銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】BPM ビート・パー・ミニット

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-23
BPM ビート・パー・ミニット』(2017年 フランス)
 

うんちく

パリ20区、僕たちのクラス』の脚本家ロバン・カンピヨが監督を務め、1990年代初頭のパリを舞台にHIV/エイズ感染者への差別や不当な扱いに抗議する活動家たちの姿を追ったヒューマンドラマ。当時実際に「ACT UP-Peris」のメンバーとして活動に身を投じたカンピヨ監督の実体験に基づき、脚本家のフィリップ・マンジョとともにストーリーを構築した。ほぼ9ヶ月を掛けたオーディションを経て選ばれた『グランド・セントラル』のナウエル・ペレース・ビスカヤート、『ブルーム・オブ・イエスタディ』のアデル・エネルらが出演。第70回カンヌ国際映画祭でグランプリを受賞している。
 

あらすじ

1990年代初頭のパリ。HIV/エイズが発見されてからほぼ10年が経っていたが、エイズの治療はまだ発展途上で誤った知識や無知による偏見や差別が横行し、政府や製薬会社も見て見ぬ振りを続け、感染者たちは不当な扱いを受けていた。活動団体「Act Up-Paris」のメンバーはHIV/エイズ感染者の権利を守るためさまざまな抗議活動を行っているが、仲間たちが次々と命を落としていく事態に業を煮やした彼らは、より過激な手段を選ぶようになっていく。そんななか、グループの中心的な存在であるショーンは、HIV陰性ながら新たにメンバーに加わったナタンと恋に落ちる。しかしHIV感染者であるショーンに、エイズの症状が表れはじめ……
 

かんそう

1980年代、世界で最初のエイズ患者が見つかると、「死の病」として人類を恐怖に陥れた。いたずらに恐怖を煽るメディアが誤った情報を流布し、各国でエイズパニックが起きた。日本では「薬害エイズ事件」が起き、血液凝固因子製剤の使用によってHIVに感染した血友病患者たちが製薬会社の闇と闘っていた。それと時を同じくして、ニューヨークで立ち上がったエイズ活動家団体「ACT UP」の活動をパリで展開した若者たちの姿だ。長くて重い、ドキュメンタリーを観ているようだった。何もかもが生々しく、リアルに描かれる。無知による差別と偏見、無関心という暴力、出口のない議論、抗い、闘い、踊り、生きること、愛を交わすこと、死ぬこと、それらを受け入れること。生き急がざるを得ないショーンと、彼に寄り添い続けたナタンが駆け抜けた時間から、美しい瞬間を切り取って見せつけるカンピヨ監督の仕事が素晴らしい。原題の「120 battements par minute(120拍/1分)」は心拍数。同じテンポのハウスミュージックのビートで「君に生きてほしい」という強いメッセージが語られる。少し冗長気味に感じる序盤の退屈がいつしか静かな感動となり、彼らがエモーショナルにむきだしの「限りある生」を全うしようとするエネルギーが大きなうねりとなって胸に押し寄せてきて泣けた。「沈黙は死」であることを告げる無音のエンドロールが更なる余韻を残す。良作。