劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-57
『タリーと私の秘密の時間』(2017年 アメリカ)
うんちく
『JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』でアカデミー賞にノミネートされたジェイソン・ライトマンが、生活に追われ疲れ果ててしまった女性が、ベビーシッターとの交流を通して自分を取り戻していくさまを描いた人間ドラマ。徹底した役作りで知られ、『モンスター』でアカデミー賞を獲得したシャーリーズ・セロンが18キロ増量し、毎日に奮闘する女性を演じた。脚本は『ヤング≒アダルト』でもライトマン監督とタッグを組んだディアブロ・コディ。『ブレードランナー 2049』で鮮烈な印象を残したマッケンジー・デイヴィスが共演している。
あらすじ
もうじき3人目の子供が生まれるマーロは、大きなお腹を抱えながら、娘のサラと息子のジョナの世話や家事に追われる毎日を暮らしていた。息子のジョナは情緒が不安定で、マーロが校長に呼び出されることもしばしば。夫のドリューは優しいが、家のことは妻に任せきり。無事に女の子を出産したマーロだったが、もはや限界と心が折れてしまう。事業に成功して裕福な兄が、出産祝いにと手配してくれた夜間のベビーシッターを頼むことに。ところが22時半に現れたタリーは、年上のマーロにタメ口をきき、ファッションもメイクもイマドキの女の子。戸惑うマーロだったが、タリーの完璧な仕事振りによって、荒れ放題だった家はたちまち片付き、家族にも余裕が生まれていく。久しぶりに笑顔を取り戻したマーロはタリーに信頼を寄せ、二人は友情を育んでいくが…
かんそう
『アトミック・ブロンド』で凄腕の女性諜報員としてサイボーグのような肉体美を披露していたシャーリーズ・セロン姉さんが、18キロも増量して産後の中年女性のたるんだ身体を創り上げ、子育てや家事に追われる日常を痛いほどリアルに怪演。と言っても、私は育児したことがないので想像の範疇だが、それでも気が滅入るほどリアルだった。もう、怪演としか言いようがない。夫のドリューは温厚で優しい男だけどワーカーホリックで家のことは妻に任せっぱなし、ときにデリカシーがないことを言ったりする。虚ろな瞳で、言い返す気力もないマーロ。そして出口のない海へと追い詰められていく。そこへタリーという若いナイトシッターがやってきて、マーロを絶望の海から救い出す物語だ。人に頼ることが出来ず、一人で頑張りすぎて憔悴していたマーロが、タリーの支えによって心身の余裕と、輝きを取り戻していく。マーロがタリーの存在に癒されているとき、ふと、観る者の心も癒されていることに気付く。シンディ・ローパーやヴェルヴェット・アンダーグラウンドのナンバーが、ブルックリンへと走らせる車をタイムマシンに変え、不思議な浮遊感を味わう。そしてタリーがどこからやってきたのか判ったとき、散りばめられたパズルのピースが立体感を持って浮かび上がってくる演出と構成が、深い余韻を残すのだ。程良いさじ加減で余白を残し、それぞれがそれぞれの思いを抱けるようになっている。素敵な作品であった。ちなみに言い忘れそうだが、本件、ダサい邦題に物申す委員会の出動案件である。これはあかん。乳飲子抱えてる妻に、冷凍ピザか、ご馳走やな。って皮肉言う夫くらいあかん。