銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン

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映画日誌’20-29:17歳のウィーン フロイト教授人生のレッスン
 

introduction:

ウィーン生まれの作家ローベルト・ゼーターラーのベストセラー小説「キオスク」を原作にしたヒューマンドラマ。ナチスドイツとの併合に揺れるウィーンを舞台に、心理学者ジークムント・フロイト教授と17歳の青年の友情を映し出す。『ベルリン・天使の詩』『ヒトラー~最期の12日間~』などで主演を務めたブルーノ・ガンツフロイト教授を演じ、本作が遺作となった。『女は二度決断する』などのヨハネス・クリシュ、ドラマなどで活躍する若手ジーモン・モルツェらが共演。(2018年 オーストリア,ドイツ)
 

story:

第2次世界大戦前夜の1937年、ナチス・ドイツとの併合に揺れるオーストリア。自然豊かなアッター湖のほとりで母親と暮らしていた17歳の青年フランツは、タバコ店の見習いとして働くためウィーンにやってくる。店の常連のひとりで“頭の医者”として知られるフロイト教授と親しくなり、人生を楽しみ恋をするよう勧められたフランツは、やがてボヘミア出身の女性アネシュカに一目惚れしてしまう。フランツは初めての恋に戸惑い、フロイトに助言を求め、年齢を超えた友情を深めていく二人。しかし、時代は不穏な空気をまとい、激動の時を迎えようとしていた...
 

review:

越えてスイスへ亡命したことを思い出す人も多いだろう。ついでに実際のトラップ一家について調べてみたら、母マリアが書いた一家にまつわる著書がベストセラーとなったが、収入を必要としていたマリアがドイツの映画会社に著作の映画化権とそれに関連する権利を売ってしまったため、一家は以降の映画がもたらした莫大な収入の恩恵を受けられなかったとのこと。著作権は大切に・・・。
 
さて、そんな激動の時代に生きた青年フランツの物語だ。アッター湖のほとりで美しい自然と戯れながら母と暮らしていたら、経済的な後ろ盾になっていた人物が雷に打たれて死んでしまう。落雷のときは水からあがれって学校で習わなかったのか。そんなわけで働かざるを得なくなった17歳のフランツ、母のツテでキオスク「トラフィク」に丁稚奉公することになる。首都ウィーンへやってきた田舎者の青年に、「臭いのは、時代が臭うんだよ」と語りかける老婆が印象的だ。街角のキオスクの佇まい、お祭り、ビール、キャバレー。画面から当時のウィーンの世俗文化が伝わってくる。
 
キナ臭い時代において反骨心と信念を持ち、大人が嗜む「知識」と「自由」と「快楽」を売る「トラフィク」の店主オットー。反ナチスを叫ぶ店の常連「アカ」のエゴン。ナチの新聞を売らないオットーに様々な嫌がらせをする隣の精肉店主。うぶなフランツに、人生を楽しみ恋をするよう助言する、“頭を治す医者”フロイト教授。少年だったフランツは、キオスクを取り巻く様々な大人から恋とは何か、人生とは何かを学んでいく。そして、劣悪な環境で生活し、生きるために手段を選ばないボヘミア移民のアネシュカは、時代に翻弄され狂っていくウィーンを映し出す鏡だ。
 
彼女に恋をした悩めるフランツ、フロイト教授のもとに駆け込み、夢を書き留めることを勧められる。性的衝動としてのリビドー、無意識に抑圧された感情や記憶、無意識の働きを意識的に把握するための夢分析など、精神分析学の創始者であるフロイトの視点が物語に付与されていく。恋を覚え、魂を解放して成長していくフランツの夢想の世界が幻想的な映像で紡がれ、実に美しい。その成長譚は、時代に呑み込まれ、儚く消えていった市井の人々の記録でもある。名優ブルーノ・ガンツの遺作に相応しい作品だったと思う。

trailer: