銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ホワイト・クロウ 伝説のダンサー

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-32
『ホワイト・クロウ 伝説のダンサー』(2018年 イギリス,フランス)
 

うんちく

バレエの歴史を変えたと言われる伝説的ダンサー、ルドルフ・ヌレエフの半生を描いた伝記ドラマ。『シンドラーのリスト』『イングリッシュ・ペイシェント』などの名優レイフ・ファインズが監督を務め、構想20年を経て映画化。『めぐりあう時間たち』『愛を読むひと』のデビッド・ヘアが脚本を手掛けている。主演はタタール劇場の現役プリンシパル、オレグ・イヴェンコ。『アデル、ブルーは熱い色』などのアデル・エグザルコプロス、“バレエ界の異端児”セルゲイ・ポルーニン、『黒いスーツを着た男』などのラファエル・ペルソナらが共演した。
 

あらすじ

1961年。若きダンサーのルドルフ・ヌレエフは、キーロフ・バレエの一員として、パリ公演のため生まれて初めて祖国ソ連を出る。自由な生活や文化、芸術に彩られたパリにすっかり魅了されるが、その反抗的態度からKGBに行動を監視されていた。やがてフランス人女性のクララ・サンと親しくなった彼は、そのことでますます政府から警戒されるようになってしまう。そんなある日、他の団員たちとともに次の公演地であるロンドンに向かおうとするルドルフに、突然帰国が命じられる。それは、収容所行きを意味していた。KGBと共に空港に残されたルドルフが、不安と恐怖のなかで下した決断とは...
 

かんそう

萩尾望都山岸凉子のバレエ作品を読み耽り、ニジンスキーがいかほどのバレエダンサーだったかということくらいは知っていたので、ルドルフ・ヌレエフのことは知らなかったけど、ニジンスキーの再来と言われたダンサーだったと知って興味が湧いた。調べてみると、世界3大バレエ団で活躍した伝説的なダンサーは、実にドラマチックな生涯だったようだ。遊牧民族タタール人とバシキール人の猛々しい血を引いているヌレエフ。1938年3月17日、シベリア鉄道の車両内で生まれ、赤貧、餓えと極寒の苦しみ、壮絶ないじめに晒された困難な子供時代を過ごしたそうだ。但しその才能と情熱を見出され、ウファの田舎からレニングラードの名門ワガノワ舞踊学校に入学している。そこでも田舎者のタタール人と蔑まれたが、しかし教師には恵まれた。名教師プーシキンから指導と庇護を受け、才能を開花させていく。そしてある時、国外公演からソ連に戻ることを拒み、西側に亡命するのだ。この作品では、ヌレエフの半生と亡命の顛末が描かれる。ヌレエフが亡命を試みるクライマックスシーンは、手に汗握るほどスリリングで、ぐっと引き込まれた。が、前半は「現在」と「過去」を交錯させながら物語が展開するので、少々難解で分かりづらい。タタールの血を引く彼の出自や困難な生い立ち、「一歩一歩のパに自分の血の跡が残らなければならない」と語った、全身全霊をバレエに捧げたダンサーとしての凄みが伝わりにくい。ただ、当時のソ連がどのような国だったのかという政治的背景、主演のオレグ・イヴェンコによるダイナミックなバレエシーンは見応えがあった。オレグ・イヴェンコ、ヌレエフを演じることはとてつもないプレッシャーだったろうに、がんばったなぁ。だって、ヌレエフですら、ニジンスキーの再来と言われながらニジンスキー役を演じることを断ったのだ。ちなみにヌレエフの再来と言われているのは、本作にも出演している、バレエ界きっての異端児セルゲイ・ポルーニンだそうだ。彼のドキュメンタリーは観てないけど、全身タトゥーだらけのダンサーのことは知っている。いつの時代も歴史を変え、その名を残すのは、世間に迎合しない「異端児」だということだ。少々物足りなかったものの、面白かった。