銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】運び屋

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-17
『運び屋』(2018年 アメリカ)
 

うんちく

ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』などで知られる巨匠クリント・イーストウッドが、自身の監督作品では10年振りに主演を務めた人間ドラマ。「The New York Times Magazine」に掲載された、87歳の老人が大量のコカインを運んでいたという記事に着想を得、脚本は『グラン・トリノ』のニック・シェンクイーストウッド監督作『アメリカン・スナイパー』などのブラッドリー・クーパー、『マトリックス』シリーズなどのローレンス・フィッシュバーンアンディ・ガルシアらが共演している。
 

あらすじ

家庭をないがしろにして仕事一筋に生きてきた90歳のアール・ストーンは、商売に失敗して自宅を差し押さえられ、行き場を失い途方に暮れてしまう。そんなとき、孫娘の婚約パーティーで知り合った男に、車で荷物を運ぶだけの仕事を持ちかけられる。何の疑いも持たずにそれを引き受けたアールだったが、その荷物の中身は麻薬だった。高額な報酬に躊躇いながら、いつしかメキシコの麻薬カルテルの「運び屋」となってしまうが...
 

かんそう

クリント・イーストウッド大先生が10年振りに自ら主演を務めた作品である。これは心して観なければならぬ。と少々意気込み過ぎたかもしれない。『ミリオンダラー・ベイビー』『グラン・トリノ』『アメリカン・スナイパー』と、彼の作品には、頭を殴られるような、そして心をえぐられるような衝撃を与えられてきた。正直、今回はそれほどのインパクトを感じなかったので少々肩透かしをくらった気分だったが、後々、イーストウッドがこの作品に込めたメッセージを反芻すればするほど、この軽やかなタッチで描かれた物語が孕む「凄み」が押し寄せてくる。『グラン・トリノ』同様、保守的なアメリカ白人男性が主人公のマッチョな映画である。そしてまた、同様に贖罪の物語でもある。特記すべきは、『グラン・トリノ』のときよりも、その登場人物の描かれ方や顛末が前時代的だということだ。時代の変化についていけず置き去りにされた老人が、保守的なステレオタイプの環境で快楽を享受する様子が繰り返し描かれる。これがトランプ政権が支持される今のアメリカを象徴するものならば、イーストウッドは今撮るべき映画を撮った、ということだろう。そのことを考えると、映画監督クリント・イーストウッドの感性の鋭さに脱帽する。そしてやっぱり、俳優クリント・イーストウッドは抜群にカッコよかった。御年88歳、これからも作品を生み出し続けてくれることを切に願う。