銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ロスト・キング 500年越しの運命

映画日誌’23-42:ロスト・キング 500年越しの運命

 

introduction:

ヴィクトリア女王 最期の秘密』や『クィーン』などのスティーヴン・フリアーズ監督が『あなたを抱きしめる日まで』の制作チームとともに、500年以上にわたり行方不明だった英国王リチャード三世の遺骨を探し当てた主婦フィリッパ・ラングレーの実話を映画化。『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンスがフィリッパ・ラングレーを演じ、フィリッパの夫ジョンを演じたスティーヴ・クーガンが脚本・製作を務める。イギリス本国では、遺骨発見から10周年のタイミングで公開された。(2022年 イギリス)

story:

イギリス・エディンバラに暮らすワーキングマザーのフィリッパ・ラングレーは、職場で上司から理不尽な評価を受けるが、別居中の夫からは生活費のため仕事を続けるように言われ苦悩の日々を過ごしている。そんなある日、息子の付き添いでシェイクスピア劇「リチャード三世」を観劇した彼女は、冷酷非情な王として悪名高いリチャード三世も実は自分と同じように不当に扱われてきたのではないかという疑問を抱くようになる。真実を解き明かそうと歴史研究にのめり込んだ彼女は、川に投げ込まれたと長らく考えられてきたリチャード三世の遺骨を探し出し、彼の汚名をそそぐことを決意するが…

review:

2012年、530年行方不明だった英国王リチャード三世の遺骨がイングランド・レスター市庁舎の駐車場から発見され、騒然となった。この英国王室の歴史を揺るがす世紀の大発見の立役者は、主婦でアマチュア歴史家のフィリッパ・ラングレーだった。そんな驚きの実話を、過去にも英国王室にまつわる映画を手掛けてきたスティーヴン・フリアーズ監督が『シェイプ・オブ・ウォーター』のサリー・ホーキンスを主演に迎えて映画化したのが本作だ。監督、御年82歳とのことで、映画界の80代はどうしてこんなにお達者なのか・・・。

リチャード三世は、ヨーク朝最後のイングランド王。ヨーク家とランカスター家との間でイングランド王位をめぐって激しい戦いが繰り広げられた薔薇戦争の最後を飾る王だ。残忍冷酷、醜悪不遜な稀代の奸物として名高いが、ヨーク朝に変わって新たに興ったテューダー王朝時代の御用学者が、王権を奪取したヘンリー7世を正当化し美化するため、リチャード三世を極悪人に仕立て上げて記録したためと言われている。そしてその「悪名」を決定的にしたのが、彼を醜い姿をした狡猾な冷酷非情の王として描いたシェークスピアであり、その人物像が後世に広く伝わったのである。

一方で、リチャード三世を敬愛し、王の汚名を雪ぎ「名誉回復」を図ろうとする「リカーディアン (Ricardian) 」と呼ばれる歴史愛好家たちがおり、欧米には彼らの交流団体も存在する。フィリッパ・ラングレーもシェイクスピアの舞台「リチャード三世」を観劇したことで、記録に残るリチャード三世とシェイクスピアの描写が全く食い違っていることに違和感を抱き、なぜリチャード三世の本当の話が伝えられていないのか奇妙に思ったことをきっかけに「リチャード三世協会」に入会している。フィリッパ曰く、リチャード三世は勇敢で忠誠心にあふれ、敬虔で正義感の強い人だという証拠があるらしい。

周囲からどんなに懐疑的な目を向けられても、迷信の裏に隠された真実を掘り下げ、シェイクスピアが描いた悪名高い人物とはまったく異なる国王の姿を明らかにしていくフィリッパの奮闘が描かれる。そこにリチャード三世の亡霊というファンタジーが織り込まれるのでいささか戸惑うが、彼女なりのリサーチに基づいているとはいえ、かなり直感で専門家の意見を無視してココ掘れワンワン言うのよね。その整合性をとるためのファンタジーなんだと思われる。どうでもいいけど、オンラインゲーム「Among us」で野生のカンで「こいつがインポスターだって!」を連発して(大体当たってる)みんなにお前がインポスターだろ!って勘繰れてしまう自分と重なったわ・・・。

そして実は遺骨発見後、フィリッパは物事の中心や表舞台から取り残されてしまう。彼女の功績がレスター大学の権威によって隅っこに押しやられてしまう描写にめちゃくちゃモヤるが、事実は事実としてストレートに描いているのは誠実な態度だろう。そのせいで何となく後味の悪さが残るものの、こうして彼女の「究極の推し活」が映像化されたことでリチャード三世も微笑んでいるんじゃないかな。リチャード三世を知る機会にもなったし、別居中の夫や息子たちがなんだかんだ言いながらサポートしてくれる家族愛にもほっこりするし、総じて素敵な映画であった。推しは尊い

trailer: