銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ホドロフスキーのサイコマジック

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映画日誌’20-19:ホドロフスキーのサイコマジック
 

introduction:

『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』で知られる鬼才アレハンドロ・ホドロフスキー監督が、自身が考案した心理療法「サイコマジック」について語る集大成的作品。フランスのシンガー・ソングライターアルチュール・アッシュをはじめ、実際にホドロフスキーのもとに相談に訪れた10組の人々が出演し、「サイコマジック」がどのように実践されてきたかを描く。そして、これまでの映像表現に「サイコマジック」がどう作用してきたのか、過去作や実験的映像を用いて解き明かされていく。(2019年 フランス)
 

story:

心理療法「サイコマジック」を考案したアレハンドロ・ホドロフスキー監督のもとに、悩みを抱えた10組の人々が訪れ、その処方を受ける。父親から虐待され、自殺寸前まで追い込まれた男性、母親の愛を受けずに育ち、自分が母親になる自信がない女性、夫婦関係の危機に直面した男女、自分の女性性と男性性の調和に悩むチェロ奏者、結婚式の前日にスカイダイバーの婚約者が自殺した女性、吃音症に悩む男性、今も亡き父との関係に苦悩するミュージシャン、アルチュール・アッシュ...。
 

review:

アレハンドロ・ホドロフスキーはチリ出身の映画監督、俳優、劇作家、詩人、作家、音楽家、バンド・デシネ作家、スピリチュアル・グル、タロティスト。もはや何者かよく分からない。いっそ、職業:ホドロフスキーって書いておけよと思う、御歳91歳の生きる伝説である。
 
1970年、ニューヨークで深夜上映された二作目の監督作品『エル・トポ』が、ジョン・レノンアンディ・ウォーホルなどカウンター・カルチャーを代表する著名人から強烈に支持され、カルト映画の金字塔となった。ビートルズの事務所社長アレン・クラインが次作の制作資金100万ドルを提供し、1973年『ホーリー・マウンテン』を発表。公開後3日で打ち切りになるという神話を残し、彼の作品は「よく分かんないけど面白いって言っておけば一目置かれそうな前衛的かつ寓話的で難解な映画」というサブカル男子の試金石となり、ホドロフスキーは寡作ながら“カルトムービーの鬼才”として映画史に名を残す存在となったのだ。
 
『エル・トポ』『ホーリー・マウンテン』の狂気と美学がどこから来るのか。自身のルーツを掘り下げた自伝的映画『リアリティのダンス』(2013)、『エンドレス・ポエトリー』(2016)を観れば、ホドロフスキーのことが少しは分かるかもしれない。抑圧的で支配的な父親、人生を嘆いて歌うように話す母親。道化、占い師、フリークスたち。ホドロフスキーの瑞々しい感性で描かれる、生々しく幻想的な、残酷で美しい、生き死にの全て。芸術や倫理すら超越するその創造性は唯一無二にして、まるで魔法のようだ。
 
ホドロフスキーは本作で、自身のこれまでの作品での映像表現がいかに「サイコマジック」という技法によって貫かれているかを解き明かしていく。ドイツの精神分析学者エーリッヒ・フロムとともに精神分析を学んだホドロフスキーは、「サイコマジック」という心理療法を考案し、自身をフロイトと対置した上で「科学を基礎とする精神分析的なセラピーではなく、アートとしてのアプローチから生まれたセラピーである」と語る。”言葉”ではなく”行為”で人々の無意識に訴えかけ、遮るものを解き放ち、癒しをおこなうと言うのだ。
 
ずっと不思議だった。なぜ、ホドロフスキーの映像世界にこんなにも心を鷲掴みにされ、幸福感に胸が震えて泣きそうになるのか。私自身も、無意識のうちに「サイコマジック」のセラピーで救われていただけなのか。ただそれだけを目の当たりにした。映画として面白かったかどうかなんて分からないし、そんなことはもはや、どうでもいいのである・・・。
 

trailer: