銀幕の愉楽

劇場で観た映画のことを中心に、適当に無責任に書いています。

【映画】オン・ザ・ミルキー・ロード

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劇場で観た映画を適当に紹介するシリーズ’17- 54
オン・ザ・ミルキー・ロード』(2016年 セルビア,イギリス,アメリカ)
 

うんちく

アンダーグラウンド』『黒猫・白猫』などを手掛け、カンヌ国際映画祭ベルリン国際映画祭ベネチア国際映画祭の世界三大映画祭を制覇したエミール・クストリッツァ監督が、9年ぶりにメガホンを取った人間ドラマ。戦争の混乱のなかで恋に落ち、逃避行を繰り広げる男女が辿る数奇な運命を描く。イタリアを代表する大女優モニカ・ベルッチをヒロインに迎え、監督・脚本だけでなくクストリッツァ自らが主演を務めた。クストリッツァ監督の息子ストリボール・クストリッツァが音楽を手掛ける。
 

あらすじ

隣国と戦争中のとある国。右肩にハヤブサを乗せたコスタは、毎日銃弾をかいくぐりながらロバに乗って前線を渡り、戦線の兵士たちにミルクを届けている。戦火のなかにあっても、美しく活発なミルク売りの娘ミレナに想いを寄せられ、呑気な日々を暮らしていた。ある日ミレナは、村の英雄である兵士の兄のため、花嫁となる女性を迎える。戦争が終わったら2人を結婚させ、同時に自分もコスタと結婚する計画であった。ところがコスタは、その謎めいた美女と恋に落ちてしまう。そして彼女の過去が原因で村が襲撃され、コスタは美女とともに村を飛び出し、危険な逃避行へと身を投じていく...
 

かんそう

鬼才クストリッツァ監督の怪作だ。激しい戦火のなかで繰り広げられる壮大な愛の逃避行。モニカ・ベルッチの美しさと言い、まるで節操がなく、破天荒で無茶苦茶だ。だが私は、アキ・カウリスマキらのひどく端正な作品を好む反面で、生々しく幻想的な、残酷で美しい生き死にの全てを赤裸々に描くアレハンドロ・ホドロフスキーを愛してやまないように、クストリッツァのこともすんなりと受け入れてしまう。夢想と寓話を散りばめることで、過酷な現実とのコントラストを強くする。混沌と喧騒のなか、動物たちは躍動し、人々は歌い踊る。戦火に焼かれる羊たちの群れは、忌まわしき戦争の犠牲となった名もなき人々のメタファーだろう。人生は愛に充ち、あまりにも愚かで美しく、滑稽だ。そして物語の果てに男が辿り着く、深い祈りを讃えたラストシーンに胸を打たれる。天才の所業としか言いようがない。