銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ウィッチ

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-39
『ウィッチ』(2016年 アメリカ)
 

うんちく

サンダンス映画祭を始め、世界各地の映画祭を圧巻したファンタジーホラー。「魔女」をテーマに、ある信心深い家族が、赤ん坊をさらわれたことをきっかけに狂気へ陥っていくさまを描く。監督はホラー映画の古典的名作『吸血鬼ノスフェラトゥ(1922)』のリメイク版監督にも抜擢され、ハリウッドで近年最も期待される新人監督ロバート・エガース。主演はM・ナイト・シャマランの『スプリット』でもヒロインを務めたアニヤ・テイラー=ジョイ。第31回サンダンス映画祭で監督賞、インディペンデント・スピリット賞で新人作品賞と新人脚本賞受賞。
 

あらすじ

1630年、アメリカ・ニューイングランド。敬虔なキリスト教であるウィリアムとキャサリン夫婦は、異端的信仰を持つ信者と見なされ村から追放されてしまい、子供達とともに森の近くにある荒地に移り住む。そんなある日、生後間もない赤ん坊のサムが何者かに連れ去られ、行方不明になってしまう。一家が悲しみに暮れるなか、父ウィリアムは娘のトマシンが魔女ではないかと疑い始め、互いに疑心暗鬼となった家族は、やがて狂気の淵へと転がり落ちていく...
 

かんそう

制作費300万ドルという低予算のインディーズ・ホラーながら興行収入4000万ドルの大ヒットとなった本作。17世紀の米国ニューイングランドにおける言語や風俗を映し出しながら、当時のピューリタンの思考回路や視点を通して魔女伝承を描いている。息遣いが届いてきそうなリアリティのなかにオカルト的描写を織り交ぜるが、決して陳腐にならず見事。細部に渡りとても丁寧に作られており、静かに醸成される不穏で邪悪なムードが全体を覆い、得体の知れないものが蠢く闇の深淵を覗き込むような恐怖を生む。信心深さゆえ、超自然的存在によって、そして宗教的ヒステリーによって崩壊していく一家の姿は、17世紀末のセイラムの魔女裁判といったアメリカのトラウマ、あるいは原罪のメタファーとも言えるのかもしれない。父親により魔女の疑いをかけられる娘を演じ、成熟しかけた精神と肉体が、瑞々しいイノセントと同居する10代のあやうい美しさを体現したアニヤ・テイラー=ジョイが素晴らしい。非常に陰鬱で、筆舌に尽くしがたい余韻を残す絶品ホラーであった・・・。