銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】希望のかなた

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17-73
 

うんちく

フィンランドの巨匠アキ・カウリスマキが、前作『ル・アーヴルの靴みがき』で“港町3部作”と名付けたシリーズ名を自ら“難民3部作”に変え、再び難民問題と向かい合った人間ドラマ。シリア難民の青年が、ヘルシンキで出会った人々と絆を育みながら生き別れた妹を捜す姿を描く。主演を務めたシリア人俳優シェルワン・ハジは、映画初主演ながらダブリン国際映画祭で最優秀男優賞を受賞。サカリ・クオスマネンをはじめとする個性的なカウリスマキ組の常連たち、そしてカウリスマキの愛犬ヴァルプが脇を固める。第67回ベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)を獲得した。
 

あらすじ

内戦が激化する故郷シリアのアレッポを逃れ、北欧フィンランドの首都ヘルシンキに辿り着いた青年カーリド。空爆で全てを失った彼の唯一の望みは、ハンガリー国境で生き別れた妹ミリアムを捜し出すこと。難民申請をしたこの街でも、差別や暴力にさらされるカーリドだったが、偶然出会ったレストランオーナーのヴィクストロムから救いの手を差し伸べられる。そんなヴィクストロムもまた、行き詰まった過去を捨て、人生をやり直そうとしていた…。
 

かんそう

過去のない男』と出会って以来、アキ・カウリスマキが大好きである。傑作『ル・アーブルの靴みがき』に続く難民三部作の第二弾は、戦火を逃れヘルシンキに辿り着いたシリア難民カーリドの物語だ。“いい人のいい国”だと聞いていたフィンランドで、いわれのない差別や暴力にさらされ排除される一方、手を差し伸べた人々の小さな善意によって救われ、生きる希望を見出していく。その姿を、カウリスマキらしい厳密なる配色の構図、寡黙な脚本、無駄のないシンプルな演出で描いている。迷作『レニングラード・カウボーイズ・ゴー・アメリカ』を彷彿とさせるようなシュールな笑いも盛り込まれていて、旧来のファンはニヤリとしただろう。皮肉めいた辛辣なるユーモアで社会の不条理や不寛容を痛烈に批判しながらも、社会の片隅で慎ましく生きる市井の人々を見つめるカウリスマキのまなざしは、どこまでもあたたかく、やさしい。”当たり前”の人間性を失いつつある世界で、この珠玉の名作と出会った我々もまた、救われている。
 
「私がこの映画で目指したのは、難民のことを哀れな犠牲者か、さもなければ社会に侵入しては仕事や妻や家や車をかすめ取るずうずうしい経済移民だと決めつけるヨーロッパの風潮を打ち砕くことです。
ヨーロッパでは歴史的に、ステレオタイプな偏見が広がると、そこには不穏な共鳴が生まれてしまいます。臆せずに言えば『希望のかなた』はある言葉で、観客の感情を操り、彼らの意見や見解を疑いもなく感化しようとするいわゆる傾向映画です。そんな企みはたいてい失敗に終わるので、その後に残るものはユーモアに彩られた、正直で少しばかりメランコリックな物語であることを願います。一方でこの映画は、今この世界のどこかで生きている人々の現実を描いているのです」――アキ・カウリスマキ