或る映画凝屋の手記

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】夜明けの祈り

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-43
『夜明けの祈り』(2016年 フランス,ポーランド)
 

うんちく

第二次世界大戦末期、戦場で医療活動に従事したフランス人女性医師マドレーヌ・ポーリアックが遺したメモをもとに、1945年のポーランドで実際に起こった衝撃的な事件を描いたドラマ。『ココ・アヴァン・シャネル』『ボヴァリー夫人とパン屋』などのアンヌ・フォンテーヌが監督を務め、『待つ女たち』などのルー・ドゥ・ラージュ、『レンブラントの夜警』などのアガタ・ブゼク、『女っ気なし』『EDEN/エデン』などのヴァンサン・マケーニュが出演。第42回セザール賞で、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞にノミネートされた。
 

あらすじ

第2次世界大戦の傷痕が残る、1945年12月のポーランド赤十字の医療活動に従事するフランス人医師マチルドは、見知らぬ修道女から助けを求められ、遠く離れた修道院を訪ねる。そこで彼女が目の当たりにしたのは、戦争末期のソ連兵の暴行によって身ごもった7人の修道女たちが、その現実と神への信仰の狭間で苦しみにあえぐ姿であった。かけがえのない命を救おうと決意したマチルドは、激務の合間を縫って修道院に通い、彼女たちの希望の光となっていくが...
 

かんそう

第二次世界大戦末期、ポーランドでは大勢の女性たちがソ連軍兵士から性暴力を受けるという惨劇に遭ったのだそうだ。作品のモデルとなった修道院では、25人の修道女が性暴力を受け、そのうち20人が殺され、5人が妊娠したと言われている。ソ連軍による蛮行の被害者でありながら「貞節」の戒律を守れなかった自らを責め、罪悪感と羞恥心に苛まれて苦悩する修道女たち。多くを語らない彼女たちが味わった恐怖、信仰心と過酷な現実とのはざまで生じる壮絶な葛藤が、フランス人女医マチルドを通して描かれる。撮影監督カロリーヌ・シャンプティエの見事なカメラワークによって産み出される静謐で厳かな空気、美しい讃美歌の響きは、修道女たちの清らかさを際立たせ、その受難がもたらす深い闇とのコントラストを一層強くする。そしてその一方で「信仰」の名の下に行われる蛮行もあるのだと、ふいに突き付けられる。あまりにも残酷で無情だ。ひとつひとつ、心にずしりと重くのしかかるものが複雑に絡み合い、あらゆる問い掛けが頭のなかを駆け巡り、言葉にならない。深い余韻を残す、素晴らしい作品。
 

【映画】ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-42
『ファウンダー ハンバーガー帝国のヒミツ』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

世界最大級のファーストフードチェーン、マクドナルド・コーポレーションの創業者レイ・クロックの伝記ドラマ。50代でマック&ディック兄弟が経営する「マクドナルド」と出会い、その革新的なシステムに勝機を見出し、世界有数の巨大企業を築き挙げた男の半生を描く。監督は、『しあわせの隠れ場所』『ウォルト・ディズニーの約束』のジョン・リー・ハンコック。『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』のマイケル・キートンがレイ・クロックを演じ、『わたしに会うまでの1600キロ』などのローラ・ダーン、『ロング・トレイル!』のニック・オファーマン、『テッド2』のジョン・キャロル・リンチなどが脇を固める。
 

あらすじ

1954年、アメリカ。52歳のレイ・クロックは、シェイクミキサーのセールスマンとして中西部を回っていたが、ある日、8台もミキサーをオーダーしてきたマクドナルドというドライブインレストランに興味を持つ。経営者のディック&マック兄弟がによる、合理的な流れ作業の“スピード・サービス・システム”や、コスト削減・高品質という革新的なコンセプトに勝機を見出したレイは、壮大なフランチャイズビジネスを思いつく。兄弟を説得して契約を交わし、次々にフランチャイズ化を成功させていくが、ひたすら利益を求めるレイとマクドナルド兄弟の関係は次第に険悪となっていき….
 

かんそう

なんとも言えず、後味が悪い。誰が「マクドナルド」の創業者なのか。独自開発した画期的なシステムでドライブインレストランを繁盛させていたマクドナルド兄弟ではないのか。それとも、カリフォルニアの片隅で繁盛していただけにすぎないドライブインを、地球規模の巨大ファストフード・チェーンに展開させたレイ・クロックなのか。たしかに彼は自身でリスクを負い、それこそ「根気よく」真面目に、成功するための努力をした。その情熱は賞賛に値するものであるし、彼がいなければ「世界のマクドナルド」は存在しない。だが、釈然としない。そして結果としてレイ・クロックは、マクドナルドは「不動産投資ビジネス」であると言い放つ。手段を選ばず資本主義経済や競争社会の中でのし上がっていく姿はアメリカン・ドリームの象徴と言えるが、自ら「創業者(ファウンダー)」と名乗るレイ・クロックという男に踏みにじられた人々のことを思うと、戦慄を覚えるとともに気持ちが萎える。とは言え、レイ・クロックの本質に迫っており非常に興味深く面白い。この優れた伝記映画を通して起業家たちが学ぶことは多いだろう。
 

【映画】ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-41
『ボン・ボヤージュ~家族旅行は大暴走~』(2016年 フランス)
 

うんちく

新車でバカンスに出掛けた家族が、故障でブレーキ制御が不能になった車内で繰り広げる騒動を描いたコメディー。フランス製コメディ『真夜中のパリでヒャッハー!』シリーズのニコラ・ブナムが監督を務め、プロデューサーに『アーティスト』のトマ・ラングマンら。『ル・ブレ』『グランド・イリュージョン』などのジョゼ・ガルシア、『アメリ』『ロング・エンゲージメント』などのアンドレ・デュソリエらが出演。 
 

あらすじ

整形外科医の父トム、精神科医で妊娠中の母ジュリア、9歳の娘リゾン、7歳の息子ノエのコックス一家は、押し掛けてきた祖父と一緒に夏休みのバカンスに出掛ける。最新テクノロジーが搭載されているトム自慢の新車で出発するが、ハイウェイを走っている最中、突如としてシステムが故障しブレーキが効かない状況になってしまう。無能な警察官やカーディーラーなどを巻き込みながら、車は時速160キロでハイウェイを暴走し、一家はパニックに陥るが...
 

かんそう

ダサすぎる邦題に物申す委員会としては見過ごせないタイトルであるが、まあいい。なぜなら、本作に思い入れがないからである。そうなのだ。劇場で笑い転げている人を尻目に、笑えない。というのが正直な、個人的な感想なのだ。分かりやすく張り巡らされた伏線も、脚本や演出も、すべてがわざとらしい。バカバカしさやノリや勢いが振り切れてない割に、エピソードを盛り過ぎていて蛇足と感じる箇所も多くてイマイチ、その煽りを受けて、肝心な登場人物のキャラクターを描ききれていないので、映画の世界に入り込めない。面白くないとまでは言わないけど、別に笑えなかった・・・。頭をからっぽにして笑いたかったのに・・・。高性能システム搭載の新車が故障して制御不能に陥る設定とか、最高なんだけどなー。あ、そうそう。一家の自宅のインテリアが素敵だった。
 

【映画】ライフ

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-40
『ライフ』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

国際宇宙ステーションを舞台に、地球外生命体を調査していた6人の宇宙飛行士がその脅威にさらされる恐怖を描いたSFスリラー。『デンジャラス・ラン』『チャイルド44 森に消えた子供たち』などのダニエル・エスピノーサが監督を務め、『デッドプール』のポール・ワーニック&レット・リースが脚本を担当。『ナイトクローラー』のジェイク・ギレンホール、『デッドプール』のライアン・レイノルズ、『ミッション:インポッシブル ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソン、『ウルヴァリン:SAMURAI』の真田広之、『モスクワ、犯された人妻の告白』のオルガ・ディホヴィチナヤらが共演。
 

あらすじ

世界各国から国際宇宙ステーションに集結した6人の宇宙飛行士。彼らのミッションは、火星で採取された地球外生命体細胞の極秘調査である。まさに神秘としかいいようのない生命体の生態に驚愕する6人だったが、細胞は次第に進化と成長を遂げていく。やがて高い知能を誇るようになった地球外生命体「カルバン」に翻弄されるようになった彼らは、宇宙という閉じられた空間で関係が狂い始め、ついには命を落とす者も現れるが...
 

かんそう

ジェイク・ギレンホールが好きだ。ジェイク・ギレンホールが出演していればとりあえず観に行こうと思うくらいにはジェイク・ギレンホールが好きだ。ジェイク・ギレンホールって3回書いたので概ね満足だが、せっかくなので映画の感想も書く。要するに宇宙空間で未知の生物に襲われるパニック映画である。「ライフ」というタイトルから生命体のルーツを辿る高尚な作品かと思ったら非常に凡庸なテーマ設定で、傑作とまでは言わないけど、まぁ、まぁ、面白かった。宇宙という密室で繰り広げられるスリリングな展開と、中弛みすることなく、絶えず張り詰める緊張感で手に汗を握る。火星の生き物はやっぱりタコなのか、と心の中でツッコミつつ、予想だにしない結末に唖然としつつ、ジェイク・ギレンホールの影が薄くて不満。(そこか
 

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【映画】ウィッチ

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-39
『ウィッチ』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

サンダンス映画祭を始め、世界各地の映画祭を圧巻したファンタジーホラー。「魔女」をテーマに、ある信心深い家族が、赤ん坊をさらわれたことをきっかけに狂気へ陥っていくさまを描く。監督はホラー映画の古典的名作『吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)』のリメイク版監督にも抜擢され、ハリウッドで近年最も期待される新人監督ロバート・エガース。主演はM・ナイト・シャマランの『スプリット』でもヒロインを務めたアニヤ・テイラー=ジョイ。第31回サンダンス映画祭で監督賞、インディペンデント・スピリット賞で新人作品賞と新人脚本賞受賞。
 

あらすじ

1630年、アメリカ・ニューイングランド。敬虔なキリスト教であるウィリアムとキャサリン夫婦は、異端的信仰を持つ信者と見なされ村から追放されてしまい、子供達とともに森の近くにある荒地に移り住む。そんなある日、生後間もない赤ん坊のサムが何者かに連れ去られ、行方不明になってしまう。一家が悲しみに暮れるなか、父ウィリアムは娘のトマシンが魔女ではないかと疑い始め、互いに疑心暗鬼となった家族は、やがて狂気の淵へと転がり落ちていく...
 

かんそう

制作費300万ドルという低予算のインディーズ・ホラーながら興行収入4000万ドルの大ヒットとなった本作。17世紀の米国ニューイングランドにおける言語や風俗を映し出しながら、当時のピューリタンの思考回路や視点を通して魔女伝承を描いている。息遣いが届いてきそうなリアリティのなかにオカルト的描写を織り交ぜるが、決して陳腐にならず見事。細部に渡りとても丁寧に作られており、静かに醸成される不穏で邪悪なムードが全体を覆い、得体の知れないものが蠢く闇の深淵を覗き込むような恐怖を生む。信心深さゆえ、超自然的存在によって、そして宗教的ヒステリーによって崩壊していく一家の姿は、17世紀末のセイラムの魔女裁判といったアメリカのトラウマ、あるいは原罪のメタファーとも言えるのかもしれない。父親により魔女の疑いをかけられる娘を演じ、成熟しかけた精神と肉体が、瑞々しいイノセントと同居する10代のあやうい美しさを体現したアニヤ・テイラー=ジョイが素晴らしい。非常に陰鬱で、筆舌に尽くしがたい余韻を残す絶品ホラーであった・・・。
 

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【映画】歓びのトスカーナ

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-38
歓びのトスカーナ』(2016年 イタリア,フランス)
 

うんちく

『人間の値打ち』で絶賛を博したイタリアの名匠パオロ・ヴィルズィ監督が、トスカーナ地方の美しい自然と街並みを背景に、人生を踏み外し社会のアウトサイダーとなってしまった女性たちが自由を追い求める姿を描いた人間讃歌。主演は『ハッピーイヤーズ』などのミカエラ・ラマッツォッティと、『ぼくを葬る』『アスファルト』のヴァレリア・ブルーニ・テデスキダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞(イタリアアカデミー賞)17部門ノミネート、作品賞・監督賞・主演女優賞を含む5部門受賞。
 

あらすじ

イタリア・トスカーナ州の緑豊かな丘の上にある診療施設、ヴォラ・ビオンディ。ここでは心にさまざまな問題を抱えた女性たちが、社会に復帰するための治療を受けている。この施設で女王のごとくふるまう”自称伯爵夫人”ベアトリーチェは、極度の虚言癖があり、嵐のごときハイテンションで周囲の人々を引っ掻き回す存在だが、ある日、痩せ細った身体のあちこちにタトゥーが刻まれた新参者のドナテッラに興味を持つ。ルームメイトになったふたりは施設を抜け出し、行き当たりばったりの逃避行で絆を深めていく。ベアトリーチェは、過去のトラウマから鬱々と自分の殻に閉じこもるドナテッラを救い出そうとするのだが….
 

