銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】プロミシング・ヤング・ウーマン

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映画日誌’21-30:プロミシング・ヤング・ウーマン
 

introduction:

Netflixオリジナルシリーズ「ザ・クラウン」などで知られる女優エメラルド・フェネルが、監督・脚本を手掛けたサスペンス。フェネルにとってこれが長編映画監督デビューとなる。『17歳の肖像』『華麗なるギャツビー』のキャリー・マリガンが主演を務め、『ビッグ・シック ぼくたちの大いなる目ざめ』などのボー・バーナムなどが共演する。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』『スーサイド・スクワッド』などの女優マーゴット・ロビーが製作として参加している。2021年・第93回アカデミー賞で作品、監督、主演女優など5部門にノミネートされ、脚本賞を受賞した。(2020年 イギリス,アメリカ)
 

story:

カフェの店員として平凡な生活を送っているように見えるキャシーだが、夜な夜なバーで泥酔したフリをしては、自分を持ち帰り事に及ぼうとする男たちに制裁を加えていた。ある日、大学時代のクラスメイトで小児科医になったライアンがカフェに現れる。この偶然の再会が、キャシーの恋心を目覚めさせ、同時に過去の悪夢に連れ戻してしまう。優秀な医大生として明るい未来が約束されていた彼女だったが、ある事件によってその道を断たれていたのだ。
 

review:

ポップでカラフル、ガーリーでかわいい復讐劇かと思ったら、ヘビーなテーマをコメディでくるんだ毒入りキャンディーだった・・・スカッとするのかと思っていたので、虚無感すごい。作品に対してではなく、この世の中への虚無感だ。典型的なホモソーシャルと男性優位主義、その社会で「わきまえようとする女」の罪すらをも映し出し、痛烈に批判する。社会構造的な女性軽視、そして傍観者は加害者と等しい、ということを突きつけてくるのだ。
 
この作品のもとになった、スタンフォード大の事件を調べた。被告の父は、息子が意識のない女性に性的暴行を働いたのは「わずか20分の行為」にすぎず、厳罰は「高い代償を払わされることに等しい」と主張したそうだ。この卑劣な犯罪行為に対し、司法が下した判決は郡刑務所での6ヶ月の刑期と保護観察処分という異例の軽さ。加害者が「裕福な家庭で育った白人のエリート男性」であることが司法判断を歪めたと全米から非難が集まり、被害者が実名で声明を出したことで大きな議論を巻き起こしたそうだ。
 
「前途有望な若者」の未来のために、「前途有望な若い女性」”プロミシング・ヤング・ウーマン”だったキャシーは唯一無二の親友を失い、人生を見失う。どうでもいいけど、キャリー・マリガンは大好きだけど、キャシー厚化粧が恐いよ。厚化粧のせいで30歳になろうかという女性にしては老けて見えるのだが、ファッションはガーリーでアンバランス。未来と摘み取られたキャシーの時間は止まったままが、現実は残酷に時を刻んでいく、というコントラストが痛々しい。
 
止まったままだったキャシーの時間は、同級生との再会をきっかけに動き出す。不穏な復讐劇と並行して、明るい未来を予感させるロマンスが軽快な語り口で描かれる。ネタバレするので詳細は書かないが、意表を突かれる展開に翻弄され、衝撃の結末に戦慄する。それにしても、キャシーの過去や現状を示すモノローグやナレーション、親友ニーナとの回想シーンは一切ないにもかかわらず、彼女たちの特別な友情、その痛みや苦しみにアプローチできてしまう脚本と演出が見事。多くの共感と議論を巻き起こした問題作、目撃者になることをおすすめする。
 

trailer: