銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】500ページの夢の束

劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’18-60
500ページの夢の束』(2017年 アメリカ)

うんちく

JUNO/ジュノ』『マイレージ、マイライフ』のプロデューサー、ダニエル・ダビッキが惚れ込んだマイケル・ゴラムコの脚本を、『セッションズ』で高い評価を受けたベン・リューイン監督が映画化。自閉症の女の子が、大好きな『スター・トレック』の脚本コンテストのためにハリウッドを目指す姿を活写する。主演は『I am Sam アイ・アム・サム』で天才子役の代名詞となり、最近では『ブリムストーン』などで高い演技力が評価されているダコタ・ファニング。『リトル・ミス・サンシャイン』のトニ・コレット、『スター・トレック イントゥ・ダークネス』のアリス・イヴらが共演している。

あらすじ

自閉症を抱えるウェンディは、たった一人の肉親である姉と離れ、ソーシャルワーカーのスコッティにサポートされながら自立支援ホームで暮している。『スター・トレック』が大好きで、並外れた知識を持つ彼女の楽しみは、自分なりの『スター・トレック』の脚本を書くこと。ある日、『スター・トレック』脚本コンテストが開催されることを知ったウェンディは、渾身の作品を書き上げる。しかし、郵送では締め切りに間に合わないことに気付き、愛犬ピートとともにハリウッドまで数百キロの旅に出ることを決意するが...

かんそう

天才子役と世界中の称賛を集めながら、ここ最近は妹エルの活躍の陰に潜んでしまったような印象のダコタだったけど、やはり彼女は素晴らしい俳優である。今回彼女が挑んだのは、スタートレックをこよなく愛する自閉症のウェンディだ。前作『セッションズ』で障害者の性という”タブー”を爽快に描いたベン・リューイン監督の手腕によって、自閉症を抱える人が「普通の」暮らしをすることに少々の困難が伴うことが作品の冒頭で描かれ、ダコタの好演も相俟って自然とウェンディに心が寄り添うようになっている。不測の事態に対処出来ず癇癪を起こしたり、人と目を合わせて話すことが苦手だったり、適切な距離でコミュニケーションを取ることが難しいことの描写で、ウェンディが単独で遠出することの大変さが理解できる。それでも彼女は勇気を振り絞り、ハリウッドまでの数百マイルを旅立つ。大好きなスタートレックと、唯一の肉親である姉への思いを込めて書き上げた脚本を、パラマウント社に届けたい一心で。自分が大好きなことに没頭すること、ひとつ事を成し遂げること、人生はうまくいかないことばかりだけど、それでも自分の思いを貫くこと。日々に忙殺されていると、どこかに置き忘れてきてしまう大切なことを、ふと思い出させてくれる。幾度となく立ち上がるウェンディに自分を重ね合わせて、思わず気持ちが奮い立つ。ちょいちょい出てくるスタートレックネタにクスリと笑わされ、暖かい気持ちになる。エンタープライズ号の制服を着てるワンコがかわいいし、終盤に登場する警察官とのやりとりが最高。カーク船長、スポック、ドクターマッコイのことを知っていたほうが楽しめるけど、たとえスタートレックを全く知らなくても、作品のなかでその魅力をきっちり伝えてくれるので大丈夫。ユーモアと愛に溢れ、否応無しに幸せな気持ちになれる、愛すべき作品。