銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】博士と狂人

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映画日誌’20-41:博士と狂人
 

introduction:

初版発行まで70年以上の歳月を費やし、世界最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」の誕生に貢献した二人の天才の実話を綴ったノンフィクション小説「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」を映画化。『パッション』『ハクソー・リッジ』など監督としても活躍する俳優メル・ギブソンが、アカデミー賞主演男優賞を二度受賞している名優ショーン・ペンと初共演を果たした。監督はギブソン監督作『アポカリプト』の共同脚本を手掛けたP・B・シェムラン。『JUKAI-樹海-』などのナタリー・ドーマー、『おみおくりの作法』などのエディ・マーサンらが共演している。(2018年 イギリス,アイルランド,フランス,アイスランド)
 

story:

19世紀。貧しい家に生まれ、学士号を持たない異端の言語学者マレーは、オックスフォード大学で英語辞典編纂計画の中心にいた。大英帝国の威信をかけ、シェイクスピアの時代まで遡りすべての言葉を収録するという無謀なプロジェクトが困難を極める中、編纂室に大量の資料を送ってくる協力者が現れる。それは殺人を犯し、精神病院に収監されていたアメリカ人の元軍医マイナーだった。世界最大の辞典づくりという壮大なロマンを共有し、二人は固い絆で結ばれていくが...
 

review:

メル・ギブソンショーン・ペンが初共演と言われると食指が動く。メル・ギブソンと言えば初代マッドマックス、初代「最もセクシーな男(米People誌)」、そして『ブレイブハート』で映画監督としても認められ『パッション』で賛否両論を巻き起こし、その後プライベートでDV問題だのいろいろあってハリウッドセレブ歴代一位の離婚慰謝料とか払ってるけど、俳優としても監督としても復帰できてよかったね。ショーン・ペンはアカデミー主演男優賞に何度もノミネートされ、『ミスティック・リバー』『ミルク』で2度の主演男優賞受賞というハリウッドを代表する名優であるが、マドンナと結婚して離婚したあとに飲酒運転と暴行で実刑判決受けてるって。二人ともアカンがな。
 
さて、本作は世界最大・最高峰と称される「オックスフォード英語大辞典」通称OEDの誕生秘話を記したサイモン・ウィンチェスターの「博士と狂人 世界最高の辞書OEDの誕生秘話」が原作となっている。世界中の多様な英語の用法を記述するだけでなく、英語の歴史的発展をも辿っており、学者や学術研究者に対して包括的な情報源を提供しているOED。俺たちの辞書Wikipediaによると「OED第2版の解説本文を含めた5900万に及ぶ単語を一人の人間がすべてキー入力するのには120年、さらに校正するのに60年かかるという。また、電子データ化して保存しようとすると540メガバイトの容量が必要」とのこと。世界に冠たる辞典の礎を築いたのは、“異端の学者”と“殺人犯”だった、という何ともドラマチックな実話だ。
 
遅々として進展しない英国オックスフォード大学の辞書編纂事業にテコ入れするべく、新たに編纂長として白羽の矢が立ったのが、貧しい生い立ちで高等教育を受けず、独学で多数の言語を極めたジェームズ・マレー。彼は過去の文学や文献からその単語の用例を採取し、語彙の変遷を辿ろうとしたのだが、その方法が画期的だった。全国民に協力を呼びかけ、民間人ボランティアの助力により多くの用例、語彙の収集に成功したのだ。おお、ブレイクスルー。イノベーションパラダイムシフト(語彙力)。そしてその呼びかけに応じて大量の稀少用例を送りつけてきたのが、南北戦争で心に深い傷を追い、妄想による精神錯乱から誤殺人を犯してイギリスの精神病院に収監されていたアメリカ人の元軍医ウィリアム・チェスター・マイナーだった、というわけである。
 
メル・ギブソンがマレーを、ショーン・ペンがマイナーを演じているのだが、難しい役どころは全部、憑依型のショーン・ペンがよくがんばった。昔の精神病院の治療こわい。壮大な辞書編纂作業のスケール感も含めて、ドラマとしては見応えがあり総じて面白かった。が、辞書づくり、友情、贖罪、家族愛、ロマンスって、ちょっと盛り込みすぎね・・・。ロマンス要らないのではって思うけど、ロマンスがないと、あの衝撃的なシーンが成り立たない。ジレンマだなと思いつつちょっと調べてみると、どうやら映画的演出のフィクションも多そう。少々ドラマが過ぎるところはあるし、もうちょっと違うアプローチもあったんじゃないかと思うけど、個人的には観て良かった。言葉や辞書に興味がある人はぜひ。
 

trailer: