銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-24
 

うんちく

チャーチル没後に公開された戦時内閣の閣議記録によって明らかとなった実話を基に、チャーチルの首相就任からダンケルクの戦いまでの27日間を描いた歴史ドラマ。『プライドと偏見』『つぐない』のジョー・ライトが監督を務め、『博士と彼女のセオリー』のアンソニー・マクカーテンが脚本を担当。名優ゲイリー・オールドマンチャーチルを演じたほか、『イングリッシュ・ペイシェント』のクリスティン・スコット・トーマス、『シンデレラ』『ベイビー・ドライバー』のリリー・ジェームズ、『ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー』のベン・メンデルソーンらが出演。アカデミー賞に2度ノミネートされながらも、2012年に現代美術家に転向していた辻一弘が、ゲイリー・オールドマン直々のオファーにより数年ぶりに特殊メーキャップアーティストとして参加。第90回アカデミー賞で主演男優賞とメイクアップ&ヘアスタイリング賞に輝いた。
 

あらすじ

1940年5月、第二次世界大戦初期。ヒトラー率いるナチス・ドイツの勢力が拡大し、フランスは陥落間近、イギリスにも侵略の脅威が迫っていた。連合軍がダンケルクの海岸で窮地に追い込まれるなか、内閣不信任決議が出されたチェンバレン首相の後任として、新たに就任したばかりの英国首相ウィンストン・チャーチルにヨーロッパの運命が委ねられた。国民からの人気は高いが、たび重なる失策から“政界一の嫌われ者”であったウィンストン・チャーチルは、ヒトラーとの和平交渉をすすめる政敵たちに追い詰められながらも、「決して屈しない」と徹底抗戦を誓う。ヨーロッパのみならず世界の命運を握ることになったチャーチルは、「ダイナモ作戦」を決断するが…
 

かんそう

原題の「DARKEST HOUR」はイギリスの諺「夜明け前が最も暗い(The darkest hour is just before the dawn)」からであろう。舞台はナチス・ドイツの台頭がヨーロッパに暗い影を落としていた第二次世界大戦初期、クリストファー・ノーラン監督の『ダンケルク』の裏側とも言える物語だ。「チャーチルの”勝利”は大英帝国の崩壊と米ソの世界支配をもたらした」と言われながらも「世界のCEOが選ぶ、最も尊敬するリーダー」に、スティーブ・ジョブズガンジーを抑えて選ばれた伝説の政治家チャーチルの27日間を濃密に描く。兎にも角にもゲイリー・オールドマンが素晴らしかった。姿形、声、話し方に加え、まとう空気までもチャーチルになりきった彼を、”チャーチル”に仕上げた辻一弘の仕事も見事である。チャーチルの愛すべき人間性が秘書の存在を介して描かれるのだが、気が短く怒鳴り散らしているかと思えば、愛妻クレメンティーンの前ではまるで子供のよう。言葉の魔術師と呼ばれ、朝から晩まで酒を飲み、常に葉巻を噛み、猫背で早歩き。悪に屈しない姿勢を貫き、民衆の声に耳を傾け、言葉の力で人々に勇気と希望を与え、奮い立たせ、苦境にあったイギリスを勝利に導いたリーダーシップ。そんなチャーチルの魅力をあますところなく描き、示唆に富んだ印象的なショットが続く映像も素晴らしい記憶に残る秀作。
 
なお、積ん読に囲まれながらチャーチルについて調べていたところ、文筆家で読書家だったチャーチルが遺した言葉を見つけて、とても耳が痛いのであった...。
「本を全部読むことができぬなら、どこでもいいから目にとまったところだけでも読め。また本は本棚に戻し、どこに入れたか覚えておけ。本の内容を知らずとも、その場所だけは覚えておくよう心掛けろ」