銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】マリウポリの20日間

映画日誌’24-22:マリウポリ20日

introduction:

ロシアによるウクライナ侵攻開始から、マリウポリ壊滅までの20日間を記録したドキュメンタリー。監督は、ウクライナ東部出身でAP通信社のビデオジャーナリスト、ミスティスラフ・チェルノフ。エフゲニー・マロレトカと、ワシリーサ・ステパネンコの3人の報道チームで命がけのマリウポリ包囲戦の取材を敢行し、チェルノフが現地から配信したニュース、彼らが撮影した戦時下のウクライナマリウポリ市内の映像をもとにドキュメンタリーを完成させた。第96回アカデミー賞長編ドキュメンタリー賞を受賞。取材チームは2023年ピューリッツァー賞公益賞が授与されている。(2023年 ウクライナアメリカ)

story:

2022年2月、ロシアがウクライナ東部ドネツク州の都市マリウポリへの侵攻を開始。これを察知したAP通信ウクライナ人記者ミスティスラフ・チェルノフは、仲間とともに現地に向かう。ロシア軍の容赦のない攻撃によって水や食料の供給、通信が遮断され、瞬く間にマリウポリは包囲されていく。海外メディアが次々と撤退していくなか、チェルノフたちはロシア軍に包囲された市内に留まり、犠牲になる子どもたちや遺体の山、産院への爆撃などロシアによる残虐行為を命がけで記録し、世界に発信し続けた。やがて取材班も徐々に追い詰められていき、彼らは滅びゆくマリウポリと戦争の惨状を全世界に伝えるため、ウクライナ軍の援護によって市内から決死の脱出を試みる。

review:

2022年2月、人々を震撼させるニュースが世界を駆け巡った。ロシアがウクライナ東部の都市マリウポリへの侵攻を開始したのだ。街は戦火に晒され、民家はもちろん病院や大学まで標的になり、恐怖に震え泣き叫ぶ人々のニュース映像を、信じられない気持ちで眺めていた。もちろん、アフガニスタンやシリア、イスラエルパレスチナなど世界には紛争が続いている地域が他にもあり、ウクライナだけではない。ただ、ウクライナの女性たちの爪に施された美しいネイルが、昨日までの「当たり前の」生活を物語っているようで、戦争や紛争が遠い世界のことではなくなったのを覚えている。

世界を駆け巡ったこれらの映像を撮影したのが、ウクライナ東部出身のAP通信社の記者ミスティスラフ・チェルノフだ。仲間ともにマリウポリ包囲戦の取材を敢行し、ロシア軍の蛮行と市民の惨状を克明に記録。そして今回、ドキュメンタリーとして完成させたのだ。時系列で構成され、いつ、どこで撮影されたのか明確なので、街が戦争という病に冒されていく様子がありありと伝わってくる。同時に、戦場での取材や報道がどのようにおこなわれていたのか、彼らが発信する情報が世界にどのような影響を与えていったのかが分かる構成になっており、ドキュメンタリーとして非常に優れている。

犠牲になる子どもたち、女性たちの姿に涙が止まらない。医者が「これを撮れ、そしてプーチンに見せろ」と何度も言う。ひたすら見るに耐えない光景が映し出されるが、これはフィクションではないのだ。取材班のカメラは、懸命に勤めを果たそうとする医療従事者たちの姿を伝える一方で、略奪する市民の姿すら映し出す。略奪に遭った商店の女主人が「人々は動物になってしまった」と嘆き、まともな市民は「どうかしている」と怒りをあらわにする。「(戦争のもとでは)善人はひたすら善行をおこない、悪人はとことん悪行に走る」という言葉が胸に刺さる。戦争は人間の本質を炙り出す。私もまともでいられるだろうか。

取材班の息遣いやカメラアングルが、彼らの極限の精神状態や、死と隣り合わせの緊迫した状況を生々しく伝えてくる。否が応でも、戦争を体感せざるを得ない。当時ニュースで流れていた映像の数々は、こんな風に命がけで撮影されたものだったのだ。そして、その光景を鮮明に覚えているということは、あまりにもショッキングで脳裏に焼き付いていたということだ。気を確かにしていないと心が押し潰されてしまいそうで、涙ながらのとてもつらい映画体験だったが、観るべきものを観たと思う。戦禍に晒された人々の惨劇を命がけで記録し、粘り強く世界に発信し続けたチェルノフと彼のチームを讃えたい。

すべての人質、兵士、民間人が解放されることを願っている。歴史を変えることはできない。過去も変えることはできない。しかし、我々が共に立ち上がれば、歴史の記録を正し、真実を明らかにし、マリウポリの人々や命を捧げた人々が決して忘れ去られないようにすることができる。映画は記憶を形成し、記憶は歴史を形成するのですから。——ミスティスラフ・チェルノフ

trailer:

【映画】アイアンクロー

映画日誌’24-21:アイアンクロー

introduction:

「呪われた一家」の異名を持つ、アメリカの伝説的なプロレス一家「フォン・エリック・ファミリー」の実話を描いたドラマ。監督は『マーサ、あるいはマーシー・メイ』のショーン・ダーキン。『テッド・バンディ』のザック・エフロンが主演を務め、『逆転のトライアングル』のハリス・ディキンソン、「一流シェフのファミリーレストラン」のジェレミー・アレン・ホワイト、『シンデレラ』のリリー・ジェームズらが共演。米プロレス団体AEWのマクスウェル・ジェイコブ・フリードマンが製作総指揮、元WWE王者のチャボ・ゲレロ・Jr.がプロレスシーンのコーディネーターを務め、それぞれレスラー役で劇中にも登場する。(2023年 アメリカ)

story:

1980年初頭アメリカ、プロレス界に歴史を刻んだ“鉄の爪”フォン・エリック家。元AWA世界ヘビー級王者のフリッツ・フォン・エリックに育てられた次男ケビン、三男デビッド、四男ケリー、五男マイクの兄弟は、父の教えにに従いレスラーとしてデビューし、プロレス界の頂点を目指していた。しかし世界ヘビー級王座戦への指名を受けたデビッドが、日本でのプロレスツアー中に急死したことを皮切りに、フォン・エリック家は次々と悲劇に見舞われ、いつしか「呪われた一家」と呼ばれるようになっていく。

review:

気鋭のスタジオA24と鬼才ショーン・ダーキン監督がタッグを組み、WWEの殿堂入りも果たしているフォン・エリック・ファミリーを描いたと。伝説のプロレス一家のプロレス映画ねぇ、マッチョで男臭そうと思ってスルーするところだったが、「呪われた家族」の人間ドラマと知って観賞してみたら面白かった。そりゃA24だしね。ただのプロレス映画のわけがないよね。なお、主演のザック・エフロンが筋骨隆々に仕上がっており、『グレイテスト・ショーマン』でゼンデイヤに見限られるおぼっちゃまの肉体改造だけでも見てやって、という気持ちである。

フォン・エリック家の父フリッツは、巨大な手で敵レスラーの顔をわしづかみする必殺技“アイアンクロー”を生み出し、19960~70年代に一世を風靡したレスラーだ。日本でもジャイアント馬場アントニオ猪木らと激闘を繰り広げたらしいので、プロレスが大好きだった死んだばーちゃんも見てたかな。彼は息子たち全員をレスラーに育て上げ、プロレス界で“史上最強の一家”となることを目指す。息子たちはレスラーとして才能を開花させプロレス界の頂点に登り詰め、フォン・エリック家は「スポーツ界のケネディ家」と呼ばれたそうだ。

しかし栄光を掴んだ家族は、にわかに信じがたい悲劇の連鎖に陥っていく。長男ジャックJr.は幼少期に事故死、三男デビッドはツアーで訪れた日本で急死。NWA世界王者となった四男ケリーはバイク事故で右足を切断、1993年に拳銃自殺。怪我の後遺症に苦しみ、精神安定剤の過剰摂取で自殺した五男マイク、作品には登場しないが六男のクリスがおり、小柄な喘息持ちだった彼も1991年に拳銃で自ら命を絶っている。フィクションならばそんなバカなという気分にすらなりそうな展開だが、ノンフィクションなのでしんどい。

しかし、一家を襲った悲劇がただ羅列されているわけではない。厳格な家父長制のもとで絆を強くした深い兄弟愛、家族の呪縛。長年アメリカ社会に害をもたらしてきた「有害な男らしさ」を体現しなければいけなかった兄弟たちの苦悩、唯一生き残った次男ケビンの「マチズモ(男性優位主義)」からの解放が描かれており、普遍的で骨太な人間ドラマに仕上がっている。また、元WWE王者のチャボ・ゲレロ・Jr.がプロレスシーンのコーディネーターを務め、80年代のプロレスのディテールが正確に再現されており、プロレスファンにも見応えがあるだろう。プロレスに興味があってもなくてもおすすめ。

一家の物語はアメリカの歴史のごく小さな一部分に過ぎないが、長年アメリカの文化に害を及ぼしてきた極端に歪められた男らしさや、近年僕たちがやっと理解し始めた考え方を掘り起こしている。ファミリードラマであり、ゴシックホラーでもあり、スポーツ映画でもある本作は、アメリカの中心部で展開する真のギリシャ悲劇ともいえる。ケビンが家族の掟を破って呪いを打ち砕き、より賢く、強く、平穏な心を持って苦境を脱する、復活の物語なのだ。——ショーン・ダーキン監督

trailer:

【映画】オーメン:ザ・ファースト

映画日誌’24-20:オーメン:ザ・ファースト

introduction:

1976年に公開され、全世界を恐怖に包み込んだレジェンド・オブ・ホラー『オーメン』に登場する悪魔の子・ダミアンの誕生にまつわる秘密を描いたホラー。これが劇場長編映画デビューとなるアルカシャ・スティーブンソンが監督を務め、『オーメン』の脚本家デヴィッド・セルツァーがキャラクターの創作を手掛けている。主演はテレビドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」のネル・タイガー・フリー、『生きる LIVING』などのビル・ナイ、『蜘蛛女のキス』などのソニア・ブラガ、『ウィッチ』などのラルフ・アイネソンらが共演する。(2024年 アメリカ)

story:

新たな人生を歩むべく、イタリア・ローマの教会にやってきたアメリカ人修練生のマーガレット。教会で修道女になるための奉仕活動に従事するなか、不可解な連続死に巻き込まれてしまう。やがて彼女は、恐怖で人々を支配すべく悪の化身を誕生させようとする教会の邪悪な陰謀を知ることに。すべてを明らかにしようとするマーガレットの前に、さらなる戦慄の真実が待ち受けていた。

review:

6月6日午前6時に誕生し、頭に「666」のアザを持つ「悪魔の子ダミアン」と、彼を取り巻く人々に起きる不吉な出来事を描き、世界中を恐怖のどん底に突き落としたホラー映画の金字塔『オーメン』の前日譚だ。反キリスト、ダミアン出生の秘密に迫る。1976年に公開された『オーメン』は、映画に関わった人々が数々の不可解な事故や現象に見舞われたことでも知られている。実際、主演俳優グレゴリー・ペックの息子の死を皮切りに、関係者が立て続けに落雷事故や爆破事件に遭遇し、撮影時に動物が凶暴化するなど、呪いはさまざまな形で現実のものとなった。

この呪われた物語の基本的な構想を生んだ広告会社の重役ロバート・マンガーは、映画の制作が具体化すると途端に態度を豹変させ人が変わったようになり、周囲の人々に「この映画は呪われるだろう」と語るようになったそうだ。そればかりか、「もし悪魔の唯一の武器が人間の眼に見えないものであるなら、そしてその武器を取りあげるようなことが試みられたら、悪魔は必ずそれを止めようとするだろう」という、何とも意味深な言葉を残したという(って「ムー」に書いてあった)。なお、本作の撮影中にも、関係者が犬やカラスに襲われ、落雷事故に遭遇したらしい。ヒィ。

全体に漂う不穏なムード、音楽と音響効果が素晴らしい。ジャンプスケア的なドッキリや不快でおぞましいグロ描写など、ホラー映画としてよく出来ている。なにしろホラー映画に耐性がありすぎる人なので恐いか恐くないか判断ができないんだが、生身の人間が創り出した深い闇とオカルティックな現象が織り成すドラマが面白かった。ダミアンは誕生しているわけだから、これから起きる悲劇の予測はついているものの、スリリングな展開にすっかり引き込まれてしまった。ところで枢機卿役のビル・ナイおじさん、『ラブ・アクチュアリー』のときと印象が変わらなくてすごいよね。

しかしここで重要な告白をしておくと、一作目の『オーメン』はおろか、これまでにシリーズの作品を一切観ていない。シリーズのファンの方に呪われそう。もちろん一般教養として「6月6日午前6時に生まれた」「頭に666のアザを持つ」「悪魔の子ダミアン」などのモチーフとあらすじくらいは知っていたが、そんなやつの感想なのでアテにしないほうがいいかもしれないし、だからこそニュートラルで先入観のない感想を抱いているかもしれないし、そうじゃないかもしれない。実は人からもらったDVDが家にあるので観てみようかな・・・。

trailer:

【映画】オッペンハイマー

映画日誌’24-19:オッペンハイマー

introduction:

インターステラー』『TENET テネット』などの衝撃作を送り出してきたクリストファー・ノーラン監督が、「原爆の父」と呼ばれた天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落の生涯を描いたドラマ。『インセプション』などノーラン監督作品に出演してきたキリアン・マーフィーが主演を務め、ロバート・ダウニー・Jr.、エミリー・ブラントマット・デイモン、フローレンス・ピュー、ジョシュ・ハートネットケネス・ブラナーなど豪華な顔ぶれが脇を固める。本作ではIMAX65ミリと65ミリ・ラージフォーマット・フィルムカメラとを組み合わせた、最高解像度の撮影を実践。第96回アカデミー賞では同年度最多となる13部門にノミネートされ、作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞編集賞、撮影賞、作曲賞の7部門を受賞した。(2023年 アメリカ)

story:

第二次世界大戦下のアメリカ。極秘に立ち上げられたプロジェクト「マンハッタン計画」に参加した物理学者のJ・ロバート・オッペンハイマーは、優秀な科学者たちを率いて世界初の原子爆弾を開発に成功する。しかし、原爆が実戦で投下され、その恐るべき惨状を聞いたオッペンハイマーは深く苦悩する。戦後、さらなる威力をもった水素爆弾の開発に反対するようになるが、冷戦や赤狩りなど、激動の時代の波に飲み込まれていく。

review:

1945年7月16日、アメリカ合衆国ニューメキシコ州で、人類最初の核実験がおこなわれた。「トリニティ実験」と呼ばれたこの核実験をもって、世界は「核の時代」に突入した。人類の活動が地質や生態系に影響を与えるようになった地質年代として提案されている「人新世」の始まりとされることもある。そしてその実験から数週間後、8月6日に高濃縮ウランを用いた原子爆弾リトルボーイ」が広島に、その3日後の8月9日にはプルトニウムを用いた原子爆弾「ファットマン」が長崎に投下され、1945年末までに広島で約14万人、長崎で約7万4千人もの市民が命を落としたのである。

第二次世界大戦下、ナチス・ドイツが進める核兵器開発への危機感を背景に誕生した国家軍事プロジェクト「マンハッタン計画」の科学部門を率いて「トリニティ実験」を成功に導き、「原爆の父」と呼ばれたロバート・オッペンハイマー。鬼才クリストファー・ノーランが、ピュリッツァー賞を受賞したノンフィクションをベースに、世界の運命を握ったこの天才科学者の栄光と没落の生涯を描き、2023年7月に全米公開されると世界興収10億ドルに迫る世界的大ヒットを記録。「バーベンハイマー」の炎上騒ぎなどもあり、大手が配給を見送ったため日本国内での公開が危ぶまれたが、ビターズ・エンドの英断によって2024年3月29日の劇場公開に至った。

広島・長崎への原爆投下による凄惨な被害状況を伝えるシーンが出てこないことへの批判もあるようだが、クリストファー・ノーランは、世界が変わった瞬間に我々を立ち合わせた。「戦争を終わらせ、息子たちを家に帰すため」という大義名分によって、原爆が米国社会に歓迎されているさまが映し出され、日本人としては少々複雑だ。しかしその熱狂のはざまで、知的探究の果てに一線を超える破壊兵器を設計してしまった科学者の呵責と葛藤をくっきりと描き出しており、彼が生涯その十字架を背負って生きていたことを知る。きっと世界で唯一の被爆国で暮らす我々こそ、「神の火」を盗んで人類に与えたプロメテウスの顛末を目の当たりにするべきなのだ。

彼の物語は私たち全員に関わるものです。彼らの行動は、良かれ悪かれ、私たちの世界を規定し、私たちはその中で生き続けている。だからこそ、彼の物語をできるだけ大きなスクリーンにかけ、できるだけ多くの人に観てもらうことが、この映画の望むことなのです。——クリストファー・ノーラン

ノーランのストーリーテラーとしての求心力、映像の力は言わずもがな。賞レース総なめも納得の最高傑作、IMAXで体験することをお勧めする。アホなので人間関係の整理が追いつかなかったけど、実力派揃いのメインキャストはもちろん、ゲイリー・オールドマンケイシー・アフレックラミ・マレックなどのオスカー俳優がちょい役で出てきて贅沢なキャスティングに驚く。『戦場のメリークリスマス』のロレンス、世界一美しいターザンことアレクサンダー・スカルスガルドの弟グスタフも発見。どうでもいいけど、私の青春(笑)『メンフィス・ベル』のマシュー・モディーンがおじいちゃんになってて衝撃だったわい・・・。そしてアジアの星キー・ホイ・クァンを無視したロバート・ダウニー・Jr.のことは許さない。

trailer:

【映画】ゴーストバスターズ/フローズン・サマー

映画日誌’24-18:ゴーストバスターズ/フローズン・サマー

introduction:

1980年代に世界的ブームを巻き起こした映画『ゴーストバスターズ』のシリーズ第5作目。2021年に公開されたジェイソン・ライトマン監督の『ゴーストバスターズ アフターライフ』の続編となる。『モンスター ハウス』のギル・キーナンが監督を務め、ジェイソン・ライトマンと共同脚本を手がけた。『アントマン』シリーズなどのポール・ラッド、『ゴーン・ガール』などのキャリー・クーン、『僕らの世界が交わるまで』などのフィン・ウルフハード、『gifted ギフテッド』などのマッケナ・グレイスらが出演するほか、80年代版のビル・マーレイダン・エイクロイド、アーニー・ハドソンらが集結。(2024年 アメリカ)

story:

真夏のニューヨーク。謎の男によって、先祖代々伝わるという骨董品が街角のオカルト鑑定店に持ち込まれた。ゴースト退治のプロである”ゴーストバスターズ”として活動するフィービーらスペングラー家は、ゴースト研究所の調査チームと協力し、すべてを一瞬で凍らせる“デス・チル”のパワーを持つ史上最強ゴースト<ガラッカ>を封印する”ゴーストオーブ”であることを突き止める。しかし、手下のゴーストたちの策略によって、その封印が解き放たれ…

review:

3月末日。私の誕生日に、楽しみにしていた一本の映画が封切られた。みんな大好き『ゴーストバスターズ』だ。超常現象を研究していた科学者ピーター、レイモンド、イゴンの3人+ウィンストンがニューヨークの街でゴーストたちと戦ってから30年が経ち、イゴン・スペンクラー博士の孫娘が主人公に。シリーズ生みの親であるアイヴァン・ライトマン監督の息子、ジェイソン・ライトマン監督が始めた、新しいゴーストバスターズの物語の続編だ。

前作はオリジナル版へのリスペクトと愛がつまった、最高の映画だった。アウトサイダーたちが活躍する荒唐無稽な展開、ハイテクながらクラフト感あるお馴染みのガジェット、どこか愛嬌あるゴーストたち。父アイヴァンが創り出した「ゴーストバスターズ」のスピリットを息子ジェイソンが受け継ぎ、敬意をもって新しい世代の物語へと昇華させていた。あまりにも感動してパンフレットと「No Ghost」のキーホルダーを買って帰ったくらいだ。

というわけで『オッペンハイマー』を後回しにしてスキップしながら劇場に駆け込んだのであるが、すごく眠かった。というか盛大に寝た。一言で言うと冗長で退屈、全体的にイマイチ。なして!?どうして!?なんだが、後から気付いたことには、残念なことにジェイソン・ライトマンが監督を降板しておった・・・。脚本の執筆には参加していたとのことだけど、前作のエモさがないし、やたらと説明くさいセリフが眠気を誘う。

中途半端に家族や思春期の葛藤を差し込まれて、いつ氷河期来るんだよ・・・と思ってたら寝た。「海の向こうから巨大な氷柱が大量に出現し、街は氷の世界に」なったのかどうかも記憶が曖昧。気付いたら一家とゴーストが闘ってたけど、自分の身に一体何が起きたのやら。しかしゴーストバスターズの活躍にNYが歓喜して、あの名曲が流れてくると、まあいいかと言う気持ちになり、マシュマロマンのフィギュアほしぃーってなるからずるい。

trailer:

【映画】デューン 砂の惑星 PART2

映画日誌’24-17:デューン 砂の惑星 PART2

introduction:

『メッセージ』『ブレードランナー2049』などのドゥニ・ビルヌーブ監督がフランク・ハーバートSF小説デューン」を映像化し、第94回アカデミー賞で6部門に輝いたSFアクション『DUNE デューン 砂の惑星』の続編。惑星デューンを舞台に繰り広げられる壮大な宇宙戦争を描く。ティモシー・シャラメゼンデイヤレベッカ・ファーガソンら前作のキャストに加え、『エルヴィス』のオースティン・バトラー、『ミッドサマー』のフローレンス・ピュー、『007 ノー・タイム・トゥ・ダイ』のレア・セドゥらが新たに出演する。(2024年 アメリカ)

story:

砂の惑星デューンをめぐるアトレイデス家とハルコンネン家の壮絶な宇宙戦争が勃発。ハルコンネン家の策略により、アトレイデス家は一族を滅ぼされてしまう。最愛の父とすべてを失い、唯一の生き残りとなった後継者ポールは、運命の女性である砂漠の民チャニと心を通わせながら、救世主としての運命に導かれていく。一方で、ハルコンネン家は宇宙を統べる皇帝と連携し、その力を増していた。新たな支配者としてデューンに送り込まれてきた次期男爵フェイド=ラウサに対し、ポールは反撃の狼煙を上げ、最終決戦に挑む。

review:

圧倒的な映像体験をした。想像を遥かに超えて、ただただ凄かった。低気圧と花粉症と抗ヒスタミン剤で冴えない脳がバキバキに覚醒して、眠気なんて宇宙の彼方に吹っ飛んでいった。どうせジェイソン・モモアたんは出てこないし寝ちゃうかも、なんて思ってて本当にすみませんでした・・・。一瞬一瞬に目が釘付けになり、166分があっという間。この没入感をどう言葉にしていいのか分からない。こんなに語彙力を失ったのはバーフバリ以来かもしれない。とにかく可能な限りIMAXで観るべきである。この映像体験を超えるのは、3作目だけだろう。

ティモシー・シャラメを愛でる映画であることは相変わらずだが、ていうかティモシー・シャラメが主演する映画は大体そうだが、今回からポールと敵対するハルコンネン家のフェイド=ラウサとして『エルヴィス』のオースティン・バトラーが登場。冷酷で残忍な暴君を、独特の存在感で演じる。最初、スカルスガルド家のアレクサンダーかと思った。ステラン父さん、原型留めてないけどハルコンネン男爵だしね。フローレンス・ピューもレア・セドゥも登場するだけで不穏だし、カルマ背負ってそうな存在自体が凶兆。もはや3作目が楽しみである。

ここにきて、俄然『ホドロフスキーのDUNE』を観たくなってきた。1975年にホドロフスキーによって小説「デューン」の映画化が企画されるも撮影を前に頓挫したという、“映画史上最も有名な実現しなかった映画”の顛末を描いたドキュメンタリーである。ホドロフスキーのストーリーボードはハリウッドの各スタジオに持ち込まれ、その構図や設定などのアイデアスターウォーズやエイリアンを始めとしたSF映画に多大なる影響を与えたと言われている。本作にもどのくらい影響を与えているのか、ホドロフスキーのファンとしても興味深い。

trailer:

【映画】DOGMAN ドッグマン

映画日誌’24-16:DOGMAN ドッグマン

introduction:

『レオン』のリュック・ベッソンが実際の事件に着想を得て監督・脚本を手がけたバイオレンスアクション。“ドッグマン”と呼ばれるダークヒーローの壮絶な人生を描く。『アンチヴァイラル』『ゲット・アウト』などのケイレブ・ランドリー・ジョーンズが主演を務め、『アルゴ』などのクリストファー・デナムらが共演する。2023年・第80回ベネチア国際映画祭コンペティション部門出品。(2023年 フランス)

story:

ある夜、一台のトラックが警察に止められる。運転席には負傷した女装した男、荷台には十数匹の犬。“ドッグマン”と呼ばれるその男は、拘留所で自らの半生について語り始める。犬小屋で育てられた男ダグラスは、成長していくなかで恋を経験し、世間になじもうとするも失恋によって深く傷ついていく。犬たちの愛に何度も助けられてきた彼は、生きていくために犬たちとともに犯罪に手を染めるが、「死刑執行人」と呼ばれるギャングに目をつけられてしまう。

review:

「レオンの衝撃から30年」って間のキャリアがなかったことにされているリュック・ベッソンの新作観てきた。ジャン=ジャック・ベネックスレオス・カラックスとともに「恐るべき子供たち」と呼ばれ、ヌーヴェル・ヴァーグ以後のフランス映画界に「新しい波」をもたらしたはずの天才は、2000年代には映像作家としての輝きを失っていったように思う。そういえば広末とすったもんだした『WASABI』ってあったねぇ。2018年頃には性的暴行容疑で告発されたりもして、世の中的には「終わった人」の印象も強い。

そんなリュック・ベッソンが、父親によって犬小屋に監禁されていた少年の実話に触発されて「ドッグマン」というダークヒーローを誕生させ、完全復活を果たした(と言われている)。父親によって犬小屋に放り込まれ、激しい暴力に晒されながら育ち、失恋や裏切りに傷付き絶望しながらも、生きる術を求めて犬たちと共に犯罪にすら手を染めてしまう「ドッグマン」ことダグラス。精神科医との対話を通して、運命に見放された彼の数奇で凄絶な生い立ち、長い苦しみが淡々と回想されていく。

家族や社会に虐げられ、心身ともに満身創痍になりながらも人間性と尊厳を損なわないダグラスの生き様に心を掴まれてしまう。生活苦の果てにドラッグクイーンとして才能を開花させつつ、これが想像を絶するわんこ使いなのである。彼が犬たちと以心伝心だとして、いくらなんでも犬が賢すぎるが、そこはベッソン先生のファンタジーということでいいじゃないか。んな馬鹿なと思うけど、映像の力と面白さのほうが上回って不思議な説得力がある。そして宗教的なモチーフで描かれる意味深なラストシーンが、いっそう物語の寓話性を呼び起こす。

世界を慈しんでいるようでどこか物哀しい、ケイレブ・ランドリー・ジョーンズのムードがいい。ジェンダーレスな透明感を持ち、神秘的。17歳の時コーエン兄弟の『ノーカントリー』でスクリーンデビューを飾ったらしい。その他『ゲットアウト』『フロリダプロジェクト』『スリービルボード』などちょいちょい出演しておられるんだけど、完全にノーマークだったなぁ。この無二の存在感、今後が楽しみ。どうでもいいけどマリリン・モンローに扮した姿はIKKO氏と空目してフフッてなったよね。まぼろし

trailer: