銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ブラインドスポッティング

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-48
『ブラインドスポッティング』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

ヒスパニック系白人のスポークン・ワード・アーティスト、教育者、舞台脚本家であるラファエル・カザル。ブロードウェイミュージカル「ハミルトン」で脚光を浴びた黒人ラッパー兼俳優のダヴィード・ディグス。実生活でも長年の友人同士である2人が脚本・主演を務めた人間ドラマ。オークランドで生まれ育った青年たちの姿を通して、人種の違う者や貧富の差がある者同士が混在することによって起こる問題を描く。監督は本作が長編初監督作のカルロス・ロペス・エストラーダサンダンス映画祭のオープニング作品として注目を浴びた。
 

あらすじ

保護観察期間の残り3日間を無事に乗り切らなければいけない黒人コリンと、幼馴染で問題児の白人ラファエルは、共にオークランドで生まれ育ち、同じ引越し業者で働いている。ある日、帰宅中のコリンは、突然車の前に飛び出してきた黒人男性が白人警官に背後から撃たれる場面を目撃する。それをきっかけに、互いのアイデンティティや、急激に高級化していく地元の変化などの現実を突きつけられるふたり。あと3日を切り抜ければ自由の身となるコリンだったが、マイルズの予期せぬ行動がその機会を脅かすことになる...
 

かんそう

ブラウン大学で舞台を勉強し実験的ヒップホップグループClippingを結成、ブロードウェイ舞台「ハミルトン」の舞台に立ちトニー賞を受賞したディグス。片や、スポークン・ワード・アーティスト(ってなんなの...)、舞台脚本家として活躍するカザル。本作でコラボレーションし、大親友同士を演じている2人はベイエリアの高校で出会い、友人たちとフリースタイルラップをしながら育ったそうだ。序盤、ディグスとカザルのふたりが歩きながらフリースタイルラップを始めた瞬間、私は駄作の予感がして少々身震いした。スラングだらけのセリフの応酬、ヒップホップカルチャーを全面に押し出した演出、俳優として安定感のあるディグスはともかくカザルから漂う素人臭に、私は不安を募らせた・・・が、それは見事に覆された。映画の舞台となったカリフォルニア州オークランドは、60年代にブラックパンサー党が結成された土地であり、その歴史を受け継ぐ黒人のコミュニティがある。その一方で、シリコンバレーから流れ込んできた新しい白人たち”ヒップスター”による高級化が進み、急激に変貌を遂げる街から黒人たちが排除され、残された黒人たちが犯罪者のように扱われるようになった。丸腰の黒人青年が白人警官に射殺された実事件を描いた映画『フルートベール駅で』の舞台でもある。歴史と新興が混ざり合い、活気とスタイルに溢れ、その裏側で不平等、犯罪、人種差別といった問題を孕み、芸術的で暴力的、さまざまな顔を持つオークランドという街のすべてを描き出している。そうした複雑な背景のなか、同じ境遇、同じイデオロギーで育ったはずの幼馴染同士が、片方は黒人で片方は白人だったために世界の見え方は全く異なっていた、というブラインドスポッティング(絶対盲点)の話だ。複雑に絡まり合うコリンとマイルズの視点が、都市が抱える怒りや恐怖、不安とシンクロして、独特の緊張感を生み出していく。幾層にも折り重なったあらゆる感情の、そのエネルギーが最高潮に達したとき、物語は予想外の結末を迎える。ある一点を凝視したとき、私たちはあらゆるものをが見落としがちだ。大事なことは目に見えないって星の王子様も言ってた。明確なメッセージを打ち出して観る者に問い掛ける清々しさ、なかなか面白かった。