銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語

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映画日誌’20-18:ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語
 

introduction:

ルイザ・メイ・オルコットの自伝的小説「若草物語」を、『レディ・バード』などのグレタ・ガーウィグがメガホンを取り映画化。19世紀後半のアメリカを舞台に、個性豊かなマーチ家の四人姉妹を描く。『つぐない』『レディ・バード』のシアーシャ・ローナン、『ハリー・ポッター』シリーズのエマ・ワトソン、『君の名前で僕を呼んで』のティモシー・シャラメ、『ミッドサマー』のフローレンス・ピューのほか、ローラ・ダーンメリル・ストリープクリス・クーパーなど豪華なキャストが集結。第92回アカデミー賞では作品賞、監督賞を含む6部門にノミネートされ、衣装デザイン賞を受賞した。(2019年 アメリカ)
 

story:

南北戦争時代下のアメリカ、マサチューセッツ州のマーチ家。女優志望の美しい長女メグ、作家志望で自立心旺盛な次女ジョー、音楽の才能に恵まれるが病弱な三女ベス、絵の才能があり社交的だが頑固な四女エイミーの4姉妹は、愛情深い母とともに、北軍の従軍牧師として出征している父の留守を守って慎ましく暮らしている。父の帰還から7年の月日が経ち、隣家の幼馴染みローリーのプロポーズを拒んだジョーは、作家になる夢を追い掛けてニューヨークにいた。自分にとっての幸せを追い求めて、姉妹はそれぞれの道を歩んでいたが...
 

review:

邦題のストーリー・オブ・マイライフってどこから持ってきたんや。原題が”LITTLE WOMEN”なんだから、そのまんまでええやんけ・・。ちなみに”LITTLE WOMEN”は、著者のルイーザ・メイ・オルコットの父親が、実際に娘たちをそう呼んでいたことに由来するそうだ。幼い娘たちを少女扱いすることなく、一人の立派な女性であるという意味合いで用いられていたそうだ。ますます”LITTLE WOMEN”でよくない!?
 
さて、「若草物語」といえば、少女のバイブルである。美しい長女メグ、ボーイッシュな次女ジョー、愛情深い三女ベス、おしゃまな四女エイミーの、何気ない日々の暮らしを幾度となく読み返し、異なる国の違う時代を生きた4姉妹に想いを馳せたものだ。この物語は今作以前も繰り返し映像化されているが、いかに長い間、読み継がれてきたものか分かる。1世紀半前、南北戦争を背景に書かれたとは思えないほど、リベラルな内容だからだろう。自立した女性を目指すジョー、そんなジョーを愛するローリー。黒人奴隷解放のため北軍の従軍牧師として出征しているマーチ家の父。貧しい隣人に尽くす母。
 
原作は「若草物語」「続 若草物語」「第三若草物語」「第四若草物語」まで出版されているが、今作では「続 若草物語」で実家を離れた4姉妹にフォーカスし、それぞれが過去を振り返るかたちで「若草物語」が挿入されている。そのため、続編を読んでいなければ新しい展開を楽しみつつ、かつて胸をときめかせた「若草物語」のエピソードたちの再現VTRを堪能することができる。おなじみの場面、セリフのひとつひとつやディティールがそれなりに忠実に描かれており、何とも嬉しい気持ちになる。成長し、現実に直面して苦悩する様子と、みずみずしく輝く少女時代の鮮やかなコントラストが、作品に奥行きを出す。さすがグレタ・ガーウィグ、いい仕事するなぁ。物語に引き込まれる脚本と構成が見事。
 
サラ・ポーリーが監督に起用される話もあったらしい。それはそれで観てみたいけど、グレタ・ガーウィグ若草物語は素晴らしかった。ずっとシアーシャ・ローナンの顔面が苦手だったけど、初めて好きになれる気がしたよ。メグ役もエマ・ストーンじゃなくてエマ・ワトソンで本当によかった。エマ違いとかじゃなくて、最初はストーンが配役されていたらしい。いやいくらなんでも10代の少女役は無理でしょうよ。そして、三女エミリーを演じた『ミッドサマー 』のフローレンス・ピューも良かった。鼻ぺちゃは設定通りだとして、ガタイの良さとドスの効いた声は意外だっだけど、4姉妹の美人担当はメグだから適役とも言える。ベス役のエリザ・スカンレン、ミセス・マーチ役のローラ・ダーンの聖女ぶりも尊い。ローリーがティモシー・シャラメなのは世相だから仕方ない。総じて素敵な映画体験であった。
 

trailer:

【映画】15年後のラブソング

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 映画日誌’20-17:15年後のラブソング

 

introduction:

アバウト・ア・ボーイ」などの著書があり、『ブルックリン』などの脚本家としても知られる小説家ニック・ホーンビィの小説「Juliet, Naked」をベースにしたロマンティック・コメディ。ドラマシリーズ「ナース・ジャッキー」などのジェシー・ペレッツが監督を務め、『ピーターラビット』シリーズなどのローズ・バーン、『恋人までの距離』『ビフォア』シリーズなどのイーサン・ホーク、『モリーズ・ゲーム』などのクリス・オダウドらが出演する。(2018年 アメリカ,イギリス)
 

story:

イギリスの港町サンドクリフで、美術館のキュレーターとして働いている30代後半のアニー。長年の一緒に暮らす恋人のダンカンと何不自由ない生活を送っていたが、どこか充たされない思いを抱えていた。ダンカンは1990年代に表舞台から姿を消した伝説のロック歌手タッカー・クロウに心酔していたが、アニーはそのことにうんざりしていた。ある日、タッカーが原因でダンカンと口論になった彼女は、ダンカンが運営するファンサイトに酷評するレビューを投稿してしまう。それを読んだタッカー本人から、アニーのもとに一通のメールが届き...
 

review:

イーサン・ホークって知ってる?むかしむかし、20世紀の終わり頃、『いまを生きる』や『リアリティ・バイツ』で独特の存在感を放っていた、少々物憂気な眼差しが魅力的な美青年がおったんじゃ・・・。時は流れ、紆余曲折した彼の顔にはその人生が深く刻まれ、年相応のくたびれたおじさんになった。でも、あの時の美青年に魅了されたいつかの乙女は、イーサン・ホークが出演していると何となく観に行ってしまうのだ。
 
イーサン・ホーク氏、今回はタッカー・クロウという伝説的シンガー(ツアーの途中で姿を消し、行方知れず)を演じている。しわしわにくたびれて、役作りでボッテリ太ってても、素朴さと色気が共存するイーサン・ホークの魅力を堪能できたので100点。しかも緊急事態宣言下で映画館通いを何ヶ月も辛抱した状況で、映画に対して限りなく優しい気持ちになっており冷静な判断ができないが、いやこれ、なかなか面白かったんじゃないか・・・?
 
タッカー・クロウの信奉者ダンカンと15年も一緒に暮らしていたアニーと、タッカー・クロウ本人の物語だ。ダンカン、こういう面倒臭い男は世界中におるな。この良さが分からないなんてどうかしてるよ、とか平気で言ってくるサブカル系男子。知らんけど。タッカー・クロウ博物館とも言えるダンカンの地下室、私には『死霊館』シリーズのローレン夫妻宅にあるオカルト博物館にしか見えない。
 
アニー、なんでコイツと15年も一緒におったんや・・・って思うけど、ロンドンに比べると刺激が少ない田舎の港町で、少々教養があってなんとなく文化の香りがする、しかも外からやってきた男が素敵に見えちゃう気持ち、わからんでもない。だって田舎町だと稀少種だから、少々難ありでもこれを逃したらもう次がないと思っちゃう。わかる、わかるよー。
 
私の人生に何があったかは置いといて、この映画のよく分からない面白さは、アニーの揺れ動く心情の描写がなかなかリアルで、彼女にシンクロしてしまうからだろう。原作者おっさんだし監督もおっさんなんだけどな。脚本もよく出来ていたし、テンポの良い展開で気持ち良く観ていられる。素敵な映画であった。もう一回観るかと聞かれたら多分観ないし、配給会社がつけた超絶ダサイい邦題で全てが台無しだけども、食わず嫌いしたら勿体ないかもしれないよ。
 

trailer:

【映画】ハリエット

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映画日誌’20-16:ハリエット
 

introduction:

アフリカ系アメリカ人として史上初めて20ドル紙幣の肖像に採用され、アメリカでは誰もが知る実在の奴隷解放運動家ハリエット・タブマンの激動の人生を描いた伝記ドラマ。監督は『クリスマスの贈り物』などのケイシー・レモンズ。ミュージカル「カラー・パープル」の主人公セリー役でブロードウェイ・デビューを果たし、トニー賞主演女優賞、グラミー賞エミー賞ほか数々の賞を獲得した実力派ミュージカル女優シンシア・エリボが主演を務める。主題歌「スタンド・アップ」も担当し、第92回アカデミー賞主演女優賞と歌曲賞にダブルノミネートされた。共演は『オリエント急行殺人事件』などのレスリー・オドム・Jr、『ドリーム』などのジャネール・モネイら。(2019年 アメリカ)
 

story:

1849年アメリカ、メリーランド州ドーチェスター郡。ブローダス家が所有する農場で、幼い頃から過酷な生活を強いられてきた奴隷のミンティは、自由の身となって家族と一緒に人間らしい生活を送ることを願っていた。ある日、奴隷主エドワードが急死し、借金の返済に迫られたブローダス家はミンティを売りに出すことに。遠く離れた南部に売り飛ばされることは、もう二度と家族に会えなくなることを意味しており、ミンティは脱走を決意する。奴隷制が廃止されたペンシルベニア州を目指し、たったひとりで旅立つが...
 

review:

COVID-19感染拡大の影響で上映延期の憂き目にあっていた本作だが、いざ公開されてみると、ミネソタ州ミネアポリス近郊で黒人男性ジョージ・フロイドが白人警察官の不適切な拘束方法によって死亡した事件をきっかけに、ブラック・ライブズ・マター(BLM)運動が大きなうねりとなって世界中にひろがっていた。何とも皮肉な話である。

なお、BLM運動は今に始まったことではなく、2013年2月にフロリダ州で黒人少年トレイボン・マーティンが白人警官ジョージ・ジマーマンに射殺された事件に端を発し、SNS上で#BlackLivesMatterというハッシュタグが拡散されたことに始まっている。自由を求めて闘った奴隷解放運動家ハリエット・タブマンが亡くなった1913年からちょうど100年が経っても、人々はまだ、闘っていなければいけないのだ。

じゃあ、アフリカ系アメリカ人の苦難はいつから始まったのか?植民地アメリカでは1619年に最初のアフリカ人奴隷の記録があるそうだ。大西洋奴隷貿易は15世紀末から19世紀半ばまで続き、1千万人以上のアフリカ人が強制的にアメリカ大陸へと送られた。

ハリエットことミンティは先祖代々奴隷であり、生まれてくる子どもも奴隷となる運命だと告げられ、絶望するところから映画が始まる。そして奴隷制度を正当化するために歪められたキリスト教の教えに従い、「鍬をしっかり掴んで、主人に仕えて働け」と歌い上げられる黒人霊歌が悲しい。

18世紀、農園で働く黒人奴隷はおよそ人間らしい扱いなど受けていなかったであろうが、そのあたりの描写はソフトだ。それどころか、10代のときに頭部に大怪我をした後遺症でナルコレプシーを患うミンティが、「神の声」を頼りに奇跡を起こしていく様子はファンタジーすら感じる。

ミンティさん大活躍の快進撃、面白かった。面白かったんだけど、拭えないコレジャナイ感。どこまでが真実なの・・・?って困惑したが、大体史実らしい。マジか。命からがら逃げ出してきた南部に戻って奴隷救出という極めて危険な作戦を幾度となく成功させ、南部戦争ではスパイとして暗躍しただけでなく、アメリカ史上初の女性指揮官として兵士を動かしている人物を描くには、いささか非合理だ。

個人的には、北部に逃亡する奴隷を匿う手助けをしていた秘密結社「地下鉄道」の背景をもう少し丁寧に描いて欲しかった。少々の物足りなさが残るが、それでも今観るに値する作品であったと思う。

 

「あなた達の居場所を用意しておくために私は行くのよ」——ハリエット・タブマン

 

trailer:

【映画】ジョン・F・ドノヴァンの死と生

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映画日誌’20-15:ジョン・F・ドノヴァンの死と生
 

introduction:

『Mommy/マミー』でカンヌ国際映画祭審査委員賞を受賞し、前作『たかが世界の終わり』でカンヌ国際映画祭グランプリに輝いたグザヴィエ・ドランによる、初英語監督作品。ニューヨークを舞台に、夭折したスター俳優と少年の密かな交流と、謎に満ちた死の真相が描かれる。主演はドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」シリーズなどのキット・ハリントン、『ルーム』『ワンダー 君は太陽』などで知られる天才子役ジェイコブ・トレンブレイナタリー・ポートマンスーザン・サランドンキャシー・ベイツら、豪華な顔ぶれが共演する。(2019年 カナダ,イギリス)
 

story:

2006年、ニューヨーク。人気俳優のジョン・F・ドノヴァンが29歳の若さでこの世を去った。自殺か事故か、あるいは事件か、謎に包まれた死の真相の鍵を握るのは、11歳の少年ルパート・ターナーだった。それから10年の時が過ぎ、ジョンとルパートの“秘密の文通”が一冊の本として出版される。新進俳優として注目される存在になっていたルパートが、彼と交わした100通以上の手紙の公開に踏み切ったのだ。そしてルパートは、著名なジャーナリストの取材を受け、すべてを明らかにすると宣言するが...
 

review:

美しき天才、グザヴィエ・ドランの新作である。19歳の時に監督、主演、脚本、プロデュースをした半自叙伝的なデビュー作『マイ・マザー』で国際的に高い評価を得、その後『わたしはロランス』がトロント国際映画祭で最優秀カナダ映画賞受賞、カンヌ国際映画祭ある視点部門女優賞とクィア・パルム賞を受賞。『Mommy/マミー』で、カンヌ国際映画祭審査員賞受賞、カナダ・スクリーン・アワードで最優秀作品賞を含む9部門を受賞。前作『たかが世界の終わり』は、カンヌ国際映画祭グランプリはじめ、セザール賞最優秀監督賞と最優秀編集賞など多くの映画賞を受賞。って、この子まだ20代よ。恐ろしい子・・・!と言う訳で、公開を待ち望んでいたのであるが、8歳だったドランが当時『タイタニック』に出ていたレオナルド・ディカプリオにファンレターを書いたという自身の思い出をヒントに、着想から10年の歳月を経て挑んだ本作は、これまでの作品と比べるとやや大衆寄りだ。以前からのファンに言わせれれば「こんなのドランじゃない」らしい。ハリウッド臭が鼻につくと、賛否両論。私も『わたしはロランス』に魅了されて以来ドランを追いかけてきたが、いやいや、難解だから芸術性が高いということではないし、分かりやすいことが低俗ということでもないだろう。大衆に歩み寄ったとしても、ドランはドランである。とにかく映像が圧倒的に美しい。おそらく計算され尽くした、鮮烈な印象を残す映像表現に、Adeleの ”Rolling in the Deep” やThe Verveの "Bitter Sweet Symphony” などのエモーショナルな音楽が効果的に挿入され、もうそれだけで惹きつけられてしまう。やはり、グザヴィエ・ドランの才能に魅せられてしまったら、もう抗えないのだ。彼の映像世界はいつだって我々を驚喜させ、感情の奥深いところを揺さぶる。ドランの感性を堪能できた私はたいへん満足したのであるが、ドランがこだわり続けている、母親と息子の葛藤、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の生きづらさ、といったテーマは相変わらず。たしかに言われてみると、もうそろそろ良くない!?って思ったりもする。しかも今回にいたっては、生い立ちやセクシャリティに共通点を持つ、スター俳優ジョンとそれに憧れる少年ルパートが交わしていた秘密の文通を軸に、青年ルパートが回想しながら死の真相に迫るって、テーマ増幅させすぎや。ストーリーと構成に関しては少々脇が甘い。しかし、そんなことはどうでもいいのである。なぜなら、圧倒的に美しかったから。そして、「マイ・プライベード・アイダホ」のオマージュが素敵だったから。
 

trailer:

 

【映画】ジュディ 虹の彼方に

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映画日誌’20-14:ジュディ 虹の彼方に

introduction:

オズの魔法使』『スタア誕生』で知られる女優・歌手のジュディ・ガーランドの伝記映画。47歳の若さで急逝する半年前の1968年冬に行ったロンドン公演の日々を映し出す。監督は『トゥルー・ストーリー』などのルパート・グールド。『ブリジット・ジョーンズの日記』『シカゴ』などのレネー・ゼルウィガーがジュディを演じ、吹き替えなしで全曲を自ら歌い上げ、第92回アカデミー賞で主演女優賞、第77回ゴールデン・グローブ賞で女優賞に輝いた。『マネー・ショート 華麗なる大逆転』のフィン・ウィットロック、『ヘラクレス』のルーファス・シーウェル、『ハリー・ポッター』シリーズのマイケル・ガンボンなどが共演している。(2019年 アメリカ,イギリス)
 

story:

1968年。かつてはミュージカル映画の大スターとしてハリウッドに君臨したジュディ・ガーランドは、度重なる遅刻や無断欠勤によって映画出演のオファーが途絶え、巡業ショーで生計を立てる日々を送っていた。借金がかさみ、住む家も無い彼女は、幼い子どもたちと幸せに暮らすため、起死回生をかけて5週間にも及ぶロンドン公演を敢行すべく独り旅立つことに。英国での人気は今も健在だったが、それまでの荒んだ生活で精神がボロボロになっていたジュディは、舞台に立つことすら危ぶまれる有様だった...
 

review:

この「虹の彼方に」ってダサい邦題は何なん(真顔)と一瞬思ったが、本作は2005年に初演されたピーター・キルター脚本の舞台劇「エンド・オブ・ザ・レインボー」を原作としているそうなので、「配給会社がつける邦題はダサい」というバイアスで断罪しようとしてゴメンなさいという気持ちになっている。さて、この作品を観るにあたっては、ジュディ・ガーランドの壮絶な生い立ちを知っておいた方が良いだろう。作品では明確に描かれないが、エージェントに言われるがまま、ジュディを覚せい剤漬けにしていたのは実の母親である。また、映画の冒頭で ”You are my favorite” と彼女に囁くMGMスタジオの社長ルイス・B・メイヤーは児童性愛者として有名だった。母親に愛されず、13歳からショービズの世界で食い物にされてきた少女は徐々に精神を病み、生涯にわたって不眠症や不安神経症、アルコールや薬物の深刻な問題を抱えていたという。度々、容姿の劣化について書き立てられてきたけど、ジュディに扮したレネーさんがこれまた老婆のよう・・・!と思ったが、ジュディ・ガーランド本人が、長年の不摂生がたたり47歳で亡くなった時はすでに老女のようだったとのこと。何とも物悲しい。また、ジュディがゲイ・アイコンであることも知っておいたほうがよい。彼女が主人公のドロシーを演じた『オズの魔法使』がLGBTQのマスターピースであることに由来するが(かつてゲイを指す業界隠語で”Friend of Dorothy”というものがあった)、実の父や夫など彼女を取り巻く人々がゲイやバイ・セクシャルだったため、同性愛者への差別が強烈だった時代に、彼らへの理解を示していた稀有な存在だったからでもある。本作にも、ジュディの長年のファンであるゲイ・カップルが登場し、彼らの存在を通してジュディがいかに愛された人であったかが描かれる。典型的な破滅型であるジュディの姿はいかにも痛々しいが、そんな描写のなかにあって、彼らとのふれあいはじんわりと暖かい。実際のジュディの生涯においても、そんなひとときがあったと信じたい。って、ジュディに関する情報を仕入れたのちに思ったんだが、つまりはこの作品、先述の予備知識がないとドラマに奥行きが出ないのである。レネー・ゼルウィガー本人による圧巻のパフォーマンスは見応えあり。要するにレネー・ゼルウィガーがよくがんばった映画。
 

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【映画】黒い司法 0%からの奇跡

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 映画日誌’20-13:黒い司法 0%からの奇跡

 

introduction:

冤罪の死刑囚たちのために奮闘する弁護士ブライアン・スティーブンソンが、2014年に発表したノンフィクション『黒い司法 死刑大国アメリカの冤罪と闘う』を原作にした人間ドラマ。『ショート・ターム』などのデスティン・ダニエル・クレットンが監督を務めた。『クリード』シリーズなどのマイケル・B・ジョーダンがブライアンを演じるほか、『Ray/レイ』『ジャンゴ 繋がれざる者』などのオスカー俳優ジェイミー・フォックス、『ショート・ターム』『ルーム』などのブリー・ラーソンらが出演している。(2019年 アメリカ)
 

story:

黒人への差別が根強い1980年代のアメリカ・アラバマ州ハーバード大学ロースクールを卒業し、弁護士資格を取得したブライアン・スティーブンソンは、いくつもの好待遇のオファーを退け、同州で受刑者の人権擁護活動に励むエバアンスリーの協力を得て小さな事務所を設立する。冤罪で死刑判決を受けた黒人の被告人ウォルターらの無罪を勝ち取るべく立ち上がったブライアンだったが、仕組まれた証言、白人の陪審員たち、証人や弁護士たちへの脅迫など、数々の差別と不正が彼の前に立ちはだかり...
 

review:

デスティン・ダニエル・クレットン監督が撮った『ショート・ターム』も本当に素晴らしい作品だったので、本作も期待し過ぎるほど期待して観たが、やはり素晴らしかった。とにかく端正で無駄がない。構図やカットのひとつひとつが美しく象徴的。過剰にドラマチックに描くことをせず、心の揺れや感情のひだを緻密に描き、それは観る者の胸の奥深くに語りかける。脚本も佳いし、マイケル・B・ジョーダンジェイミー・フォックスら役者も素晴らしい。どうでもいいけどジェイミー・フォックスが51歳になってて驚いた。あと、トム・クルーズの元嫁と別れたらしいよ。知らんけど。映画としてクオリティが高いだけでなく、貧困者や黒人に対する偏見に立ち向かうブライアン・スティーブンソンの姿に心を打たれる。貧しい黒人集落で生まれ、身を以て人種差別を経験したブライアンは、ハーバードのロースクール時代に司法修習生として死刑囚の支援をしたことがきっかけで「イコール・ジャスティス・イニシアチブ(EJI)」を立ち上げる。周囲からの反対や妨害、自らも謂れなき差別を受けながら、不当な扱いを受ける黒人死刑囚のために奮闘するブライアンの絶望と希望、そして信念が、デスティン・ダニエル・クレットン監督の確かな手腕によって、一層際立つものとなっている。トートロジー。出てくる白人が軒並みクソでちょっと極端な気もしたが(少しだけ救いがあるものの)、もしかしなくてもこれが現実なのだろうし、1990年頃の話だと思うと寒気がする。黒人の冤罪事件は無くならないし、白人警察官は丸腰の黒人を射殺する。なぜ黒人が「俺たちは生来有罪なんだ」と嘆かなくてはいけないのか。やはり、マーティン・ルーサー・キングが暗殺された1968年から何にも変わっていないのだ。実に見応えのある作品であった。てか、こんな良作、もっと話題になってもよくない!!!???って私は思うのだが、日本での上映館が少なくて悲しい・・・。
 

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【映画】スキャンダル

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映画日誌’20-12:スキャンダル
 

introduction:

2016年にアメリカのテレビ局で実際に起きたセクハラ事件を描いたドラマ。シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビーら、実力派が顔を揃える。監督は『トランボ ハリウッドに最も嫌われた男』のジェイ・ローチ、脚本は『マネー・ショート 華麗なる大逆転』でアカデミー賞を受賞したチャールズ・ランドルフ。『ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男』でアカデミー賞メイクアップ&ヘアスタイリング賞を日本人として初めて受賞したカズ・ヒロ(辻一弘)が、本作でも第92回アカデミー賞でメイクアップ&ヘアスタイリング賞を獲得した。(2019年 アメリカ)
 

story:

2016年、アメリカニュース放送局で視聴率NO.1を誇る「FOXニュース」の局内に激震が走る。元キャスターのグレッチェン・カールソンが、TV界の帝王と崇められるCEOのロジャー・エイルズをセクハラで提訴したのだ。このスキャンダラスなニュースにメディアが騒然とする中、看板番組を背負う売れっ子キャスターのメーガン・ケリーは、自身の成功までの軌跡を振り返り動揺する。一方、メインキャスターの座を虎視眈々と狙っている野心家の若手ケイラに、ロジャーに直談判するチャンスが巡ってくるが...
 

review:

「FOXニュース」というメディアがどのようなものか、ロジャー・エイルズがどのような人物か知っておくと、この作品をより楽しめるだろう。ロジャー・エイルズはニクソン大統領以来30年以上、共和党の大統領選挙においてテレビ戦略を手掛けてきた人物であり、共和党のためだけに作られたこのメディアは(乱暴な言い方をすると)アメリカの政治、大統領を動かしてきた黒幕である。このとてつもない「権力」に屈してきた女性たちが立ち上がり、闘う。この決意はいかほどかと想像を絶するが、何がすごいって、ほんの数年前のこのスキャンダラスな事件を、社名どころか登場人物も実名で映画化しちゃうアメリカ社会である。もちろん一部フィクションはあるが、カズ・ヒロの特殊メイクのおかげで『ガープの世界』でレディを演じてたジョン・リスゴーがジャバ・ザ・ハットにそっくりだよもう。デブなのに自分の容姿に執着してる大食漢が、息をするようにセクハラやパワハラをおこなう様子が映し出されるのだが、女性たちも自分のキャリアのため、ギャラのためにそれを甘んじて受け入れている。なぜなら共和党のためにデマを流すようなFOXニュースに所属していた人間は、もはや他のTV局に採用などされないからだ。ここで生き残るための社内政治も描かれるし、長いものに巻かれる人々の姿も描かれる。シャーリーズ・セロンニコール・キッドマンマーゴット・ロビーという演技力抜群女優がFOXニュースを象徴するような金髪美女に扮しているが、全員アメリカ人じゃないのが皮肉だ。ちなみにマーゴット・ロビーが演じたケイラは架空の人物である。野心家で、なんとかしてロジャー・エイルズに近付き、チャンスを手に入れようとする。何も知らない彼女は、ロジャーの巧妙なやり口に戸惑いつつ、拒絶という選択肢を失い、ドレスをたくし上げてしまう。セクハラのケースとしてはかなりソフトな描写であるが、しかしこの場面は、実に雄弁にさまざまなことを物語っており秀逸。ちらりとのぞくマーゴット嬢の白いパンティには、監督の意図がある。特別ではないその下着は、そのようなことが起こるとは全く想像していない、無防備な心理状態からの恥辱そのものなのだ。ジェイ・ローチ監督さすがや。『トランボ』面白かったもんな。ただ、何だろう、観終わったあとのこのスッキリしない感じは。これは始まりに過ぎず、根拠のない力にねじ伏せられてきた女性たちの闘いはまだ続く、ということの示唆だろうか。
 

trailer: