銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ある少年の告白

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-28
『ある少年の告白』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

2016年に発表され、全米で大きな反響を呼んだガラルド・コンリーの著書を原作に、同性愛者のコンバージョン・セラピー(矯正)施設で治療を強いられた青年の苦悩を描いた人間ドラマ。『ラビング 愛という名前のふたり』などの俳優ジョエル・エドガートンが『ザ・ギフト』に続いて手がけた監督2作目で、脚本・製作を手掛け、出演も果たしている。主演は『マンチェスター・バイ・ザ・シー』でオスカー候補となったーカス・ヘッジズ。二コール・キッドマン、ラッセル・クロウら実力派が共演し、映画監督・俳優としてカリスマ的人気を誇るグザビエ・ドラン、シンガーソングライターのトロイ・シバン、「レッド・ホット・チリ・ペッパーズ」のフリーら、個性的な面々が脇を固める。
 

あらすじ

アメリカの田舎町。牧師の父と母のひとり息子として大切に育てられたジャレットは、ある出来事がきっかけで自分が同性愛者であることに気付く。息子の告白に戸惑う両親が彼に勧めてきたのは、“同性愛を治す”という矯正セラピーへの参加だった。口外禁止だというそのプログラムの内容は驚くべきもので、自らを偽って生きることを強いる施設に疑問と憤りを感じたジャレットはついに、ある行動を起こす...
 

かんそう

マンチェスター・バイ・ザ・シー』『スリー・ビルボード』で注目されたルーカス・ヘッジズ、その脇を大御所ラッセル・クロウと大女優ニコール・キッドマンが固め、テイラー・スイフトの彼氏、美しき奇才グザヴィエ・ドラン、注目を集めるシンガーソングライターのトロイ・シヴァンが共演、さらにはレッド・ホット・チリ・ペッパーズのベーシスト、フリーが鬼教官役で登場。いつも思うけど、普通の俳優にはない凄みと狂気が全身から溢れ出すフリーおじさんの配役は反則。そして『ラビング 愛という名前のふたり』のジョエル・エドガートンが監督し、自ら出演している。この豪華な出演陣によって描かれる物語の舞台は2004年のアメリカ南部。原作者のガラルド・コンリーの出身地アーカンソーは、プロテスタントキリスト教根本主義、南部バプテスト連盟、福音派などが熱心に信仰され、バイブルベルト(聖書地帯)と呼ばれる保守的で宗教色が強い土地柄だ。その上、父親が福音派の牧師とくれば、同性愛者であることは許されない。父親や長老たちに囲まれ、自分を変えたいと思うか?と問われたジャレットは、自ら矯正施設に入ることを希望する。なんとも心が痛むシーンである。マイノリティが迫害を受け、父親が権威を振りかざし、女性はそれに黙って付き従う、というこの家族の構図は、アメリカ社会の縮図のようだ。同性愛を認めず、悪しきものとして当事者に罪悪感を抱かせる思想、それを正しいものとして疑わない観念の狂気が映し出されており、虫酸が走る。21世紀において、強制的に性的指向ジェンダーアイデンティティを”治療”しようとする同性愛者の矯正施設が存在していることに驚かされる。いまだに多くのLGBTQの若者たちが保護者によって無理やり入所させられているそうだ。科学的、医学的根拠のないセラピーは深刻なトラウマを引き起こし、自殺率の高さも指摘されている。1日も早くLGBTQという概念そのものがなくなり、人が人を自由に愛せる世界になってほしいと心から願う。