銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】ペイン・アンド・グローリー

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映画日誌’20-21:ペイン・アンド・グローリー
 

introduction:

『オール・アバウト・マイ・マザー』『トーク・トゥ・ハー』などで知られるスペインの巨匠ペドロ・アルモドバル監督が、長年タッグを組んできたアントニオ・バンデラスを主演に迎えた自叙伝的ドラマ。アルモドバルのミューズ、ペネロペ・クルスほか、『あなたのママになるために』などのアシエル・エチェアンディア、『エンド・オブ・トンネル』などのレオナルド・スバラーリャのほか、ノラ・ナバス、フリエタ・セラーノらが共演。2019年・第72回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞。第92回アカデミー賞でも主演男優賞、国際長編映画賞にノミネートされた。(2019年 スペイン)
 

story:

映画監督として世界的に活躍していたサルバドールは、脊椎の痛みから生きがいを見出せなくなり、心身ともに疲弊していた。引退同然の生活を余儀なくされていた彼は、頻繁に過去を回想するようになる。母親のこと、幼少期に移り住んだスペイン・バレンシアでの出来事、マドリッドでの恋と破局。そんなある日、彼のもとに32年前に撮った作品の上映依頼が届く。思わぬ再会が、心を閉ざしていた彼を過去へと翻らせていくが...
 

review:

スペインの巨匠ペドロ・アルモドバルについては、息子を失った母親を描いた『オール・アバウト・マイ・マザー』、昏睡状態に陥った女性たちを取り巻く物語『トーク・トゥ・ハー』、血の繋がった三世代の女性たちを描いた『ボルベール〈帰郷〉』の「女三部作」も素晴らしかったが、個人的には、アルモドバルの変態性がくっきりと炙り出された『私が生きる肌』が好きだ。狂気と官能にまみれ、残酷で滑稽なのに隅から隅まで美しい。マスク・オブ・ゾロのねっとりした視線すら、芸術的である。
 
淡々と深みを湛えた語り口で、どこか破綻しながらも生きていこうとする人間の愛おしさ、不完全なる人生の可笑しみを描かせたら天才的であるし、緻密に計算された構図、画角をいろどる鮮やかな色彩、丁寧で美しい演出のすべてに終始目を奪われてしまう。アルモドバルの「赤」に魅せられたいちファンとして、本作の公開をとても楽しみにしていた。という前置きをしつつ、正直に言おう。た、退屈!!!特に前半が退屈!睡魔襲ってくるやんけ。これは由々しき事態。まあ、アルモドバルにはたまに裏切られてきたので(『アイム・ソー・エキサイテッド!』とか)驚きはしないけど、ペネロペさんがスペインの肝っ玉母さん演じている系のアルモドバル作品で退屈するとは何事ぞ。
 
なぜか考えてみる。淡々とした語り口はいつものことだが、どことなく画に力がない。たぶん、これが一番の理由だろう。いつも、強烈なインパクトを残すアルモドバルの映像に魅了されていたからか、どこか精彩を欠いていたように感じてしまう。たくましく生きる女性たちの姿、時代に抑圧されたセクシュアリティ、母と子の絆という、アルモドバルが一貫して描き続けてきたテーマがぎゅっと凝縮されているが、どうにもまとまりがなく、吸引力がない。ものすごく集中力が必要だったのかもしれない。たまたま、観たときの心身のコンディションが悪かったか、相性が悪かったのだろうなぁ。
 
振り返ってみれば、もしかすると素晴らしい映画体験だったのかもしれない、と思うからだ。過去の輝きは、今となっては痛みであり、サルバドールを苦しめ続けるが、思いがけず過去と向かい合い、そこにあった愛を知ることで、人生を修復していく。アルモドバルは、絶望と幸福を同時に紡ぎ、想像だにしなかったエンディングに観客を連れていくのだ。やっぱりこの奇才はとんでもないなぁ、と思いつつ、あえて身も蓋もないことを言うならば、そもそもストーリー自体がそんなに面白くなかったんじゃないかと思っている。だって眠かったもん!!!アルモドバルが好きな人にはおすすめ。映画をたまにしか観ない人には勧めない。とか言いながら、アルモドバルが新作を撮れば、きっとまた、観るのだろう。
 

trailer: