銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】PERFECT DAYS

映画日誌’24-11:PERFECT DAYS

introduction:

パリ、テキサス』『ベルリン・天使の詩』などで知られるドイツの名匠ヴィム・ヴェンダースが、日本を代表する俳優、役所広司を主演に迎え、東京を舞台にトイレ清掃員の男が送る日々を描いたドラマ。新人の中野有紗のほか、田中泯柄本時生石川さゆり三浦友和らが共演する。2023年・第76回カンヌ国際映画祭コンペティション部門で役所広司が男優賞受賞。第96回アカデミー賞の国際長編映画賞にノミネートされた。(2023年 日本)

story:

東京・渋谷でトイレ清掃員として働く平山は、押上の古いアパートで淡々とした日々を暮らしている。規則正しいルーティンで同じ毎日を繰り返しているようだが、彼にとって日々は常に新鮮で小さな喜びに満ちている。カセットテープで昔から聴き続けている音楽に耳を傾け、休日のたびに買う古本の文庫本を読み耽り、小さなフィルムカメラで木漏れ日を撮る。そんな彼の日々に、思いがけない出来事が起きる。そしてそれは彼の過去を呼び起こし、彼の今に小さな揺らぎを起こす。

review:

ひたすら役所広司を愛でる映画である。役所広司の仕事が素晴らしい。肉体労働者や公衆トイレをきれいに描きすぎという声もさもありなんと感じつつ、ヴィム・ヴェンダースが描くファンタジーとしての”TOKYO”なのだと受け止めながら観た。日々の小さな喜びを愛で、木漏れ日をフィルムに焼き付け、清貧でありながら音楽や本に囲まれた文化的で端正な、豊かな暮らしが丁寧に紡がれる。寡黙な作品だが、役所広司演じる平山のさりげない表情や所作によって彼の半生や人生観が端的に語られる。また、田中泯あがた森魚柴田元幸(学者)などがチラチラ登場するので、いつかのサブカル男子はハートをくすぐられることだろう。

ところで平山さん、まあまあランニングコストの高い生活をしておられるのである。缶コーヒー100円、コンビニ飯が500円、銭湯が520円、居酒屋2000円、週イチ石川さゆりが5000円(推定)。押上から渋谷まで首都高に乗るとETCで片道660円は会社支給なんだろうか。押上のメゾネットタイプの築年数が古い風呂無し木造アパート、家賃5-6万くらいだとして、光熱費とか、車の維持費とか。清掃員の平均給与を鑑みるとギリギリか。病気をしたらアウトだと思うけど平山さん野菜食べてないからなぁ。と、いろいろ気になって仕方ないのであるが、それなりに楽しみながら暮らしていけるのだろう。

ちなみに鑑賞後に知ったのであるが、本作は「東京・渋谷区内17カ所の公共トイレを、世界的な建築家やクリエイターが改修する「THE TOKYO TOILET プロジェクト」に賛同したベンダースが、東京、渋谷の街、そして同プロジェクトで改修された公共トイレを舞台に描いた」そうである。背後にユニクロ電通がいると知ったら急に資本の匂いがしてやや興醒めしたのが正直なところであるが、なんでも定量化する時生の大仰で芝居じみたセリフが浮いている理由を察したりしつつ、プロジェクトのサイトを眺めてみたら松濤の隈研吾隈研吾すぎてわろた。

trailer: