銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】メイキング・オブ・モータウン

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映画日誌’20-37:メイキング・オブ・モータウン
 

introduction:

スティービー・ワンダーマービン・ゲイジャクソン5などを輩出し、2019年に創設60周年を迎えた音楽レーベル「モータウン」の歴史や名曲誕生秘話を、創設者のベリー・ゴーディが親友のスモーキー・ロビンソンと旧交を温めながら説き明かしていくドキュメンタリー。ゴーディが初めて密着を許可した取材映像、関係者や著名人の回想や証言も交えた貴重なエピソードの数々から構成される。監督は『アイ・アム・ボルト』などのベンジャミン・ターナーとゲイブ・ターナー。(2019年 アメリカ,イギリス)
 

story:

1959年、ベリー・ゴーディJr.が家族から借りた800ドルを資金にタムラ・レーベルをスタートさせたことから、モータウンの歴史は始まる。ミラクルズ、テンプテーションズダイアナ・ロススプリームス、フォー・トップス、スティーヴィー・ワンダーマーヴィン・ゲイジャクソン5などの楽曲が全米No.1ヒットを連発し、やがて黄金期を迎える。人種やジェンダーに捉われない組織づくりの裏には、かつてゴーディが働いていた自動車工場の組み立てラインをヒントに、ダンスやエチケットも含め徹底した教育体制が敷かれていた。特にクオリティ・コントロールと呼ばれた品質管理会議は、ソングライターやプロデューサーたちの競争心を煽り、ブランドに磨きをかけていく。
 

review:

モータウンは、アメリカ合衆国ミシガン州デトロイト発祥のレコードレーベルである。スティーヴィー・ワンダーマーヴィン・ゲイ、ミラクルズ、テンプテーションズダイアナ・ロス&スプリームス、フォー・トップス、ジャクソン5マイケル・ジャクソンなど、音楽史に名を残すアーティストを輩出し、世界の音楽に影響を与え続けている。ちなみに、映画『ドリーム・ガールズ』の”カーティス”は、モータウン創業者のベリー・ゴーディJr.がモデルだ。
 
引退を表明したベリー・ゴーディJr.が初めて密着取材を許可したとのことで、親友で戦友のスモーキー・ロビンソンとともに思い出を振り返るスタイルでモータウンの歴史が説き明かされていく。当然、ゴーディおよびモータウンの功績を称えるものになっており、幼いスティーヴィーやマイケルの才能を発見したときの彼らの驚き、マービン・ゲイの”what's going on”が誕生した背景、ゴーディとダイアナ・ロスとの恋の始まりが微笑ましく語られたりする一方で、『ドリーム・ガールズ』でビヨンセ演じるディーナにグループを追い出されたエフィのモデル(と言われている)「スプリームス」のメンバーだったフローレンス・バラードの件などは一ミリも出てこない。
 
と言う訳で、モータウンが「とってもいい感じ」に語られているという側面はあるものの、少なからずモータウンの音楽に触れた者として、道なき道を切り開いたパイオニアたちの物語にしびれた。モータウン・レコードがなぜデトロイトなのか、なぜそこに類稀れな才能が集まったのか、そしてその才能を最大限に引き出し、世界に認知させることに成功したのか、駆け足で語られていく。人種やジェンダーに分け隔てのない社風、風通しのよい品質管理会議によって、アーティストやプロデューサーたちが互いによい刺激を受け合い、組織全体のポテンシャルが底上げされていくさまは、現代のビジネスパーソンにも刺さるだろう。特にスタートアップは全員観ろである。
 
そしてモータウンの一番の功績は、音楽の力によって分断した社会をひとつにしたことである。彼らは黒人のための”黒人音楽”ではない、という認識のもと、自分たちの音楽を白人、ひいては世界中の人々に受け入れられるものへと昇華させていった。よく、マイケル・ジャクソンの前と後、という風に語られるが、モータウンが地盤をつくったことは間違いない。スモーキー・ロビンソンモータウンによる文化的影響について以下のように語っている。
 
——1960年代には音楽活動だけでなく歴史を変えていることにまだ気付いていなかった。しかし曲が世界中に知れ渡るようになって気が付いた。私たちが架けた橋は、音楽において人種問題などの壁を取り除くことに気付いた。私はこの時代を生きて気付いた。モータウン初期に南部へ行っていたら観客は差別されただろう。その後モータウンの音楽が広がり、観客は差別されることなく、子供たちは手を取り合って踊っていた。
 
このドキュメンタリーを通して、モータウンがなぜイノベーションを起こせたのか、目の当たりにすることができる。なのでモータウンの音楽に触れたことがあれば絶対観ろだし、モータウンの音楽を知らなくてもスタートアップは全員観ろである。そして、まさかの”モータウン社歌”にしびれるがいいよ。
 

trailer: