銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’19-04
ライ麦畑の反逆児 ひとりぼっちのサリンジャー』(2017年 アメリカ)
 

うんちく

世界的ベストセラー「ライ麦畑でつかまえて」の著者J・D・サリンジャーの知られざる半生を描いたドラマ。『大統領の執事の涙』などの脚本で知られるダニー・ストロングが、評伝「サリンジャー 生涯91年の真実」の映画化権を自ら取得し、アカデミー賞作品賞の製作陣とともに創り上げた。『アバウト・ア・ボーイ』の子役で知られ、『X-MEN』シリーズなどに出演しているニコラス・ホルトサリンジャーを演じ、オスカー俳優ケヴィン・スペイシー、『ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書』などのサラ・ポールソンらが共演。
 

あらすじ

1939年、ニューヨーク。コロンビア大学の創作学科に編入した作家志望のJ・D・サリンジャーは、大学教授ウィット・バーネットのアドバイスで短編小説を書き始める。出版社への売り込みを悉く断られる一方で、劇作家ユージン・オニールの娘ウーナと恋に落ち、青春を謳歌していた。ようやくニューヨーカー誌への掲載が決定した矢先、第二次世界大戦が勃発。召集により戦地に赴いた彼は最前線で地獄を経験することになる。終戦後、そのトラウマに苦しめられながら執念で書き上げた初の長編小説「ライ麦畑でつかまえて」は、賛否両論を巻き起こしながらベストセラーとなり、サリンジャーは一躍スターダムに押し上げられ、名声を欲しいままにするが...
 

かんそう

「生涯をかけて語り続ける覚悟はあるか?」とケヴィン・スペイシー演じる大学教授で編集者のウィット・バーネットが、若き日のJ・D・サリンジャーに問う。メモを取りたくなるほど含蓄ある会話の応酬に魅了され、「ライ麦畑でつかまえて」誕生の背景となるドラマチックなサリンジャーの半生を殊更ドラマチックに映し出す演出と構成によって、孤高の天才の物語にぐっと引き込まれた。それは実に興味深く、映画として素晴らしかった。すっかり彼のファンになってしまった私は、劇場を出たその足で紀伊國屋書店の新宿本店に向かった。――そう、私は、「ライ麦畑でつかまえて」を読んでいない。1951年に発売されるやいなや話題を呼び、10代の孤独や鬱屈を表すスラング混じりの粗野な口語文体が若者の熱烈な支持を得る一方、保守層からは反道徳的との批判を浴び、多くの学校や図書館で禁書として扱われ、全世界発行部数累計6500万部突破、30カ国語に翻訳され、現在も世界中で毎年25万部ずつ売れ続け、青春小説の名作として読み継がれている20世紀の大ベストセラーを読んでいないのである(ドヤ)。そして村上春樹訳じゃないほうを手に取り、おもむろに最初の数ページを流し読みし、そっと元の場所に戻した。今の私には、大人社会の欺瞞をからかい純粋無垢なるものを求める16歳の主人公ホールデンに共感できる自信がない。もうちょっと歳をとって何もかもを超越してから読むことにする。ちなみに、サリンジャーは今年、生誕100周年を迎えた。彼の生前は本人の意思によって、その謎に満ちた半生について語ることが一切許されなかったそうだ。また、本人の遺志により現在出版が許されているのは「ライ麦畑でつかまえて」の他4冊の短編集のみ。いつか全て読んでみようと思う。なお、彼の小説を読破していなくても映画を楽しむことはできるが、その存在と社会に与えた影響、物語のあらすじなど教養レベルの知識はあったほうがいいと思われる。