銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】mid90s ミッドナインティーズ

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映画日誌’20-35:mid90s ミッドナインティー
 

introduction:

マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』などで知られる実力派俳優ジョナ・ヒルが、気鋭の映画スタジオ「A24」とタッグを組み、制作した青春ドラマ。自身の半自伝的な脚本を手掛け、初監督を務めた。主演は『ルイスと不思議の時計』『聖なる鹿殺し』などのサニー・スリッチ。『ファンタスティック・ビースト』シリーズのキャサリン・ウォーターストン、『スリー・ビルボード』『マンチェスター・バイ・ザ・シー』のルーカス・ヘッジズらが共演する。(2018年 アメリカ)
 

story:

1990年代半ばのロサンゼルス。シングルマザーの家庭で育った13歳のスティーヴィーは、力の強い兄のイアンに全く歯が立たず、早く大きくなって見返してやりたいと願っている。そんなある日、街のスケートボード・ショップに出入りする少年たちと知り合ったスティーヴィーは、驚くほど自由でクールな彼らに憧れを抱く。大事にしていたラジカセと交換してまで、兄イアンが使い古したスケートボードを手に入れ、そのグループに近付こうとするが...
 

review:

最近はちょっと細めの太め俳優ジョナ・ヒルが「A24」と組んで映画を撮ったと。彼は元々脚本家志望で、クリント・イーストウッド監督の『運び屋』に製作として参加している。そこに興味はあったが、スケートボードカルチャーの匂いがしたので、やっぱあんま興味ないわと思って敬遠しようとした。が、1990年代に多感な時期を過ごした世代の心を鷲掴みにしているらしいと聞き、映画館に足を運ぶ。私の青春にスケートボードカルチャーが入り込む余地は一ミリもなかった。と言いたいところだが、高校生のときvansのスリッポン持ってたねぇ・・・。
 
21世紀に入って20年が経ち、世紀末のファッションやカルチャーがリバイバルしているらしい。1990年代と一括りにされるが、当然ながらいろんなレイヤーがあった。スケーターやヒップホップファッションを取り入れたストリートファッションが流行り、渋谷を起点としたギャル文化が花開く。一方そのころ原宿では、裏原系やパンクファッション、ネオDC系やKawaii文化が生まれていた。ちなみに、自意識を盛大にこじらたサブカル女子として1990年代を過ごした私はフレンチカジュアルに傾倒し、そのまま真っ直ぐ大人になったのでリバイバルとか関係ない。ずっとそうなのだ。永遠のオリーブ少女なのだ(キモい)。オリーブ読んでなかったけどな。
 
さて、昇竜拳だの波動拳だの、男子が「ストII」に夢中だった90年代。スーパーファミコン、カセットテープ、ストリートカルチャー。ライフスタイルがデジタル化される最後の時代だから、インターネットなんてない。情報収集も必死である。年上の兄弟がいればそこが情報源になるので、必然的に持ち物を漁るし、雑誌やCDをパクる。スティーヴィーはカルチャーの中心にいる世代を見上げ、憧れるしかないのだ。わかる、わかるよ。手にできる情報が圧倒的に少ないので、目に見える世界がすべてだ。他の価値観なんて知らない。社会のルールから逸脱していようと、その狭い世界の中で「クール」だと認められたくて、背伸びをしたいのである。
 
そのヒリヒリとした、思春期の心象風景を美しい映像と音楽で紡いでいく。本作は"90年代"の雰囲気と感覚を再現するため、全編16mmフィルムにこだわって撮影したそうだ。アスペクト比も4:3のスタンダードサイズだ。そして、ナイン・インチ・ネイルズのフロントマン、トレント・レズナーが音楽を手掛けるほか、ニルヴァーナピクシーズモリッシー、シール、ファーサイド、ア・トライブ・コールド・クエストなど、1990年代のヒット曲で彩られている。
 
なんだろうな。よく分からない感情がこみ上げて、心の奥のほうが痺れた。モリッシーの ”We'll Let You Know” を、その場面で、その尺で使うのね。もうそれだけで、ノックアウトされてしまった。押し付けがましくないメッセージ、多くを語り過ぎない脚本の塩梅が良い。ストリートスケートボーディングの聖地 ”ウエストLAコートハウス” のシーンも印象深い。数々の伝説的なビデオに登場し、のちにNIKEが買収して正式にスケートパークとなったが、かつては違法なスケーターやホームレスなどが入り乱れる場所だったという。音楽と人とカルチャーが混ざり合う90年代のLAのストリートを、余すところなく映し出したジョナ・ヒル。素晴らしい作品だったと思う。

 

trailer: