銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】グッバイ・ゴダール!

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-48
グッバイ・ゴダール!』(2017年 フランス)
 

うんちく

女優・作家であり、ゴダールの2人目の妻でもあったアンヌ・ヴィアゼムスキーによる自伝的小説を映画化。世界中から注目される気鋭の映画監督ゴダールのミューズとして過ごした刺激的な日々が、五月革命に揺れるパリを舞台に綴られる。監督は『アーティスト』でアカデミー賞5部門に輝いたミシェル・アザナヴィシウス。『ニンフォマニアック』でセンセーショナルなスクリーンデビューを飾ったステイシー・マーティンがアンヌを演じ、映画監督フィリップ・ガレルの息子で『サンローラン』『愛を綴る女』などのルイ・ガレルゴダールに扮する。
 

あらすじ

1960年台後半、パリ。大学で哲学を学ぶ19歳のアンヌ・ヴィアゼムスキーは、映画監督ジャン=リュック・ゴダールと恋に落ち、彼の新作『中国女』で主演を務めることになる。新しい仲間たちと映画を作る刺激的な日々、そしてゴダールからのプロポーズ。ノーベル文学賞受賞作家フランソワ・モーリアックを祖父に持つアンヌと、ヌーヴェルヴァーグを代表する監督の一人であるゴダールの結婚は世間から注目される。一方、街では革命の気運が日に日に激しくなり、ゴダールは次第に政治活動へと傾倒していく。やがて、商業映画と決別したゴダールカンヌ映画祭を中止に追い込んだり、“ゴダール”の名前を捨て“ジガ・ヴェルトフ集団”を結成し、新しい映画を撮ると宣言したりするが...
 

かんそう

ジャン=リュック・ゴダールといえば、映画の世界において唯一無二の伝説的存在である。『勝手にしやがれ』『気狂いピエロ』などで見せた同時録音、即興演出、自然光を生かすためのロケーション中心の撮影など、前時代の手法を否定した映画作り、大胆な編集術による斬新な作風が世界に衝撃を与えた、”ヌーヴェルヴァーグの旗手”だ。そして今なお後続の才能たちに、多大な影響を与え続けている。本作は、ゴダールに捧げるオマージュだ。初期ゴダール作品の色彩や音楽、カメラワークやフレーミング、実験的手法などをつなぎ合わせたコラージュのような構成で、ミシェル・アザナヴィシ監督の素晴らしい仕事が際立つ。と言っても、ゴダール本人はまだ存命で現役。80歳を超えてもなお新しいことに挑戦し続ける彼にとって、過去の自分を扱った映画など愚の骨頂だったらしく、「愚かな、実に愚かなアイディアだ」と吐き捨てたそうだ。実にゴダールらしいエピソードであるが、人間ゴダールの魅力や可笑しみ、天才が持つ複雑かつ面倒な思考性と人間性、そして彼に振り回される人々の困惑をコミカルに描いた、チャーミングな作品である。フランスに大きな社会不安をもたらした五月革命当時のパリの熱気や興奮、商業映画と決別し政治闘争に傾倒していくゴダールの焦燥、その実まだまだ保守的だった文化世相が余すところなく描かれており、非常に興味深い。さらにはゴダールの盟友ベルトルッチトリュフォーなど、名だたる巨匠たちが次々に登場して映画ファンの心を鷲掴みだ。そして、2人の仲睦まじい姿が微笑ましかった蜜月を過ぎ、自分が愛したゴダールゴダールでなくなっていくにつれ笑顔を失い、自我に目覚め女性として成長するアンヌと、その姿に戸惑い嫉妬するゴダールの悲哀は、普遍的なラブロマンスとしても充分見応えがある。アンヌを演じたステイシー・マーティンが圧倒的にキュート。それにしても歴代妻の名前がアンナ、アンヌ、アンヌってどういうことよ。名前フェチ・・・?