かんそう

この手のヨーロッパ映画は当たり外れがあるし、観るか観まいかと少し迷って、半信半疑で観に行った。イタリア好きを狙ったような的外れな邦題が残念。原題の"La pazza gioia”は直訳すると「狂気的な歓び」、所謂「お祭り騒ぎ」のことらしい。描かれるのは「幸せをほんの少し」探し求める、心が壊れてしまった女性たちの逃避行だ。少しずつ断片的に明らかになる、過去の傷。彼女たちが狂気に至るまで、愛されなかった過去、受け入れられなかった愛について、語りすぎない程よい匙加減で、それでいて丁寧に描かれていて見事。「言葉はいつも見当違いで滑稽だ」というドナテッラの言葉。人生はあまりにも切なく痛々しく、なんと滑稽で愛おしいものであろうかと。絶望から希望へと生まれ変わるように海の泡と戯れるドナテッラの姿を眺めながら、気が付いたら泣いていた。騒々しくまくしたてる迫力のイタリア語に圧倒されつつ、それでも憎めないベアトリーチェを演じきったヴァレリア・ブルーニ・テデスキが素晴らしかったし、個人的には、あ、薬切れた、っていう瞬間の演技がツボであった。思いがけず、心に染みる傑作。
  

【映画】ヒトラーへの285枚の葉書

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-37
ヒトラーへの285枚の葉書』(2016年 ドイツ,フランス,イギリス)
 

うんちく

ドイツ人作家ハンス・ファラダゲシュタポの記録文書を基に、わずか4週間で書き上げたと言われる『ベルリンに一人死す』を、『天使の肌』で監督も務めた俳優のヴァンサン・ペレーズが映画化。実在したハンペル夫妻をモデルにしたこの小説は、アウシュヴィッツ強制収容所からの生還者であるイタリアの著名作家プリーモ・レーヴィに「ドイツ国民による反ナチ抵抗運動を描いた最高傑作」と評され、1947年の初版発行から60年以上経た2009年に初めて英訳されたことで世界的なベストセラーとなった。『父の祈りを』『ラブ・アクチュアリー』のエマ・トンプソンと『ブレイブ・ハート』『ギャング・オブ・ニューヨークブレンダン・グリーソンが主演を務め、『グッバイ、レーニン!』のダニエル・ブリュールが共演。
 

あらすじ

1940年6月、フランスへの戦勝ムードに沸くベルリンで慎ましく暮らしている労働者階級の夫婦オットーとアンナのもとに、一通の封書が届く。それは最愛のひとり息子ハンスが戦死したという知らせだった。心の拠り所を失った二人は深い悲しみに暮れるが、ある日、ペンを握り締めたオットーは「総統は私の息子を殺した。あなたの息子も殺されるだろう」というアドルフ・ヒトラーとその政権に対する怒りと非難のメッセージをポストカードにしたため…。
 

かんそう

戦後70年以上が経ち、この数年は特に第二次世界大戦下におけるナチスドイツをテーマにした作品が数々生み出されているが、本作は軍隊やレジスタンスではなく、どの組織にも属さない労働者階級の夫婦、市井の人々の視点を通して戦時下のベルリンを映し出している。原題は“ALONE IN BERLIN”、原作のタイトルは「ベルリンに一人死す」。この作品が訴えているのは、ヒトラーの独裁政治に対する非難だけではない。ヒトラーというおぞましい怪物に熱狂し、それを支持した市民の罪深さだ。ベルリン市民は誰1人として、夫妻の行動に共感しなかった。285枚のうち、267枚が警察に届けられたのだ。名もなきドイツ人労働者の絶望的で孤独な闘い、ペンと葉書だけを武器にした命がけの抵抗運動が、美しく端正な映像で寡黙に描かれる。余計なものを一切削ぎ落とすことで、1人息子を戦争に奪われた夫婦の怒りと哀しみがくっきりと浮かび上がり、ずしりと重く心にのしかかってくる。それは波紋のように胸の奥底に広がり、深い余韻を残す。後世に残したい秀作。