銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】記者たち 衝撃と畏怖の真実

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-22
『記者たち 衝撃と畏怖の真実』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

イラク戦争大義名分となった大量破壊兵器の存在に異を唱え、真実を追い続けたナイト・リッダーの記者たちを描いた社会派ドラマ。『スタンド・バイ・ミー』などで知られるロブ・ライナーが、監督、製作のみならずワシントン支局長役を自ら演じ、2003年のイラク戦争開戦時から構想していた企画を実現させた。『スリー・ビルボード』でアカデミー賞助演男優賞にノミネートされたウディ・ハレルソン、『X-MEN』シリーズなどのジェームズ・マースデン、『ハリソン・フォード 逃亡者』などのトミー・リー・ジョーンズらがナイト・リッダーの記者を熱演し、ジェシカ・ビールミラ・ジョヴォヴィッチらが脇を固める。
 

あらすじ

2002年、アメリカのジョージ・W・ブッシュ大統領は大量破壊兵器保持を理由に、イラク侵攻に踏み切ろうとしていた。疑念を抱いていた新聞社ナイト・リッダーのワシントン支局長ジョン・ウォルコットは、部下のジョナサン・ランデーとウォーレン・ストロベル、元従軍記者でジャーナリストのジョー・ギャロウェイに取材を指示。大量破壊兵器保持の証拠は存在せず、それが政府の捏造、情報操作である事を突き止めていく。NYタイムズ、ワシントン・ポストなどの大手新聞をはじめ、アメリカ中のメディアが政府の方針を追認し、かつてないほど愛国心が高まった世間の潮流のなか、ナイト・リッダーは孤立していくが...
 

かんそう

さすが、名匠ロブ・ライナーの仕事である。面白いという表現を使うのは少々憚られるが、実に面白かった。クリスチャン・ベールが特殊メイクでチェイニー副大統領を演じた『バイス』など、悪名高きイラク戦争の真実を暴く作品が次々と公開されている。米英を中心とした連合国軍が「イラク大量破壊兵器保有している」という大義名分のもと、武装解除サダム・フセイン政権打倒を目的としてイラクへ軍事介入したが、のちに大量破壊兵器が発見されることはなく、捏造された情報であったことが明らかとなった。当時、大手メディアが軒並みジョージ・W・ブッシュ政権に迎合するなか、唯一異を唱えた新聞社があった。それが「ナイト・リッダー」であり、世に真実を伝えようと執念を燃やす記者たちの姿を映し出したのが本作だ。もっと難解でシリアスな作品を想像していたが、案外取っ付き易く、終始興味深く観た。実際、セリフを追うのが大変だが、ユーモアとロマンスが程よく散りばめられており、それぞれの登場人物にも親しみやすい。政府の広報機関に成り下がることを固辞し、逆境に屈することなく信念を貫き通した記者たちが、真実を伝えるため奔走し葛藤する姿が活写される。プライドをかけて仕事を全うするその姿が心を打つ。そして彼らのドラマと交差するように、戦争に突入する母国を憂い入隊を志願する1人の息子、その息子を戦場に送り出す家族の物語が紡がれる。この愚かな戦争によって払われた犠牲の一端を垣間見ることで、アメリカ政府が犯した罪の深さが浮き彫りとなり、怒りと哀しみが幾重にも折り重なって胸に迫り来るのだ。日本政府は、米国の「フセイン政権が大量破壊兵器の開発を続けている」という嘘とイラク戦争を支持し、米軍の物資や人員の輸送を支援し自衛隊を派遣した。少なくとも我々は関与していた、ということを忘れてはいけない。