ジャズピアニストのドクター・シャーリーの運転手として雇われ、黒人差別が色濃い南部での演奏ツアーに同行することになった。二人は黒人用旅行ガイド「グリーンブック」を頼りに出発するが、出自も性格も異なる彼らは何かと衝突を繰り返し…。
 

かんそう

ヴィゴ・モーテンセン?え?ヴィゴ・モーテンセン・・・?私が知ってる哲学者ヅラのヴィゴじゃないけど・・・?という戸惑いすら抱かせないほどの変身ぶりで、もはや別人。知らないこんな人。この映画で初めてヴィゴを知った人は、過去の画像をググって腰を抜かすがいいわ。さて、1960年代のアメリカといえば、マーチン・ルーサー・キング牧師やマルコムXらによる公民権運動が激しさを極めていたころ。グリーンブックとは、1966年まで毎年出版され、人種差別が激しかった南部を旅をする黒人に重宝された施設利用ガイドブックのことである。そんな60年代アメリカ南部を舞台に「ホワイト・スプレイング(白人目線)」で生ぬるい人種差別を描いてアカデミー作品賞獲ったらばそりゃ、スパイク・リー先生は怒るだろうよ・・・。って、騒動後しばらく経ってからそのニュースを知ったくらいには、私も暢気で無自覚な日本人の典型である。しかし様々な批判はいったん脇に置いてみよう。だってトニー・リップの実の息子が、父ちゃんから聞いた「すてきな思い出」を脚本にしてるんだもの、白人目線のイイ話になるのは必然とも言える。盲目的に人種差別主義者だったトニーが、ドクターの演奏を聴いた途端、一個人として素直にリスペクトの気持ちを抱くようになる。人と人が、人として向かい合い、お互いの背景を乗り越えて友情を育む物語であり、描かれていることは彼らの身に起こったこと、それ以上でもそれ以下でもないと捉えると、実に素敵な作品だと思う。ドクターを演じたマハーシャラ・アリが『ムーンライト』で演じた麻薬ディーラーとは全く異なるムードを醸し出し、品のある立ち居振る舞いは見事。普段の寡黙なムードとはうってかわって演奏を終えたときの弾けるような笑顔が印象的だが、心ない差別や不当な扱いが積み重なるほど、ピアノの音には怒りが滲み、その表情が翳っていく。大胆な役作りで我々を驚かせたヴィゴ・モーテンセン共々、素晴らしい演技で魅了してくれた。そしてユーモアに溢れ、示唆に富んだ脚本が秀逸。ドラマに散りばめれられた笑いの塩梅が絶妙なのは、コメディの名手ファレリー監督だからこそだろう。あたたかく幸せな気持ちにしてくれる、無条件で笑顔になれる映画は良い映画。私は今後、クリスマスの夜にこの映画のことを思い出すだろう。