銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】秘密の森の、その向こう

映画日誌’22-37:秘密の森の、その向こう
 

introduction:

『燃ゆる女の肖像』で各国の映画賞を総なめにしたセリーヌ・シアマが監督・脚本を手がけた人間ドラマ。娘・母・祖母の3世代をつなぐ「喪失」と「癒し」の物語を紡ぎ出す。本作が映画初出演となるジョセフィーヌ・サンスとガブリエル・サンスの姉妹が主演。カミーユ』などのニナ・ミュリス、『サガン -悲しみよ こんにちは-』などのマルゴ・アバスカルらが共演する。2021年・第71回ベルリン国際映画祭コンペティション部門出品。(2021年 フランス)
 

story:

8歳のネリーは、森の中にぽつんと佇む祖母の家を両親とともに訪れる。大好きだった祖母が亡くなり、母が少女時代を過ごした家を片付けることになったのだ。しかし、何を見ても祖母との思い出に胸を締め付けられる母は耐えかね、ついに家を出ていってしまう。残されたネリーはかつて母が遊んだ森を散策するうちに、母と同じ名前「マリオン」を名乗る同じ歳の女の子と出会う。親しくなった彼女の家に招かれると、そこは“おばあちゃんの家”だった。
 

review:

一言で言うと宮崎駿アニメのフランス実写版である。監督自身が「駿ならどうするかしら」と考えながら作ったらしいので、然もありなん・・・。静謐なタッチで描かれる、ジブリの森のファンタジー。聞こえてくるのは風の音、虫の音、水の音。美しい森に抱かれて、睡魔に襲われる人も多いだろう。
 
画集や絵本をめくるような映像世界が好きでなければ、何の抑揚もない退屈なドラマに映るかもしれない。しかし実際は、73分という短い尺に良質なドラマが凝縮されている。一切の無駄を削ぎ落とし、多くを語らない寡黙な脚本だが、雄弁に物語る演出や構成が見事。役者の繊細な演技も相まって、説明がなくとも大体の事情を察することができる。
 
祖母が身体だけでなく精神的な問題を抱えていたのではないか。そのための葛藤によって、母マリオンは少女時代を過ごした家と向き合うことが耐え難かったのではないか。勝手な想像が頭を駆け巡る。母と娘のあいだには、他人には分からない葛藤やわだかまりがあったりするものだ。
 
8歳のマリオンとネリー、最初は見分けがついたのに、だんだん見分けがつかなくなっていく。演者が双子だからではなく、おそらく監督が意図したものではないかと推測する。その後、成長していくマリオンはどんな気持ちで子どもを産んだのだろう。冒頭に比較的時間をかけて描かれる、友達のような母娘関係の描写に思いを馳せる。心に染み入る、良作であった。
 

trailer: