銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】SKIN/スキン

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映画日誌’20-20:SKIN/スキン
 

introduction:

2003年に米国で発足したレイシスト集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話を映画化。イスラエル出身のユダヤ人監督ガイ・ナティーブは、この作品の製作資金を募るため私財で短編『SKIN』を製作。短編は2019年アカデミー賞・短編映画賞を受賞し、長編の製作が実現した。主演は『リトル・ダンサー』『ロケットマン』などのジェイミー・ベル。『パティ・ケイク$』などのダニエル・マクドナルドほか、ビル・キャンプ、ヴェラ・ファーミガらが出演している。北米配給はA24が担当。(2019年 アメリカ)
 

story:

スキンヘッドに差別主義を象徴するタトゥーに覆い尽くされた身体。十代で親に見捨てられ、白人至上主義者グループを主宰するクレーガーとシャリーンに拾われて実子同然に育てられたブライオン・“バブス”・ワイドナーは、筋金入りの差別主義者となり、憎悪と暴力に満ちた人生を歩んでいた。ある日、3人の幼い娘を育てるシングルマザーのジュリーと出会った彼は、自分の生き方に疑問を持ち始める。グループを抜け、彼女と新たな生活を始めようと決意するが、前科とタトゥーが原因で仕事に就くことができず、また、裏切りを許さないかつての同志たちからの執拗な脅迫が続いていたが...
 

review:

ホロコーストを生き延びた祖父母を持つガイ・ナティーヴ監督。レイシストとして暴力的な活動に身を投じていた過去の自分と決別するため、計25回、16カ月に及ぶ過酷なタトゥー除去手術に挑んだブライオン・ワイドナーを追うTVドキュメンタリー「Erasing Hate」に感銘を受け、長編映画化を思い立ったそうだ。しかし彼の企画に賛同する映画会社は現れず、製作資金を作るために貯金をはたいて同じテーマの短編『SKIN』を製作。大きな反響を呼び、資金調達に成功しただけでなく、2019年アカデミー賞・短編映画賞を獲得している。
 
短編の出来が良すぎた。フィクションならではのストーリーだから当然か。いずれにしても、長編も短編と同じく、憎しみと怒りの連鎖が悲劇を生み、自分自身に還ってくる因果応報譚ではある。それは白人至上主義がテーマの『アメリカン・ヒストリーX』を彷彿とさせるが、この名作には及ばず、という印象だ。なお、『アメリカン・ヒストリーX』の製作年を改めて確認してみると1998年であり、22年の月日が経っても変わらない、あるいはヘイトが加速しているような現状にいささか失望させられる。ついでに22年の月日が、同作で弟を演じたエドワード・ファーロングの美貌を完全に損なわせたことを知り、時間とは残酷なものだなと。薬物乱用は ダメ。ゼッタイ。
 
さて、米国にはKKKやネオナチ、オルト・ライトなど1000以上のヘイト団体が存在するという。本作の主人公、ブライオン・ワイドナーは14歳でスキンヘッドになり、16年間ものあいだ、アメリカ中西部で暴力的な人種差別活動に携わった。おそらく様々な理由であろう、家を飛び出し行き場を失った子どもたちが、白人至上主義者に言葉巧みに拾われ、居場所や食べ物と引き換えにその思想に取り込まれ、レイシストに育て上げられる様子が、本作中にも描かれている。そして、その子どもたちが大人になると働かせて経済的に搾取するのだが、その洗脳と支配の構図が映し出されているのは興味深い。
 
ただ個人的には、レイシスト集団「ヴィンランダーズ」、転向する人の手助けをする反ヘイト団体「One People’s Project」の活動実態をもう少し掘り下げてほしかった。また、実話に基づいていると、その事実が「ある」前提で物語が組まれるからか、シングルマザーのジュリーと恋に落ちる必然性が見当たらない。全身にタトゥー刻むほどのアイデンティティを捨てさせるような愛が育まれていたの!?どこで!?というくらい説得力がない。そしてタトゥー除去の様子が冒頭から挿入されるので、無事に団体と決別できた未来が約束されてしまって、ブライオン一家の逃亡劇もどこか緊張感を削ぐ。と言うわけで、映画としては全体的に詰めの甘さが否めないが、この世界で現実に起こっていることを知るきっかけとしては、観るに値する作品だろう。
 

trailer: