銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】死の谷間

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-43
 

うんちく

1976年にエドガー・アラン・ポー賞を受賞したアメリカの児童文学者ロバート・C・オブライエンの「死の影の谷間(原題:Z for Zachariah)」をイギリス人脚本家ニサール・モディが大胆に脚色し映画化。監督は『コンプライアンス 服従の心理』などで知られる気鋭のレイグ・ゾベル。『アイ,トーニャ 史上最大のスキャンダル』でアカデミー賞候補になったマーゴット・ロビーを主演に迎え、『それでも夜は明ける』『オデッセイ』などの実力派俳優キウェテル・イジョフォー、『スタートレック』シリーズや『ワンダーウーマン』などのクリス・パインが共演。
 

あらすじ

地球規模の核汚染によって壊滅した世界に、死の灰を免れた奇跡の谷があった。たった1人の生存者であるアン・バーデンは、その緑豊かな谷で愛犬ファロとともに暮らしている。かつて家族と暮らした農場で、揺るぎない信仰心に支えられ長すぎる孤独の中を生きていた。そんなある日、安全な場所を求めて放浪していた科学者ジョンに遭遇する。人種も考え方も異なる2人だったが、共に生活していくうちに慎み深くも濃密な“2人だけの関係”が芽生えていく。しかし、もう1人の生存者である美しい若者ケイレブが現れたことから、その生活が一変し...

 

かんそう

地球規模の核汚染により壊滅した世界、という世紀末な設定ながら、舞台は緑豊かな谷と農場、その周辺という地味なもので、演者は3人のみ。派手な演出もドラマチックな展開もないし、SF的事件は何事も起きない。ゾンビもでてこない。死の灰に覆われた世界の片隅で紡がれる人間模様だ。たった1人生き残った孤独や寂しさから、ある日突然2人になった安堵感は未来への希望を暗示するが、もう1人が現れて3人になると均衡が崩れ、不穏な空気が流れ始める。アンを人として尊重しようとするジョンとのあいだには崇高な精神性に基づいた「アガペー」のようなものが存在したが、ケイレブが現れたことにより突如として「エロス」がその場を支配し始める。次第にそれぞれの本性が剥き出しにされ、そのうち誰ひとり本心を話さなくなる。宗教、人種、価値観の違い。そこに男女の嫉妬と欲望が交錯し、ヒリヒリとした緊張感が漂うなか、複雑に揺れ動く心情とエゴイズムを見事に描き出している。牧歌的でありながら、どこか終末観を匂わせる退廃的な映像も秀逸だ。“第2のアダムとイヴ”を演じきったマーゴット・ロビーキウェテル・イジョフォークリス・パインの演技も素晴らしい。しかし、しかしだよ。兎に角もクリス・パインが美しくてたまらんのだよ。その青い瞳があまりにも美しくてに吸い込まれそうになった。人を誘惑する悪魔が人の形になったら、クリス・パインになるんじゃないだろうか。色んな意味で心がざわつく作品であった・・・。